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『設備転生』 〜チートなしの現場無双で異世界快適計画〜 41歳設備屋 ハイエースの工具だけで魔法世界のインフラを完遂する  作者: らいすクリーム


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第10話【木の血管を救え。設備屋の知恵と宮廷魔術師の精密操作】

 ――なにしてるの?



 突然、森に声が響く。



(……声!?)



「この声、もしかしてドライアド様!」



 近くにあった木の樹皮から染み出すように、淡い光を纏った小さな姿が形を成していく。



 ――ドライアドのドーラが現れた。



「お、ドーラ!」


「ドーラ?」


「コソコソなにをしてる。挨拶くらいすればよいの」



「挨拶って言っても、ドーラがどこにいるのかなんて分からないよ」


「本来の私はこの森そのもの。この姿はお前たちに合わせたものでしかないの」


「アキラ、ドーラってドライアド様の事?」



「あぁ、この前初めて会った時にね。ド・ラ・イ・ア・ドって呼びにくいから、ドーラって名付けた」


「ドライアド様にそんな……」



 エナは『偉大な自然の存在』に対してもマイペースなアキラに頭を抱えた。



「私はドーラという名前、気に入ってるの。そこの少女、この度の火事、大儀であったの」


「滅相もございません、当然のことをしたまでですドライアド様」



「お前も私のことはドーラと呼んでよい、恩人だからの」


「あ、ありがとうございますド、ドーラ様……」



「名前は?」


「アリエナ・アシュリーと申します」



「エナは王国クリスタニアの宮廷魔術師・副師長なんだ。この前見たと思うけど、凄腕だよ」


「確かに。アキラとの連携、見事であった。それにエナ、お前は不自然使いでありながら自然に対する考え方が共存を望んでおる。珍しい魂なの」



「祖母がエルフでした。森を大事にしろと小さいころから教えられていましたので」


「それでか。よい、ではエナにも褒美を。なにがよいかの」



「いいえ。私は森が無事であれば、他には何も望みません」


「じゃあ俺には森の……木の属性魔術かなにかを」



「アキラはおじさんだから魔術は無理と言ったの」


「”おじさんだから”じゃなくて”魔法の素養がない”からでしょうが!」



「どっちにしろ使えないんだから、たいした差はないの。それよりアキラにはエレメントが見えるようにしてあげたじゃないの」


「そういえばそうだった……だけどそれが見えても俺、魔術使えるわけじゃないからあまり意味がないような」



「エレメントは人間のように魔術に巻き込んで使うという使い方もあるけど、それはいわゆる邪道というものなの。エレメントは本来この世界を構成しているものであって、戦いに使うものではないの」


「それはエルフの『エレメント錬成』のことですか?」



「さすがはエナ、エルフの子。よくわかっているの。おまえたちには恩がある。エルフの技『エレメント錬成』の許可を与えるの」


「……良いのですか、ドーラ様」


「よいよい。この森を守ってくれたからの」



(なんだかよくわからないけど、もらえるものはもらっておこう)



