4th Game 『真実』
「えっ、総一君?」
麗佳はそのとき、何があったのか分からなかった。
ただ麗佳の目の前には、腹部からものすごい血を流し
倒れている総一の姿があった。
「総一君!、しっかりして総一君!!」
麗佳は倒れている総一のそばに座り、揺さぶったり、声を掛けた。
しかし、麗佳の問いかけに総一はピクリとも動かなかった。
どうしよう、このままでは総一君が!!
「死んじゃだめよ!!。お願い総一、目を覚ましてよ!!」
麗佳は必死に叫びつづけた。
その間にも、総一の出血はどんどん酷くなっている。
どうする?。このままだと……
そうだ!!
これなら!
麗佳は自分の両手を総一の傷口に添えた。
麗佳には考えがあった。
今までは一回も使ったことはないけど…
できるはずだ!
私なら……。
お願いよアルカナ!!
総一君を…
そして自分の両手に力を込めた。
「総一を助けて!!!]
その瞬間。
麗佳の手に光が集まり、総一の傷がみるみる内に治っていく。
よかった。できた!!
腹部からの出血もとまっていた。
麗佳は光が消えていった手から力を抜き、総一を揺さぶってみる。
「総一君、大丈夫?」
優しく問いかけたが、総一は言葉では答えなかった。
代わりに、かわいらしい寝息が聞こえてきた。
麗佳はほっと一安心した。
「全く……。この子はいったい何を考えて…」
麗佳はわかっていた。
私を助けるために、総一が私の盾になってくれたことくらい。
まだ全然、私のこともしらないのに。
それでも総一は命を懸けて守ってくれた…
「やっぱり、総一君なら……」
そして麗佳は気持ちよさそうに寝ている総一の顔を見た。
麗佳は決めた。
「総一なら。信じれる……」
そう呟くと、総一に微笑みかけた。
総一は薄れ行く意識の中、誰かの声を聞いた。
誰だ。?
誰かが俺を呼んでいる。
いったい貴方は誰なんだ?
声の主は分からなかったが、とても温かい声であった……
「つぅ~~」
「総一?。大丈夫?総一!」
総一は少しずつ覚醒していく意識の中、この声の持ち主がすぐに神崎さんだと分かった。
あれ?俺生きてる?
「神崎さん?」
目が完全に開いたとき、
最初に見たものは神崎さんだった。
「よかった!ようやく気がついた。」
「すいません。ここはどこですか?」
総一は混乱している頭を必死に整理しようと、
そう神崎さんに質問をした。
見る限り、部屋のベットで寝ているようだが…
「ここは、保健室よ。先生に言って開けてもらったの。」
すこしあたりを見渡すと、確かにここは保健室だった。
ということは、屋上からここまで運んでくれたのか。
「下の階にいた生徒さんに手伝ってもらったの。」
「そうですか。あとでお礼を言いにいかないとな~」
「ふ、ふ。そうね。」
神崎さんはすこし笑いながら返してくれた。
よかった、元気そうだ。
あんなところを見られたら、すこしはショックで……
「あっ!!、そういえば俺、あのとき刺されて…」
そう思って、刺されて場所。
腹部を触ったが、傷が、ない?
なんでだ?
