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01

 滑り止めを受けずに、志望校一本のみで挑んだ高校受験。もしここに落ちたらこれからどうなるんだろう。必死に滑り止めを受けるように言っていた担任教師はほらみたことかと嘆息をもらすに違いないだろうな。

 3月中旬、自分の頭の中にはこんな悩みばかりでいっぱいだった。傍からすれば、たかが高校受験でなにを馬鹿なことを悩んでいるんだと思う人も多いにいるだろう。しかし、それは高校受験を一度経験した、うまくいったひとが思うことであって、当事者である自分たちには死活問題だったのだ。

 僕がここで過去形を使ったのは自分にとってそれが既に過去のものとなり、悩みの対象ではなくなったからだ。無事合格して済んでしまえば悩んでいたころの気持ち何てどうでもいいのだ。人の悩みには万人が共感するものもあるが、たいていは他人の悩みなんてどうでもいいことばかりで、関わるだけ損である。ほうっておいても勝手に時が解決してくれるのだから。僕はある時からそう思って生きてきた。


 僕は、他人の手を通して他人の悩みがわかってしまうこんなややこしい能力ちからなんていらなかった。望んでいなかった。


 4月になり、僕は皆月高校みなづきこうこうに入学した。皆月高校の偏差値は平均より少し上といったところである。しかし、中学の成績が平均以下だった僕にとっては高き壁であった。しかし、冬からの一日10時間のもう勉強の甲斐あって無事合格を果たし、入学できたのだ。

「二組、二組……」

 僕はドアの上のプレートを見ながらつぶやく。校舎の入り口に張り出されていたクラス分けに従い教室を探す。

「お。カーやんやっと来た」

 二組と書かれたプレートの下のドアから中沢深月なかざわみづきが出てきた。名前から女性と間違われやすいが、身長180cm、空手初段のがっしりした体躯をした雄々しい男の中の男とでもいうべき奴で、詐欺もいいところである。しかし、こいつと仲が良かったおかげで僕は中学時代、一人にならず、クラスでも深月の親友らしいということで人間扱いされた。らしいというのは周りも自分も果たして自分が深月の親友なのか本人に聞いたことがないのと本人は誰とでも仲良くなれる性格のためで、中学入学直後、先輩の不良グループに目をつけられた深月だったが、返り討ちにした事実が深月を別格扱いさせ、その友人にも気をつけろという流れがあり、僕はその恩恵を与って中学時代を過ごしたのであった。なぜか僕のことをカーやんと呼ぶ。

「中学では同じクラスになれんかったけど、今度は最低でも一年間一緒だぜ」

 大きな口を開き、歯を覗かせ笑って深月は言った。

「そりゃよかった。一年よろしく」

 深月のほうに軽く手をあげて、教室の中に入り、黒板の座席表を確認する。

「一番後ろの窓際……わるくない」

 小声でそんなことを言っていると後ろに深月が立ってきた。

「俺の席は……っと、教室のど真ん中か」

 深月は嬉しそうに言った。

「また難儀な席になったな」

 僕は振り返らずに言う。

「そうでもないさ。八方を囲まれているってことはそれだけ友達作れるってことだからな」

「お前のポジティブさに僕は到底ついていけそうにない」

 そう言うと僕は自分の席である一番後ろ、窓際の席に向かった。

 机の上に鞄を置き、椅子に腰を下ろす。

「神原くん……でよかったよね」

 その声の方、斜め後ろを振り返った。

 思わず、あっと言いそうになったが堪える。透き通るような白なのに、病弱さ、か弱さを感じさせないその表情には生命力が満ち溢れいてるかのようだった。腰まである長い黒髪もその白との対比を一層はっきりさせる。

「私の顔になにかついてる?」

「いやなにも」

 僕は慌てて彼女の姿に見とれていたことをごまかした。

「な、なにか用?」

「用ってほどでもないんだけど、隣の席になったからよろしくねって言おうと思っただけなんだけど」

 彼女は微笑みながらそう言った。

「あぁ……」

 僕は俯いて苦笑いをするしかなった。

「ごめん、ごめん。笑いすぎちゃったかな。改めてだけど、川井有希かわいゆうきです。隣の席ってことでしばらくの間よろしくね、神原くん」

 そう言うと彼女は無邪気な笑顔で僕の前に握手を求めて手を差し出した。

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