「ところでお前たちは、どうしてまたここへ来たの」


「アキラが急に西の大森林に向かうといって、あたしは連れられてここへ来ました」



「ドーラ、君がこの森そのものなら、この前の火事の原因はわかってるのかい?」


「それはわかっているの……雷だったの」



「やっぱり」


「ここまでは当たってるわね」



「前の日、森に雨が降っていたにもかかわらず落雷で木が燃えたんだよね」


「そうなの。最近枯れた木が増えたの。そこに落雷があって一気に燃えてしまったの」



「当たってほしくはなかったが、予想したとおりだ……」


「それがどうかしたの?この森ができてから長いけど、幾度か火事はあったの」



「でも、枯れた木が増えたのは最近だよね?」


「ええ、でもそれは虫のせいだし、虫は森の大事な生き物の一つなの」



「ドーラ様。たしかに虫は大事です。でもアキラの予想だと、その虫はおそらく大陸の外から来た虫。もともとこのアトラシアにはいなかった虫なのだそうです」


「いわゆる害虫。もともとここにはいない虫だから、一方的に木がやられてしまった。俺の元居た世界では、害虫のせいで森全体が枯れてしまう事もあったんだよ」



「そんなことが……どおりで最近枯れる木が多いと思ったの」


「……本当に予想通りだったみたいだ」


「このままじゃ森が危ない。これは止められないの?」



「俺の元居た世界では木に予防接種……薬を打ち込んで、あとは虫を薬で退治してたかな」


「……これは深刻な問題。火事で燃えた木のほかにもこの周辺には枯れた木が沢山あるの。たぶんその虫がまだいっぱい生きてるとおもうの」



「よし。まずそれを何とかして進行を食い止めよう」



 このままでは時間と共に森全体が虫にやられて枯れ果ててしまう。アキラたちは何とかしてそれを食い止める方法を考える。



「俺が知っている知識で説明すると、その虫が原因で木が枯れる仕組みは、ちょっと複雑なんだ」


「アキラ、おしえてちょうだい」



「まず木の皮を食べる虫がいる。この虫が知らないうちに運び役となって、小さな線虫を運んでしまうんだ。そして木を食べた部分からその線虫が内部に入り込む」


「なんかちょっと気持ち悪いわね」



「中に入り込んだ線虫が幹で増え、穴が増える。すると穴を埋めようとした木が過剰に反応して水の通り道を樹液で塞いでしまう。樹液で水が通らないことと、空気がそこに入ってしまうことで木が水を吸い上げられなくなった結果、木が枯れるんだよ」


「単純に虫が木を食い散らかして枯らせる、ってことじゃないのね」



「元気だった木が急に枯れるのはそのせいなのね……何かがおかしいとはおもったの」


「人間で言うところの血管の病気みたいなものだからね」



「ケッカンの病気?」


「血の通りが悪くなる病気かな」


「病気なのであれば早く森を治しましょう、アキラ」



(といっても農薬や殺虫剤はないし、どうしたものか)



「枯れている木は見てわかるけど、一見元気な木も中に虫がいることもあるしなぁ」


「枯れかけていたり、これから枯れそうな元気がない木はわかるの」



「おお、さすが森の主」


「あるじというより、わたしそのものが森なの」



「問題がある木はわかる。じゃあ、あとはどうやって虫を退治するかだなぁ。それと水を吸い上げる機能の修復」


「弱い雷魔術で虫を退治できないかしら」



「それはいいかも。エナ、雷魔術もできるの?」


「だれに聞いてるの?あたしは宮廷魔術師・副師長アリエナ・アシュリー。各属性魔術を満遍なく使いこなせる大魔術師なんだから」



 エナは自慢げに杖を振り回してポーズを決めた。



「エナこっちに来て、この木なの。この枯れた木に試してみるの」


「わかりました。ドーラ様、お任せください」



 そういうとエナは森の柔らかい地面に杖を突きたてた。

 ゆっくり深呼吸をして目を閉じる――そして詠唱。




「――荒雷(アララギ)――」




 魔法陣がエナの足元に浮き上がる。




 そして――ズゴォォォン!!




 轟音と共に、木に落ちた一筋の光。



「おわっ、あぶなっ!」



 飛び上がり驚くアキラ。周囲が焦げ付いたような匂いに支配される。

 直撃を食らった木は内部の水分が一瞬で沸騰したのか、キュウと悲鳴のような蒸気を上げ、見る影もなく真っ黒な炭柱へと変わり果てた。



「エナ……虫は完全に退治できたけど、木も退治したの」


「あ!ご、ごめんなさいドーラ様!つい力が……」



「まぁいいの、この木はもう助からないほど枯れていたの」


「すみません、すみません!」


「いいの、いいの、きにしないで。虫は退治できたの」



「生きてる木を救う方法か……」



(電気……夏のコンビニでも見かける電撃殺虫器!あれは一瞬で虫を殺している)



「エナ、木の表面と導管……水の通り道。そこが虫がいる場所だから、そこに虫だけを退治できるだけの弱い雷魔術を一瞬だけ通せる?」


「……だれに聞いてるの?あたしは宮廷魔術師・副師長アリエナ・アシュリー。魔術のコントロールをさせたら右に出る者はいないわ」


「さっきも木を燃やし尽くす前に聞いたようなセリフだが……今回も自身だけは凄いな」



「アキラ、何か言った?」


「いいえ、なにも」



「エナ、次はこの木なの。この木はまだ枯れ切っていない。再生の可能性がある」


「お任せください。ドーラ様、今度は失敗しません。アキラ、この杖持ってて」



 エナはアキラに杖を手渡した。見た目より重い杖をアキラは両手でしっかり受け取った。

 木に近づき、抱きかかえるように両手を木の表面に当てたエナ。

 ゆっくり深呼吸をして目を閉じる。そして詠唱。




「――微雷(ササラギ)――」




 魔法陣がエナが触れた木の根元に浮き上がる。




 そして――ピシッ!!