「ふふぅ~。だいぶ、びっくりしてるわね!」
神崎さんが、なぜか得意げな顔をしていた。
「神崎さん?」
俺がそう聞いたときだった。
急に、彼女は真剣な顔を作った。
「総一。今から話すことを真剣に聞いて。」
「えっ。あっ、はい…」
「それと、私のことは麗佳でいいから。」
「わかりました。麗佳さん。」
「麗佳でかまわないのに。」
そう言うと、麗佳さんは先ほどの笑顔を見せてくれた。
やっぱり、彼女は笑顔がかわいいな。
そんなことを、つい思ってしまった。
麗佳は今までは立っていたが、ベットのすぐ横にあるいすに腰掛けた。
「総一、まずその傷がない理由を説明するわ。」
そう言うと、彼女は自分のポケットからある物を出した。
それを見た総一は、言葉を失った。
麗佳さん、それって……。
「総一も持っていると思うけど、この携帯は…」
「これですね、麗佳さん。」
総一は自分のポケットに入っている黒い携帯を取り出した。
それは、彼女が持っている携帯と同じ種類だった。
「まさか、麗佳さんは…」
「そう、私も総一と同じArcanaの一人、9の所有者よ。」
そういうと、総一に自分の携帯の待ち受けを見せた。
そこには、総一のと同じように9のトランプの絵柄と数字が書かれていた。
まさか麗佳さんがArcanaの一人だったとわ。
総一は驚きを隠せなかったが、気持ちは複雑だった。
「驚いた?」
そう言うと、彼女は総一の顔を覗き込んできた。
あたり前ですよ、麗佳さん。
「そりゃ、驚きましたよ。」
その答えを聞くと、小悪魔みたいな笑顔を見せてきた。
本当にこの人は、もう。
「それで、これからが傷の話。」
そしてまた、真剣な顔で話しをしてきた。
「総一も知っていると思うけど、Arcanaには超能力が使えるようになって
いるの。そして私の能力は、治癒能力。その能力を総一に使ったことにより、」
「俺についていた、傷が治癒されたってことですか。」
「そういうことになるわ。」
なるほどね~
それで、傷がないわけだ。
総一は実際にArcanaの超能力を体験しているので
すぐに納得することが出来た。
「てことは、俺は麗佳さんに助けられたってことですね。
本当にありがとうございます。」
総一は深々と頭を下げた。
「そんな、気にしないでよ!
実際はお礼を言いたいのは、こっちなんだから!!」
「えっ?」
総一にはその意味が分からなかった。
う~ん、なにかしたっけ?
「屋上のときは、私を守ってくれて、
本当にありがとう、総一。」
「あぁ~。そのことは気にしないで下さい。
実際、刺されただけでしたし。」
総一は笑いながらそう言った。
あの時のことね……
しかし、ホントに間に合ってよかった。
少しでも遅れていたら、アウトだったよ。
それは、屋上での出来事。
総一はあの時、左目から未来を見ることに成功していた。
左目から、映像がどんどん映し出された。
黒木の次の行動。麗佳さんが来るタイミング。
その未来を見ることができたから、黒木よりも早く行動することが出来たのだ。
まぁ、結果は盾になることしかできなかったけど。
そのおかげで、救えることが出来たのだから本当に助かったよ、Arcana。
「そういえば、黒木はどうなりました?」
屋上でのことで、思い出した。
今まですっかり忘れていたよ。
「黒木君って言うのね……。となりのベットに寝ているわ。」
総一は気づかなかったが、隣のベットには、たしかに誰かが寝ていた。
カーテンで誰が眠っているのかは分からないが、きっと黒木だろう。
「そうだ!。麗佳さん黒木は実は、」
「わかってる。そのことについて今から話すわ。
よくきいてね。」
「わかりました…」
麗佳はそう言うと、自分の黒い携帯を操作し始めた。
そして、表示された画面を見せてきた。
「麗佳さん…。これってどう言うことですか?」
総一は画面の文字を読み、そう麗佳に聞いたのだった。
