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『設備転生』 〜チートなしの現場無双で異世界快適計画〜 41歳設備屋 ハイエースの工具だけで魔法世界のインフラを完遂する  作者: らいすクリーム


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第1話【バケツリレーはもう終わりだ。――41歳設備屋、水中ポンプで森を救う】

初回に公開したものに手を入れ、読みやすくしました。

「火事よ!!西の大森林に火がついた!!」



 二日連続で叩き起こされた。

 家に飛び込んできたのはローブ姿の女魔法使い。



「グラン!アキラ!起きて!森が燃えてる!!」



(あの匂い――ここは、風下か!?)



 慌てて小柄なドワーフおじさん、グランが飛び起きてくる。



「なんじゃエナ!火事じゃと!?」



 アキラも服を身に付けながら起きてきた。



「どこで火事が?」



 走ってきたエナは扉に寄りかかり肩で息をしながら、大きく空気を吸った。



「西の大森林!城壁の哨兵が煙を見つけて、森に入ったら火事だった!」



「風向きは?」


「森からこっち!ここも街も、風下になってる!」


「なんじゃと!」



 グランは外に駆け出した。エナとアキラもそれを追うように外へ出る。

 風上、西の方角、大森林を見るグラン。



「確かに煙が見える……まだ広がりきってはおらんか」


「ええ、火元から森の外側に向かってるのが幸いしたけど、そのせいで街とこの工房が危ないの!」



「街ではもう動いておるのか?」


「ええ、みんなバケツをもって向かってる」



「バケツ?そんなもので火を消すのか?」


「何言ってるのアキラ、それしかないじゃない!」


(マジか……バケツ?)



「あとは燃えるものを取り除くしかないじゃろう。木や枝を切るしかない」


「エナの魔術でどうにかならないのか?」



「魔術の炎は魔術で消せる!でも自然の炎は無理!」


(なんだよそれ、炎や水に違いがあるのかよ!)



「魔術師の近くに水があれば火を消す水魔法も飛ばせるけど……」


「そんな……」



(止められなかったら……終わる……)



