3rd Game 『新たな日常 後編』
JOKERを近くで確認しました。
対処してください。
総一はその携帯をポケットに閉まった。
最初は驚いていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
JOKERを確認した?
つまり今、JOKERの所有者は俺の近くにいるってことか?
近くってことは、まさかこの学校の学生なのか。
総一の疑問は増えるばかりである。
俺が殺害しなければならない相手が……。近くに……。
しかし、ひとつだけわかったことがあった。
それは授業中に考えていたことだった。
もし話が本当だとして、いったいどうやってJOKERを見つけるんだ?
携帯には書いていなかったし、ましてや探すような機能もついていなかった。
なら、どうやって?
JOKERが近くにいても、わかるとは思えない。
もし遠くにいたら、見つけ出すことはできないだろう。
第一、JOKERの殺害を放棄したらどうなるのだ。
それではこの大仕掛けの意味がない。
そんなことを考えていた。
「なるほどな……」
まさか、俺の近くにいてしかも
知らせてくれるとは…
すこしはなぞが解けたか?
「しかし、近くにいるからどうしたって言うんだ」
殺すって言うのか?
いや、俺には無理だ。さらに、ここで近くにいるということは、
この学校の生徒である可能性が高い。
それに、今は武器など持ってもいない。
たとえ殺さなければいけない状態でも
無理な話だ。
「今は、様子見かな…」
そう考えたときだった…。
総一の頭にまた、あの映像が流れた!
総一は考えた!
もしこの映像が本当に起こるのなら、まずい!!
総一は左に、体を大きく右方向に捻った。
この瞬間
ピシュッ!
体を捻っていた総一は
さっきまで自分がいた場所に、後ろから何かが飛んでくるのが見えた。
ナイフか!!
もしあのまま総一があそこに立っていたたら、今頃
背中は血まみれだっただろう。
「へぇ~。今のが避けられましたか~
さすがAの所有者~。簡単にはいきませんな~」
体勢を整えた総一が、ナイフの飛んできた方向を見た。
そこには、さきほど飛んできたナイフと同じナイフを持った
少年が立っていた。
制服を見る限り、この高校の一年生だな。
「おまえは……」
思わずそんなことを聞いてしまった。
「ふぅ~ん~。僕の名は黒木。
JOKERの所有者だよ。」
おいおい。
早速あってしまったよJOKERに。
しかも、攻撃してきたぞ!!
もしあのとき未来を予知していなかったら
確実にお陀仏だったよ!
なんて便利な能力だ。助かった…
しかし。
くっそっ、何で攻撃してくる?
「おっ、俺は何もしていない!
だからナイフをしまってくれ。」
とりあえず、今は攻撃をやめさせるほうが先決だ。
話ならそのあとでもできる。
総一は少しの希望を持って説得してみることにした。
「なっ、だからナイフをしまって…」
「君は、面白いことを言うんだね!」
彼は、笑っていた。
そうしてナイフを持った手から力が抜けた。
通じたのか?
と思ったが。
ビュシュッ!!!
「うおっ!!」
総一は、飛んできたナイフによって体勢を崩した。
ちくしょぉー!無理か。
「くっ……」
どうする…
これ以上説得しても無駄だ。
体に穴が開くぞ!
考えろ!、考えるんだ!
この状況下から、最善の方法を…
その間にも、少年はゆっくりと近づいてくる。
俺は体勢を直しつつ、考えをまとめていた。
今、こいつを説得するのは無理だ。
かといって、戦うのはもっと無理だ。
武器がない。
このことを考えた上で一番の得策は…。
逃げることだ!
