第14話【石畳の決闘。設備屋おじさん、剣聖の「足元」に勝機を見る】
「グラン殿、賭けをしましょう。『星鉄会 隊長戦』私が勝ったその暁にはグラン工房を我がヴァリエール家の専属鍛冶としてお迎えします!」
「ジンが勝ったらどうするんじゃ」
「無いとは思いますが、もしそうなったときには何でも一つグラン殿の要望を聞きましょう」
「くだらん。条件のつり合いがとれておらんわ、だいたいお前は……」
アキラが突然大声を上げる。
「よしわかった!その条件飲んだ!」
「何を言っておるんじゃアキラ」
「大丈夫、この勝負絶対に勝ちます!」
「勝つか負けるかより、条件がだな……」
「アキラ殿と言いましたか。この勝負を受けるとは、なかなか見どころがある」
「わしはこの勝負受けるとは言っておらんぞ、帰る帰る!」
「待ってくださいグラン殿、アキラ殿はグラン工房の人間。つまりグラン工房が受けたという事になります」
「おぬし、見習いは要らない、アキラは雇わないとさっき言っておったではないか」
「いや、アキラ殿は前途有望なる見習いとお見受けします。現在も立派なグラン工房の一員。これはつまりグラン工房がこの勝負受けたといっても過言ではないでしょう」
「レオン……待っていろ。必ずお前を倒して見せる!」
「おまえ何を言っておるんじゃ、戦うのはジンじゃぞ!」
暴走するアキラに半ば呆れているグランとなぜか熱くなっているアキラ。
それを放って置くかのようにさっと身をひるがえしレオンは兵舎の中へ去っていった。
この話を無かったことにしないようタイミングを見て消えたとしか思えない。
「はっ、レオンあやつ!どこじゃ!」
「グラン、腹をくくりましょう。もうやるしかないんです」
「『隊長戦』の木剣制作はちゃんとやるわい!あの賭けが余計だと言っておるんじゃ!」
「なるようになるでしょう。負けても生活が苦しくなるわけでもなさそうだし」
「あのなぁ……まったく……」
◇◇◇◇◇
次の日、グラン工房――
工房内の椅子に座って話している三人。
グランとアキラ、そして木剣制作の為に工房に訪れたジンがいた。ギムレットは今日街へ買い出しに行って不在だ。なお、ここにいる者たちはエナが持ち帰った輪ゴムが街で大変な事になっているのをまだ知らない。
目の前の作業台には長さと太さが違う数本の木剣が並んでいる。ジンに選んでもらうためにグランがいくつか見繕って用意しておいたものだ。
「……というわけじゃ……ジン、負けられなくなった」
断腸の思いといった様子で、グランが昨日の不始末を吐露した。
「なんて約束をしてくれるんだよグラン、今回ばかりは必ず勝つという保証はできないぞ」
ジンの眉間に深い皺が刻まれる。
「決めてきたのはわしじゃない!アキラじゃ!」
「ジンさん、すいません。レオンって奴をこの目で見たらついイラ……じゃない、熱くなっちゃって」
「私も本気でやるつもりだが、なんせ体がついてこなくてね」
「まだ負けると決まったわけじゃないし、俺なりに本気でサポートします。まずは、星鉄会について教えてください」
前向きな言葉とは裏腹に、勝負に余計な『枷』を取り付けた張本人は、間違いなくアキラだった。
「星鉄会は剣術大会、木剣を使った模擬戦という所までは昨日説明したね」
「はい」
「その武器である木剣は木製であれば形はある程度自由なんだ」
「じゃあ長い棒、槍みたいなものは?」
「そこは剣術大会なので剣と呼べない物はルール上だめだね。あとは片手剣でも盾は装備できない」
「剣の形をしたものだけか。では勝敗のルールはどうなってるんですか?」
「頭、腕、胴体……つまり上半身に有効な攻撃が当たった場合そこで勝敗が決まる。下半身への攻撃は無効」
