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プロローグ
五月半ばのある日、その手の勢いとは裏腹にとても地味な音が廊下に響いた。
「あなたには関係ないことでしょ!」
廊下にいた僕たちの異変にクラスメイトたちの好奇の目が集まった。それもそのはずである。クラスで一番の美人とこの地味な僕が二人きりで会話していること自体ですら珍しいのだから。それに加えてこのもめごとである。
じんと痛みが響く頬をのほうに目を一度を向けたあと、僕は目の前に立つ涙目で必死にこっちをにらみつけてくる彼女に視線を戻した。
僕は一呼吸を置いたあと、こう言った。
「そうかもしれない。でも、僕は気付いて……いや知ってしまった事実からはもう目をそらさないと決めたんだ。だから、お節介と言われようとも君を助けたいんだ」
「なにそれ……馬鹿じゃない」
彼女は小さな声でそう言うと、向きを変え立ち去ってしまった。クラスメイトたちは何が起きたのかわからず呆然としている様だった。
そんな時だった。
「ぼうっとしてないで行くよ、ほら」
隣のクラスのその少女はそう言うと僕の手を握って走り出した。