逃げればなんとかなるかもしれない。
そのあと、こいつが冷静になったとき
また説得をすればいい。
少年が新たなナイフを出そうとした隙に
「いくぞ!」
総一は少年に背を向けて走った。
少年の姿を見て、運動神経は良くないはずだ。
走りなら、追いつかれることはないと思った。
うちの学校は、校舎がとてつもなくでかく一年のころはよく迷子になったもんだ。
廊下の長さは250mもある。
「よし、思ったとおりだ!」
少年は追いかけてはいるものの
総一には追いつきそうにもなかった。
「うっおっ! あぶな!」
あいかわらづ、正確なナイフが飛んでくる。
まずい。
この階の廊下には生徒がいなかったが、下の階には
部活などで残って入る生徒が多い。
もし、このまま下の階に逃げ込めば、生徒にも危険が及ぶかもしれない。
どうする!
やっぱりあいつをとめるしかないか。
そう考えた総一は、ある場所に向かおうとしていた。
屋上
屋上なら生徒もいないだろうし
広い分、自由に動ける範囲は多くなる。
見た感じ、運動神経は良くないはずだし
運がよければ勝算はあるかもしれない。
この状況下、その運に賭けてみるしかなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。頼むよ神様」
総一はこの選択を、のちに後悔することだろう。
「ずいぶんと逃げ回るね~」
黒木は笑いながら総一を追いかけていた。
彼は楽しんでいた。
黒木は普段おとなしい奴である。
しかし、今の黒木はまったくの別人であった。
「どこまで逃げても、追いかけるよぉ!」
途中、途中、ナイフを投げてはいるが、走っているせいで
的確な狙いが付けられない。
「チィ、なかなか難しいな~」
そう思った黒木だが、総一が曲がって行った方向を見て
よりいっそう笑みを浮かべた。
くっ、くっ、くっ。
そっちは行き止まりだよ~
A!!!
黒木は屋上へ行く階段を楽しげに上って行った。
屋上
ガタンッ
「はぁ、はぁ。 さてぇ、どうするかぁ…」
屋上に着くなり、
総一は次のことを考えていた。
これからどうする。
いざ戦うとなると、武器がない。
走っている最中にあいつのナイフでも拾うんだった!
まぁ、そんな余裕はなかったが…。
確か、あいつが腰に付けていたナイフは、8本だったはずだ。
走っている最中に、5本飛ばしてきたから、
隠し持っていなければ
残りは3本。
一本は手の内に残しておくとして
飛ばしてくるのはおそらく
残りの二本。
その二本を交わし
一気に距離をつめて、
あいつのナイフの一撃を交わしつつ
俺の渾身の一撃を入れれば。
「チャンスはある!」
カランッ!
そんなとき
総一は地面に落ちていた何かに足があたった。
これは……。
ガタンッ!!
屋上の扉が勢い良く開いた。
来たか……!
「終点ですですよ~。エェースゥ!!」
「それはどうかな……」
総一は強がってはいたが実際は
怖かった。
自分の考えが間違っていたら、
俺は殺される。
普通にナイフを隠し持っている可能性は高い。
でもそれ以外に、いい考えが思いつかなかった。
自分を信じ……
恐怖心を無理やり押し殺した。
「行くぞ!!」
黒木がナイフを持つ手を上げたとき、
俺は走った!
総一は屋上の入り口から50m離れた場所にいた。
黒木がいる入り口からナイフを投げたところで
当たるはずない距離だ。
黒木は総一が走った方へ走った。
少し距離を詰めてから仕掛けて来るのか?
総一との距離が30mくらいのときだ。
シュッ!!
来た!
二本の内の一本
だが総一の読みが当たっていれば、これはブラフのはずだ。
総一の読みは見事当たっていた。
飛んできたナイフは容易く避けることができた。
だが、本命はつぎだ。
こいつは…
避けられない!
シュッ!!!
飛んできた二本目に体が反応しようとしたが
間に合わない!
なら!!
これなら!
総一は腕の服の中に隠しておいた物を、
すばやく出した!
「どうだー!!!」
カキッンッ!!!!!
