一話「1888年」
昼食時は静かな環境に身を置きたいのだが、相も変わらず周囲は騒がしい。何が楽しいのか、甚だ疑問でならない。
登校時に買ったジャムパンを頬張りながら、音楽プレイヤーを家に忘れたことをひどく後悔する。昨日発売されたCDの曲を入れる為パソコンに接続し、そのまま置き忘れているらしい。
近くの奴らの会話などしたくなくとも脳内再生されてしまうこの非常時に、救いの手を差し伸べてくれる救世主は今いない。お弁当でも買えば、割りばしと共に爪楊枝が手に入ったのにと、自責の念が募って止まない。鼓膜の犠牲程度で済んだ筈だ。
そして気づいてしまった。騒音だけじゃない。視線という凶器を携えた害虫もいた。(いつもはイヤホンしてるから話かけ辛いけど、今日なら「一緒に食べようよ。」っていえるかも)ってな具合に考えてる、良い子ちゃんポジのタイミングを窺う視線が。
さっさとパンを詰め込み席を立つのが一番だと判断した。しかし気になる話題があり椅子から腰を上げるのを躊躇した挙句、中途半端な姿勢で硬直してしまった。
「狩人って、知ってるか?」
いつも教室に一人きりでいる俺の耳にも、その噂は度々やって来る。
「ああ?んだそれ。動物を捕まえて生きてる奴らっしょ、そんなん」
面白味に欠けたこんな話でも広まるのには訳がある。
「違う違う。俺が言ってる奴らは人間を狩るんだよ。しかもスゲー武器持ってるらしいぜ」
奴らは実際に存在するからだ。。
「ふ~ん。それよりさ、今週のゾンプ見た?」
途中で止めていた動作を再開し席を後にした。大した情報なんてこいつらは持ってない。そう判断したからだ。狩人とは世間が呼ぶ名に過ぎない。奴らの本当の名前は白という。俺の弟を殺した奴らを、俺は探している。
一言お礼が言いたくて。