「ただし上半身でも片腕に攻撃が入った場合はその腕が使えなくなるだけで負けがそこで決まるわけではないんじゃ。片腕のまま続行できるルールになっておる」
「実戦に近いんですね、そこは」
「ただ試合を面白くするためにガントレットは装備して、そこへの打撃は無効じゃ。手が有効打になると怪我が増えるのと、試合が地味になるからのう」
「下半身に攻撃が当たった時も、試合は続行される。故意ならもちろん負けだけどね」
(下半身への攻撃はなし……剣道やフェンシングみたいな感じかな)
「グラン工房にある武器を見ていると人気がある武器は片手剣、両手剣ですかね」
「そうじゃのう、実戦の兵士の装備では片手剣に盾を装備することが多いが、訓練や剣術大会では両手剣のロングソードが一般的じゃな」
「ジンさんはどんなものを使うんですか?」
「この通り両手剣のロングソード。基本的なものが好きだね」
そういうとジンは自分が使っている木剣を出してグランに渡した。
「毎年少しづつ短くしてきたが、今回も少しだけ短くしてもらおうかな」
「振り回すには力が必要じゃからのう」
(そうか、剣道やフェンシングみたいに隙をつくというよりは振り回して戦う感じなんだな)
「ただし重さは残してほしい、剣同士で叩き合った時に力負けしたくない」
「わかった重量は残そう。他には?」
「重心をクロスガード近くまで持ってきてくれ」
「なんじゃと?随分と極端じゃな……それでは振った剣に重さが乗らんぞ」
「グラン工房の未来がかかってるんだろ?今日ここに来てその話を聞いたら、星鉄会に特化した仕様にすることにしたよ」
「そこまでして、勝ちに行くのか……」
原因を作った張本人は、間違いなくアキラだったが。
「レオンは強い。去年のあの引き分け以来、更に鍛錬している。今年はもっと強くなっているだろう。気力も体力も十分だ。その彼にこの落ち目の老いぼれが勝ちに行くには、いろいろ工夫するしかあるまい」
「受けて返す戦術をとるか……」
「実戦じゃない、剣と剣の叩き合いで負けなければそれでいい。つばぜり合いになったらこの足腰じゃさすがに吹っ飛ばされるだろうが、そうならないように立ち回るさ」
「去年も、つばぜり合いから崩されて相打ちじゃったからのう」
「しかしジンさん、足腰が弱いと言う割には姿勢も歩き方も若々しいですよね?試合になるとやっぱり辛いんですか?」
「訓練の時はあの芝生だから地面が柔らかくていいんだけどね。星鉄会は町の広場で開催だから石畳なんだよ。あれは辛いね」
「たしかに……芝生や踏み固められた土より石畳は足に来るかもなぁ」
(そういえばみんなが履いている靴はどれも原始的というか、動物の皮を縫い合わせたものが主流)
「試合の時は革靴のままなんですか?」
「下半身への打撃は無効じゃが、不測の事態は付き物じゃからな。殆どの者が革靴の上に『サバトン』を装着しておる」
「あの鉄板を重ねた靴に被せるタイプの足甲防具ですね。たしかにつま先を砕かれては、試合どころじゃないか」
「ああ、接近して踏みつけられることもあるしね」
その言葉を聞いた瞬間、アキラの脳裏に電光が走った。踏みつけられることもある。
「閃きました……俺ってなかなか冴えてるかもしれない」
「どうしたんじゃ、なにか思いついたのか?」
「ちょっとまっててくださいね!」
アキラは弾かれたように立ち上がり、工房奥の倉庫へと姿を消した。その先にあるのは、この世界の住人が知らない純白の鉄馬、ハイエース。
スライドドアを開け、棚の奥底から真新しい箱を掴み出す。
「オンライン限定の商品!もったいなくて温存してたのが、ここで活きるか!」
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