それはルールの欄であった。
フェイク ジョーカー
このゲームではJOKERに似た存在、フェイク ジョーカーが存在します。
フェイク ジョーカーとはランダムで一般市民に携帯が配布され、その携帯を受けとった人は、フェイク ジョーカーとなりアルカナを殺害しようとします。
なお、フェイク ジョーカーはJOKERと似た存在であるため、携帯では識別できません。
フェイク ジョーカーの特徴は、アルカナを襲ってくると言うことだけですのでご注意下さい。
また、フェイク ジョーカーになった人は、携帯を破壊するか、一度殺すかで元の人に戻すことができます。
なお、一度殺した場合は変わりに携帯が破壊されるので、その人物が死ぬことはないのでご安心下さい。
と長々しい文書が綴られていた。
「見てそのままよ。
ちなみに黒木君はフェイク ジョーカーだったわ。携帯は先ほど破壊したのでもう大丈夫だと思うわ」
そして二つに折られた、黒木が持っていたと思われる携帯を見せてきた。
「そうですか…。ややこしいことになってますね。」
なんとか状況は理解したが、もう総一の頭はパンパンだ。
そういえば、俺の携帯にはルールの欄はなかったはずだ。
「麗佳さん?」
「どうしたの、総一?」
総一は早速、麗佳に聞いてみることにした。
「麗佳さんの携帯にはルールの欄があるのに、見て下さい。俺のにはルールの欄がないんです。」
「それね…、私のも最初はこんな欄なかったのよ。でもいつの間にか新しく携帯が更新されて、そしたら付いていたの。だからきっと総一のも、もう少したったら出ると思うわ。」
「そうなんですか。
他にはなにかないんですか?」
この件に関する情報は少な過ぎる。
他にも隠されている情報があるのなら知っておきたかった。
「ごめんなさい。私のもここまでしか、わからないの。」
「そうですか…」
麗佳は見ていた携帯を閉じた。
その顔はすこし、落ち込んでいるように見えた。
麗佳さんだってきっと最初は俺と同じ、なにもわからなかったんだ。
逆にここまで教えてくれたことに感謝しないと。
「そんなに落ち込まないで下さいよ。麗佳さんのせいではないですし。」
「ありがとう。総一。」
「つぅっ……。しぃ、しかし、本当に今は現実ですか!
超能力が使えるようになったり、身代わりになる携帯とか、普通じぁありえませんよ。」
麗佳がお礼を言ってくれた時の顔があまりにもかわいくて、
総一は照れていたことを悟られないようにと、思っていたことをつい口にした。
「残念だけど、現実よ。今の状況を受け入れなければ、私たちはいずれ殺されてしまう。」
あまりにも厳しい言葉。だが紛れもない事実だった。
早く現実を受け入れるほかなかった。
「そうですね。早く現状になれないと…」
総一はこのとき思った。
麗佳さんがArcanaだとしたら、フェイクジョーカーに狙われるかもしれないってことだ。
麗佳さんをもう一度、危険なめにあわせるわけにはいかない。
そう決心したときだった。
「総一。いきなりなんだけど、私のお願いを聞いてくれる?」
「改まって、どうしたんですか?」
麗佳は不安げな顔で総一を見つめていた。
それは総一の答えひとつで泣いてしまうような顔だった。
「私のパートナーになってくれますか?」
「えっ。」
総一はいきなりのことに変な声を出してしまった。
「いっ、いや? ほっ、ほら。
これから一緒のほうがいろいろと便利といいますか、なんといいますか…」
そんなことを言いながら、もじもじしていた。
全く……。
総一は少し飽きれながら答えた。
「麗佳さん、まさかそんなこと気にしてたんですか~?」
「そっ、そんなことって…」
「そんなこと当たり前じゃないですか。」
「えっ?」
「大丈夫です。今度はちゃんと守って見せますよ!」
「総一ちぃ~」
あぁ~あ。泣かせてしまった。
こっちが間違った答えだったか!!