「グラン、どうしたらいい?」


「ここまで来るにはまだ時間があるじゃろう。森に行って火を食い止めるのが賢明じゃ」


「そうね、あたしは先に行って魔術師ギルドと合流するわ!」



 そういうとエナは森へ向けて駆けていった。



「ギムレットは?」


「街に住んでおるからのう。おそらくそのまま現場に向かうじゃろう」



「とりあえずバケツリレーじゃ。わしらにはそれしかできん。森の入り口にある小川が近いか、城壁の堀の水が近いか、行ってみないことにはわからん」


「わかった。5分待ってくれ!」



 そういうとアキラは工房へ向かい、倉庫の中のハイエースのバックドアを開けた。

 真っ先に折り畳み式アルミリヤカーを下ろし、組み立てる。



「銀色のなんじゃそれは……板に車輪?」



 アキラが慣れた手つきで折り畳んだ本体を組み立て、部品を差し込む。



「ここを広げて、部品を差し込むと、ほら出来た!」



 あっという間に出来上がったのはアルミ製のリヤカー。



「これは移動が多い現場用。グランに簡単に説明すると……荷車か!」


「荷車ならわかるぞ。だが、こんな構造は初めてじゃ……」



 グランは感心して細部を触っている。特に折り畳みの仕組みが気になるようだ。さすが鍛冶職人である。



「積み込むのは……腰道具に、使えそうなカッター、ニッパー、ペンチと……」



 アキラは次々と小さめの工具袋に必要なものを入れ、リヤカーに積んでいく。



「そして水中泥水ポンプと、それを動かす発電機!」


「青い筒と、赤い箱……なんじゃそれは」



「この青いのがポンプ、水を押し出す装置。赤いのは発電機――これで動かす!」


「ふむ……井戸の水組みポンプはわかる。王族や一部貴族の井戸にしかないがのう。しかしこんな小さな筒で、まさか……」



「そのポンプを動かす力がこの赤い箱から出ていくんですよ」


「ふむ、言ってることはわかる気がするが、この目で見ない事には信じがたいな」



「今は時間がありません!今度ゆっくり説明します」



 アキラはもう一度ハイエースに乗り込み、中を物色し始める。


 そしてポンプ用の排水用ホース、ポリ管、使えそうな継手をかき集める。それをリヤカーに乗せ、接続パーツを数種手づかみにして類工具袋に入れた。



「今使えそうなものはこれくらいか。でも選んでる暇はない!」



 アキラは急いでもう一度荷室の中を見回す。そしてスコップ、脚立とVP管、PF配管の切れ端を取り出し、リヤカーに積み込んだ。



「グラン!このVP管……長いパイプを外までお願いします。俺はこのリヤカーを引いて行きます」


「なんじゃこのしなる灰色のパイプは、どんな技術で作られておるんじゃ……黒い梯子も恐ろしい精度の金属加工じゃ」



「説明は置いておいて、今はとにかく急ぎましょう!」



 アキラはリヤカーを引き外へ出た。グランも長いパイプを気にしながら外へ出てくる。



「グラン!そのままリヤカーに乗ってくれ!」


「おぬしが引くのか?」


「俺が引きます!走るのには自信があります!」



 グランの指示で煙が立ち上る火元の方角へ向かっていく、銀色のリヤカー。


 積んだ荷物とそれを抑えるグランが揺れ、ガタガタと音を立てながら進んでいく。


 しばらく進むと煙が濃くなり、沢山の人影が見えてきた。



「おお、見えてきたぞ!」


「はぁ、はぁ……あそこですか!」



 少し先の森の入り口でバケツリレーをする人たちが見える。森の中の方では燃えそうな草や枝をなぎ倒している衛兵団が見えた。



「城壁の堀から水を汲んで、ここまでバケツリレーしておるな!」


「人海戦術しかないんですね……魔術師の人たちは?」


「その水を運んだ先で水魔法を使っておるじゃろう!」



 アキラは森の入口に進みながら周囲を見回し水源を探していた。



「グラン!火元の近くに川や池はないんですか!」


「水を汲める場所が近くにあるならば、そこからバケツリレーしとるはずじゃ。近くにはないから、あんな遠くからリレーしておるんじゃろう」



(くそっ、近くに水さえあれば)



 森の入口に近づくにつれ足場が悪くなる。湿気を含んだ土が多い。



「グラン!もしかして湿地が近くにあるのか?」


「おう、西の大森林は入口だけが湿地帯になっておる」



「それだ!湿地の水を使いましょう!」


「無理じゃアキラ!湿地の水は深さがない上に底は泥じゃ。バケツでは汲めん!」


「大丈夫です!行きましょう!」



 アキラたちは森の入口にたどり着いた。


 そこでは街の住人たちが城壁の堀から大人数のバケツリレーで水を運んでいた。バケツが前へ送られ、魔術師が水を放つ。



「もう腕が上がらない……」


「いつまで続くの、この量で火が消えるの?」


「いくらやっても、どんどん燃え広がってないか?」



 魔術師たちが放つ水は、ただの水よりも明らかに強く火を叩いていた。しかし火の勢いがまだ勝っており、予断を許さない状況だ。



「グラン、湿地の中で水深が一番深いところに向かいましょう!」


「深いといっても……深さは拳二つ分ほどしか無いぞ」



 アキラがリヤカーを引き、グランが後ろを押して湿地の脇の通り道を進んで行く。しばらく進んで、湿地の中心、わずかに水が湧き出ている場所を見つけ止まった。



「して、どうする?」


「まずはポンプを設置します!グランこの剣スコで湿地の水がある所に穴を掘ってください!」


「ケンスコ?……この鉄製スコップじゃな」



 グランはなるべく水が多い場所を見つけ、スコップで穴を掘り始めた。

 アキラはリヤカーからポンプを下ろし、電源コードを縛っている紐をほどく。そして排水用ホースを手早くホースバンドで接続した。



「ここでポンプを使います。グランはこのホースを伸ばして前線に送ってください」


「この青い巻いてある奴を長く伸ばしていけばいいのじゃな!」



「はい!この中を水が通るんです!なるべくねじれないように、真っ直ぐ!」


「わかった!」



 グランは腰を曲げ器用に排水ホースを転がしていく。体を動かして仕事をしている職人は理解が早い。


 アキラは靴を脱ぎズボンをまくり上げ、グランが掘った穴にポンプを設置した。穴には予定通り周囲の水が集まってきている。足はぬかるむが水深自体はやはりさほどない。穴を掘って正解だった。


 次にリヤカーから発電機を下ろし、なるべく水平な場所に置いた。グランはもうだいぶ先まで進んでいる。



(排水ホースは工事で使った余りだ……前線まではすこし足りてない)



 発電機をそこに置いたまま、アキラはリヤカーを引いてグランのもとへ向かう。初めてにしては、手際よくホースを伸ばし終わったグラン。



「アキラ!ここで終わりじゃ。残念ながらまだ前線までは足らん」


「大丈夫、まだある。次はこれを繋ごう!」



 アキラはリヤカーから積んできた青と赤の管を下ろした。



「これは水道用の管だ、抵抗が少ない!さっき引いたホースとつないでこれを伸ばしていこう!」



(仕事で使ってた残りもの……多少は距離を稼げるか)