 木の幹に触れたエナの指先から、研ぎ澄まされた微細な光が見えた。

 アキラが知っている感覚では雷というより感電。そんな一瞬の電撃。


 その木の様子はまったく変わっていない。だだ、一瞬の間をおいてパラパラと数匹虫が根元に落ちた。

 木の表面にいた線虫を運ぶ虫を退治できたのだ。



「成功なの!」


「いやまだだ。水を吸い上げる機能『蒸散』が戻らなきゃ、このまま枯れてしまう」



「全部言わなくてもわかってる、大丈夫。あたしを誰だと思っているの」


「はいはい、副師長アリエナ・アシュリー殿」



「ちょっと、雑に扱わないでよ」


「樹液で通りが弱くなった導管に水を通してやってくれ。その過程で空気も抜ければ自発的に吸い上げられるようになると思う」



「わかってるってば」


 木に近づき、右手を木の表面に当てたエナ。

 ゆっくり深呼吸をして目を閉じる。そして詠唱。




「――水脈(みお)――」




 魔法陣がエナが触れた木の根元に小さく浮き上がる。

 ドーラが驚くように声を上げる。



「水が通ったの!」


「さすがエナ、やるときはやる女……」


「むっふー。どう?やるでしょ」



 その木の外見は変わらなかったが、ドーラの表情がうまくいったことを表していた。これで治療方法が確立できた。アキラは周囲を見渡し、枯れかけた木を数える。



「ドーラ、治療が必要な木はあとどのくらいある?」


「そうね、ざっと100本くらいかしら」



「この規模の火事だもんなぁ……害虫にやられた木はそれなりにあるかぁ」


「そんなに沢山あるんじゃ時間もかかるし、移動と魔術であたしも疲れちゃうわ」



「一日で枯れるわけじゃないし、協力してやっていこうか」


「それなら、私が宮廷魔術師を何人か連れて来て作業する。『西の大森林の回復』という名目なら王国からいくらか予算が出ると思う」



「なんか大事になってきたな」


「じゃあ私はエナに付き添って、枯れた木を探して教えるの」


「よろしくお願いしますドーラ様」



「アキラとエナには火事のあとも世話になるの」


「いえいえ、森は命の恵み。当然の事でございます」


「俺は今、仕事も給料もないから正直何かお礼が欲しいけど……ドーラのお礼だとドングリとかそういうものしかないのかな」



「アキラは私のこと何だと思ってるの」


「ドーラ様に失礼なこと言わないでアキラ、これだからおじさんは……」


「おじさんは今の話と関係ない」



「お礼と言えばエレメント錬成を教えてなかったの。覚えて帰って頂戴」



 アキラとエナはドーラからエレメント錬成を教わった。


 エレメントを手にして自然のエネルギーである”氣”で練り合わせる。するとそのエレメントの特性を持った物質がエレメントの大きさの分だけ錬成される。


 練習として水のエレメントを氣で練って錬成したエナは水を作り出した。

 エナの手の上でエレメントが水に変化し手のひらからこぼれ落ちた。



「できた、すごい!小さいころおばあちゃんがやって見せてくれたことがある!魔術だと思ってたのはこれだったのね!」


「1回でできるとは、さすが副師長だな……エルフの血筋で素質もあるか……」



 一方のアキラは燃え尽きた木の場所にあった黒いエレメントと生きている木の元にあった茶色いエレメントを両手に持ち氣を練り錬成した。すると、二つのエレメントが混じり合い黒い塊が錬成された。



「おお、俺にもできた!……けど、なんだこれ」



 匂いは木炭のよう。感触は木のように粘り強く炭のように軽い。それぞれのエレメントの長所をあわせもったような固形物が出来上がった。



「二人ともよくできたの。イメージを強く念じて氣を練ればある程度は錬成の出来上がりをそれに近づけることができるわ。でも一つだけ。エレメントを大量消費することは許さない。エレメントは自然そのものだということを忘れないでいてほしいの」



「肝に銘じておきます、ドーラ様。旅先で飲み水がなくなった時に使わせていただきたいとおもいます」


「俺は……何に使ったらいいかわからないけど、ありがとうドーラ。この黒いのは墨?久しぶりに習字でもするか」



 エナは明日、またこの森に来て木の治療の続きをすることをドーラに伝えた。アキラは森から出て街道まで着くと、エナとそこで分かれてグランの家に向かった。


 帰り道、アキラはそこにあったエレメントを錬成してみる。街道の脇、道と草原の間、砂地で見つけた灰色のエレメント。



(砂のエレメントかな?何ができるんだろう……砂?)



 手のひらに乗せたエレメントに氣を練り錬成する。

 すると、出来上がったのは砂。サラサラと手に砂が盛り上がり、指の隙間から落ちていった。



「……砂、やっぱりただの砂か」



 すこしがっかりしながら手の砂を払い、歩き出したアキラ。






 ――均一で不純物のない砂が錬成されたことには気づいていなかった。


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