それ以前に、そんなにも不安だったのか。
今まで一人できたはずだ。きっと同じ境遇の人に出会えて安心したんだろうな。
「麗佳さんって強そうに思えて、やっぱり女性なんですね。」
総一は麗佳をなだめつつ、聞こえないように小さくそう呟くのだった。
総一が目を覚ましたのは5時。
そして今は、黒木を先生にまかせて二人は教室に荷物を取りに行き
帰宅しようとしていた。
時刻は6時になっていた。
あの後、麗佳さんとはすこしおしゃべりをした。
やはり、麗佳さんもArcanaになったときのことは、よくわからないらしい。
起きたときには、携帯と武器があったという。
たぶん、Arcanaの所有者はみんな俺たちと同じめにあったはずだ。
全く、ふざけた話だ。
その後、麗佳はArcanaの所有者を携帯で探したと言う。
携帯には一度だけArcanaを探すことが出来る機能が付いていた。
その機能を使って総一を見つけたらしい。
たしかに、先ほど総一の携帯にも更新がされ
ルールの記載と所有者を見つける機能が追加されていた。
そして、総一のいる学校に入学したということだ。
しかし……。
「やっぱり麗佳さんて、お嬢様だったんですね。」
「やっぱりってなによ!」
一緒に帰宅をするために道を歩いていたとき、総一たちはお互いのことを話した。
麗佳の父はとある有名な会社の社長であり、麗佳は今までお嬢様みたいな暮らしをしていたと言う。
総一が最初に抱いた麗佳の印象はあたっていた。
俺ってもともと未来予知が使えたんじゃね?
「いやいや、なんでもないっすよ。しかし、お金の力ってすげ~」
麗佳はお金を払ってこの学校に入学したという。
ありえね~~。
「いやみな言い方ね~。それしかなかったんだから、しょうがないでしょ!」
「そんなに怒らないでくださいよ。通りで俺のクラスにこれたわけだ。」
麗佳は、見た目どおり頭が良いらしい。
もし普通に来たら、美咲と同じクラスだよ。
そして、麗佳さんと話して知った、もうひとつの真実
「変な話をしますけど、麗佳さんて何歳ですか?」
総一は前から思っていたことがあった。
「女性に年齢を聞くの? 総一。」
「すっ、すいません」
「あはは!、別に良いわよ。教えてあげる。
私は実際には総一のひとつ上の18歳よ。」
やっぱり。
通りで麗佳さんに、さんを付けてしまうわけだ。
「あら?あんまり驚かないのね~」
「大体、見当は付いてましたから。」
「なんだ。つまらないな~」
そう言うと、麗佳はふてくされてしまった。
こういうときは、子供っぽいんだから。
「とは言っても、もうお父さんには迷惑は掛けられないわ。」
相当、苦労したんだな。
この学校に入学したのは。
俺なんかのためにそんなことをしてくれたなんて…。
「ありがとうございます。」
「えっ、なにが?」
「なんでもないですよ~」
「なによ、総一~!」
じゃれあいながら帰り道を歩く。
周りから見たらカップルだな…。
こんなことだけだったら、平和なのにな~。
総一は何気なく空を見上げた。
「それじゃ総一。私はこっちだから。」
麗佳は十字路の道の左を指さした。
「そうですか、気をつけて。ではまた明日! 麗佳さん。」
「またね!総一~」
十字路の道、麗佳は左、総一は右に分かれて家に向かった。
麗佳は総一と分かれたあと少し歩き
離れたところにあった黒い車に乗り込んだ。
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
車の運転手らしき人物がそう麗佳に挨拶をした。
見るからに、おじいさんぽい執事だった。
「いつもすまないわね。」
「いえいえ。それよりエースはどうでしたか?」
執事は車のエンジンを掛け出発した。
麗佳はその間に縛っていた髪を下ろした。
その姿は今朝、総一を見ていたあの少女だった。
「知りたいですか? 高松?」
高松と呼ばれた執事はとても優しい目をしていた。
「お嬢様の顔を見れば、わかりますよ」
高松はそんなことを聞かなくてもわかっていた。
「お嬢様が本当に笑ったのは久しぶりですね。」
「そうだったかしら? 高松。私、総一のこと信じて見る事にしたわ」
車は夜の街を進んでいく。
「それに私、総一のこと……。」
そして、高松は自分たちの家へと車を走らせるのだった。
こうして、総一の長い一日は幕を閉じたのだった。
なかなか疲れました。
ようやく一日終了です。
つぎもがんばりますよ~
読んでくださったかた
ありがとうございます。