 アキラはまたホースバンドを取り出し、排水ホースとポリ管を繋いだ。そして青と赤それぞれのポリ管をワンタッチ継手でカチっと繋ぐ。



「よし、グランまたこの管を先へ伸ばしていってくれ!」



 グランは青と赤の大きな二つのパイプの輪を器用に転がしながら伸ばしていく。アキラはその横をリヤカーを引きながら進んだ。



「あともうちょっとじゃというのに!」


「まだ大丈夫!最後にVP管、これを繋ぐ!」



 グランとアキラが話していたその時、前線からこちらへ走ってくる人影。聞いたことのある声が森に響いた。



「グラン、アキラ!来てくれたのね!」



 エナが手を振りながらアキラたちのもとへ駆け寄る。火事の煤で顔が真っ黒だ。前線の魔術師たちは皆、必死に消火に協力していたのだろう。ローブにも焦げ跡があった。



「ひどい有様じゃ……顔が煤で真っ黒じゃないか」


「水がもっとあれば派手に水魔法を撃てるのに、バケツの少ない水じゃそうもいかないの」


「そう思って、助太刀に来た!エナ!」



 アキラはエナに親指を立てる。リヤカーから取り出した継手を使い、ここまで伸ばした管にVP管をつないだ。総延長100m超。あり合わせで無理やり繋いだ放水管。


 仕上げにリヤカーから脚立を下ろして地面に立てる。



「ほう、便利な折り畳み梯子……しかし森の地面が平らではない。不安定じゃ」


「大丈夫!このハセカワのブラックシリーズは足の長さを調整して――地面に食いつくように立つ」



 アキラはレバーを操作して脚立のそれぞれの足を調整して延ばした。脚立は凹凸のある地面に対してまっすぐに安定して立った。



「まったくお前は凄いものを持っておるのう……これは画期的じゃ」


「グラン、これで放水の高さを稼げる!これに上ってくれ。ただ使い方として危ないから一番上の天板には登らないこと」



「承知した!ここからエナの指示で放水すればよいのじゃな!」


「じゃあグラン、エナ!俺はもどってポンプを動かす。水が流れてきたら後は頼んだ!」



 アキラは発電機へ向けて走り出した。

 前線の魔術師たちが何とか少ない水で持ちこたえているが、このままではいつまでもつかわからない。


 グランは脚立の中ほどまで登りしっかりパイプを支えていた。エナはその位置を確認しながら仲間の待つ前線へと向かう。


 息を切らしながら急いでリヤカーを引き戻ってきたアキラは、ニホンダ製インバーター発電機の前にしゃがんで構えた。



「燃料キャップダイヤル『ON』、エンジンスイッチ『運転』、チョークを『始動』にあわせて……っと」



 ――始動グリップを勢いよく引いた。



 ギュン!



 ――勢いよく紐が伸びるが、始動しない。



(頼む、動け)



 ――二たび、引く。





 ギュウン!……ヴヴヴヴ……





「よし、かかった!」



 低い振動音が、地面を伝う。

 異世界には存在しない機械の鼓動。


 アキラがポンプの電源プラグを発電機のコンセントに差し込んだ瞬間、水中ポンプが唸りを上げ、回りだす。

 青いホースが生き物のようにうねって膨らみ、湿地から吸い上げられた水が、その中を勢いよく突き進んでいった。



「少し泥は吸い込んだが強い!さすがツルウミ製作所の泥水対応ポンプ!」



 水面が浅く、底は泥の湿地だが、ポンプはぐんぐん水を送っていく。



「よし!とどいてくれ!」



 アキラは水の流れを追ってグランの方へ走った。

 グランは脚立に登り、こちらを見ながら不安そうにパイプを握っている。



「グラン!水がそっちに向かってる!パイプを支えてくれ!」


「大丈夫じゃ、しっかり持っておる!」



 グランはエナのほうに向き直り、声をかけた。



「そっちでいいんじゃな!エナ!」



 手を振って、そのタイミングを待つエナ。





 次の瞬間――





 ホースが、波打った。


 地面を這う振動が一直線に迫る。




「来るぞ!!」




 グランが脚立にしがみつく。




 ドン!という衝撃。




 次の瞬間――




 叩きつけるような水圧が、解き放たれた。


 白い奔流が空気を裂き、一直線に舞い上がる。






 エナに向かって――


現代職人が知識と工具で異世界無双する物語。IFをお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
Xでお世話になってます! 作品楽しく読ませていただきました。 冒頭でストーリーに引き込ませる展開が天才すぎます。 突然、裸でおじさんと寝てる破壊力……! なんで!?ってなって夢中で読み進めちゃいまし…
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