02
次の瞬間だった。
「いやーこちらこそよろしくです」
僕が躊躇していると、どこからともなく深月が間に割って入ってきた。
“助かった”
僕の困惑など何も知らずに深月が川井有希の手を両手でがっしりと握って上下に振っている。
「え、えっと」
川井有希にあっては急に現れた大男に手をがっしり握られ戸惑っているようだった。僕は深月の名前を呼んで、深月を彼女から引き離す。
「川井さんが困ってるだろ」
「そんなこと言ったって、川井さんが握手しようってのにお前がしようとしないからだろ」
握手に躊躇してしまった事実に言葉が詰まる。
「それはだな……」
「わかってるって。川井さんが可愛すぎて意識しちゃったんだろ」
普段はそんなにちゃかしてくる奴じゃないくせに。
「先生、来たぞ」
僕は教室のドアの方を一瞥したのちに着席する。深月は慌てて自分の席に戻る。深月は自分の席に戻るまでに何人かの席にぶつかっていた。そんな光景をを見ると大きいというのも考え物だなと考えてしまった。
「神原くん」
小さな声で隣に座る彼女が手を振っていた。
それを見て、僕は少し手を挙げて返事にした。
クラスの担任は自己紹介も簡単に入学式の要領の説明を始めた。説明を終えた後、廊下に出て整列する。中学からの知り合いと楽しそうに話す奴、整列順が前後というので盛り上がってる奴。自分と同じ中学出身者は決して少なくはないが、余り関わってこなかったのもあって話すような奴はいない。深月を探す。もう前後の奴等とは打ち解けたらしく楽しそうに話している。川井有希の姿が視界に入る。女子二人と楽しそうに話している。
“見つけた”
その瞬間、背中に悪寒が走った。
振り向いたがこちらを見ている生徒は一人もいなかった。自意識過剰……なのか、自分。そんなことを考えてしまう。
入学式は滞りなく終了し、あとは担任からの学校生活の説明に終始し、一日の日課が終了した。
下駄箱から、靴を取り出し一人帰ろうとしていたら、「おひさ」と女子に話しかけられた。その女子の足から頭のてっぺんまでをさっと眺める。足元は一年生の色の上履き、スカートはひざちょい上、胸はまあそこそこ、髪は肩につくかつかないくらいで目は大きい。川井有希とは対照的で、はつらつと言った感じの見た目である。
「あの……どなたですか」
見覚えのない彼女に僕は答える。
「……まじで言ってる?」
彼女の表情が曇る。
「まじ」
僕は遠慮気味に答える。
彼女がため息をつく。やっぱりねという表情である。
「期待した私が馬鹿だったか」
彼女はそう言った。
「初対面で馬鹿とは何だよ」
僕は言い返す。
「これまでのやり取り考えて初対面じゃないってことくらいわからない?」
彼女はなかなか名前を名乗らない。僕は上履きに名前を書かなければいけないというルールを思い出し、さっきは流してみてしまった上履きを再度、確認する。
藤崎と書いてあった。
……。
……。……。
……。……。……。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ」
僕は初めて出すような声を出した。
「やっと思い出したか」
彼女……いや、藤崎ひとみは得意げな笑みを浮かべていた。