金属と金属が激しくぶつかった。
黒木が放ったナイフは上空に飛び、地面に落ちた。
「っ……」
黒木は言葉を失った。
先ほどの一撃は避けられない。
勝ちは確定したと思った。
だが、総一は立っている。
まさかナイフを弾くとは……
「ふぅー、なんとかなったな。」
総一は手に持っていた小さな細い鉄パイプを地面に置き、
かわりに落ちているナイフを拾い上げた。
「やくにたったよ」
地面に置いたパイプに礼を告げた。
あの時、黒木が来る前に総一の足にあたったのは
この鉄パイプだった。
きっと、去年の文化祭のときに使ったものを片付け忘れたのだろう。
忘れてくれた人、ありがとう。助かったよ。
「くっ、貴様!」
黒木は動きを止めていた。
きっと総一の読みどおり、のこりのナイフは一本なのだろう。
ナイフの数は、お互いに1対1。
「これで互角だなぁ!」
話しかけても黒木は微動にしなかった。
そうとう効いているのか?
黒木はじりじりと後退し、総一は前進した。
お互いの位置は、
総一は屋上の入り口から見て左、黒木は右に移動していた。
そして、おたがいに動こうとはしなかった。
さきに仕掛けたほうが、やられるかもしれない。
そんなことを思ったときだった。
ゴォーーン!、ゴォーーン!、ゴォーー……
急にその音は屋上に響き渡った。
それは、4時を告げる学校の鐘の音だった。
4時……?
まずい!!!
総一は思い出した。
最初の目的を…
神崎さんとの待ち合わせを!!
今入り口に近いのは、若干ではあるが黒木のほうだ。
もし、神崎さんがここに入ってきたら…
狙われるかもしれない!!
まずい!、まずすぎる!
どうする!、どうするんだよ!!
総一は焦っていた。
黒木の次の行動がわかれば!
せめて、あのドアが開くタイミングがわかれば!
そして総一は思った。
未来予知!
未来が予知できれば、何とかなるかもしれない。
だが、今まで見てきた予知は、自分の意思では見ていない。
自分の意思では見れないのだ。
頼む!!
頼むよ!!
お願いだ!!
俺に未来を見せてくれ!
俺はこのとき、誰に頼んだのだろう。
自分自身か? この能力をくれた人にか?
それとも、神か?
誰でもいい。
俺に未来を見せてくれ!!!!!
その願いは…………
叶えられた。
次の瞬間、総一の左目は赤色に染まった…。
ガチャッ
「ふぅん?」
黒木は突然あいたドアの方を見た。
そこに人の姿を確認したとき、
黒木はその方向に向かって走っていた。
「邪魔者は殺すぅ!!」
ナイフを構え、その人に向かって突き刺す。
「逃げて!!神崎さん!!!」
それは総一が掛けた言葉だった。
ドビュシュ!!!
「えっ?」
麗佳は何が起こったかわからなかった。
ただ目の前には、総一と見知らぬ少年がいた。
そして……。赤い血。
「総一君?」
だが総一は、その答えには答えなかった。
そして、黒木は驚いていた。
「貴様ぁ~」
黒木が刺した人は、麗佳ではなく。
「捕、まえっ、たぜ……」
「どうしてだ!、ドアには俺のほうが近いはずだ!」
総一だった。
そして……
「くっ、痛いんだよぉ!!!!
馬鹿ぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
総一のすべてを掛けた渾身の右ストレートの
一撃が黒木に炸裂した。
「ぐっはぁぁっっっ!!!!」
黒木はあまりにも強烈な一撃をくらい。
吹き飛ばされた。
あぁ。
人は死ぬ気になるとこんなにも
強力な一撃をあたえられるんだな……。
「大、丈夫で、すか? 神崎さぁ…」
総一は意識の薄れる中。
無事な神崎さんを見た。
そこで総一の意識は途絶えた。
ようやく戦うシーンが作れました~
いや~。難しいです…
次は少しだけアルカナの秘密を明かします。
読んで下さったかた。
ありがとうございます!