#08. 服と餌付けとデートプラン?
「ギルド行く前に服を調達しないとな……」
辰樹は朝食に目玉焼きとトーストを拵えながら言う。
上はシャツがあるから最悪買わなくても大丈夫。
ズボンを買って、一番の問題は下着だ。
ルルト本人はまだこちらの世界の常識に疎いところがある。下着を買ってこいと言って送り出すのはさすがに不安だった。
かと言って男が付いて行くというのも、場違いすぎていたたまれない。
「辰樹、たまご焦げてないか?」
「どぅわっ!?」
半熟トロトロを狙っていたが、時すでに遅し。
若干黒め、かなり固めの目玉焼きが完成した。
だが出来てしまったものは仕方ない。
二人は小さなローテーブルに向かい合って座り、ルルトは昨晩学んだあの言葉を思い出しながら手を合わせた。
「「――いただきます」」
さて。ルルトにとってはこの世界に来て二度目の食事。昨日は棚にしまってあったカップラーメン醤油味。そして今日は目玉焼きトースト。
問題の目玉焼きをトーストに乗せ、ひと口かじる。
黄身は固めで、外側はパリッと。
やはり少し苦味を感じるが、悪くない。
トーストはまんべんなく狐色に仕上がり、食感はサクもちで完璧な焼き加減だ。
マーガリンのバター風味がよく合う。
「ん~っ、ぅんまい!! この世界のご飯は美味いな!」
ルルトはガツガツと目玉焼きトーストを頬張り、胸元にパンくずを付けながら嬉しそうに言う。
「食べたら買い物だ。まあ、軍資金はそんなにないからあんまりオシャレはさせてやれないけど」
「オシャレ? 余はこのTシャツでいいんだが……辰樹の匂いするし」
「オイ嗅ぐなって……コホン。いいかルルト、配信したいなら『見てくれ』は重要だ。俺達はカメラに映り、映像として残る。ヘンテコな格好で黒歴史を作った日には、恥ずかしくて逃げたくなるだろう」
「お、おぉ……やけに力説するじゃないか。もしかして」
「やめろ触れるな。ヤケドするぞ」
「炎には耐性があるが……」
「とにかくだ。少ないお金でなるべくオシャレな服を買う。俺にファッションセンスはないから、ルルトのセンスにかかってる」
なるほど。とルルトは手を打つ。
要するに辰樹は、「ファッションセンス皆無な俺は昔やらかしてるから、自分で選んだ方が身のためだぞ」と言っているのだ。
どうせなら辰樹の好みに合う服が着たかったなぁ――なんて思いもあったが、そういうことなら仕方がない。
だぶるかるびTシャツは一旦洗濯。
ルルトが無地の白Tシャツを被ると、襟にツノが引っかかって抜けず、襟口を伸ばしながら片方ずつ通してなんとか着せる。
下は、辰樹が着なくなったカーゴパンツを直接穿かせ、ゆるゆるのウエストはベルトで締めた。
「……目立つな。上に羽織らせるか……」
大きく目立つ胸はジャンパーを羽織らせてなるべく目立たぬようにする。
ひとまず、これでギリギリ人前に出れる格好にはなっただろう。
よし、と互いの顔を見合わせる。
こうして意を決したような面持ちで、二人は買い出しに出掛けた。
「ん」
「……ん?」
アパートの階段を下りると、突然ルルトが手を差し出してきた。
意図が読めず聞き返してしまう辰樹に、ルルトはきょとんと首を傾げた。
「もう忘れたのか? 繋いでおくと昨日言ったじゃないか」
「いや、あれは逃げられたら困るからで……もう逃げないだろ? 自分で契約したんじゃないか」
そう正論を突きつけると、ルルトは不機嫌そうにムッと眉をひそめる。
「確かに契約はしたが、もし迷子になったら困るんじゃないか?」
「……それは、そう……あーもう、仕方ない。ほらっ!」
少々照れくさそうに頬を掻きながら、差し出された手を握る。
ほのかに赤くなった耳がまるで「これでいいんだろ」と言っているようだ。
(昨日は何ともなかったのに、なんでこんなに心を掻き乱されるんだ……人目か? 俺は人目を気にしてるのか?)
日中という人通りのある時間帯だから?
それも半分正解だろう。
数秒後、辰樹は真の答えに辿り着く。
仲睦まじそうな男女が手を繋いで歩いている。
その光景は、傍から見れば、まるで――――。
…………そう。
実質、お買い物デートの開幕である。
なおデートプランは皆無だ。




