#05. 主役と呼ぶには頼りないが、居てもらわないと困る奴
「――待て、リーダー。例の気配、コイツだ」
「そう……あなた、本当にただの配信者? ギルドカード見せてくれる?」
「ぎるど、かーど……?」
「私達は疑ってるの。あなたが人に化けて、人を騙す悪いモンスターじゃないかって。それほどの実力があるのに無名であるはずがない。だからギルドカード……つまり身分証を見せてくれたら信じる」
女剣士の疑いは、鎧男のスキル【第六感】が反応するほどの力を持った人間ならギルドに《スレイヤー》か、そうでないにしても何かしらの称号を与えられているはずで、ならば同じスレイヤーである自分が知らないのは不自然だと思ったからだ。
現に眼前の少女は、自身の充電式放電スキルを軽く凌駕する電撃で悪魔を屠ったのだから。
:それは考えてなかった
:確かに無くはないか?
:ルルトちゃんつよすんぎ
「そういうことか……」
ルルトはコメントを投影するドローンを抱きしめる。
これを持って駆け出した時、辰樹は自分を制止しようとした。
その理由を察したのだ。
(……元より無茶を承知で強行した。封印が解かれればいつか誰かに討伐される……ならば最後にと駆け出したが……これは罰かな)
ギルドカードなるものがどういう物なのか、形やデザインが分かれば魔法で偽造は可能だ。
だがそれを知る手段はなく、言い訳ができるほどこの世界のことも、ルルトは知らない。
「その、余は、だな――――」
それでも諦めきれず、何か言い訳をと口篭り、ルルトは顔を上げた。
そして、目が合った。
女剣士と鎧の男の、背後にいる黒い眼球と。
「――――ッ!?」
「危ないッ!」
ルルトがそれと目が合った瞬間、ほぼ同時に鎧の男が身を乗り出す。
黒い眼球が魔弾を生成し、女剣士を狙ったのだ。
身を挺して女剣士を庇った鎧の男は片膝を着く。
「あの悪魔、しぶといな……」
「先輩! 身体は平気!?」
「問題ない。それより気を付けろ」
人間大の黒い眼球。
山羊のような四角い瞳孔が三人を一瞥し、管楽器のような低音を響かせる。
「体内に本体を隠していたか! すまない、余が油断した」
「さっきの赤い稲妻でもう一度焼き払えないのか」
「……あれはコントロールが難しい。さっきは不意打ちで当てられたが、今度は警戒されている。当てようとしたらお前達まで巻き込みかねん」
そうこうしている間に、悪魔の眼球は浮遊。
三人を上から見下ろすと、不意に涙を零した。
「――! 全員走れ! 下から来るぞ!」
鎧男の号令とほぼ同時に、涙が染み込んだ床を突き破り、黒い茨が槍のように生えてくる。
茨は肉を突き刺さんとし、散開する三人を追いかけるように根を伸ばしていた。
「ダメだ、止まる気配がない! このまま本体を叩くしかないぞ!」
「ま、待って、まだチャージが……!」
回避に専念すればチャージに時間が掛かる。
止まない茨攻撃は無視できない。
そして逃げ惑うだけのネズミの隙を、悪魔の眼球は無視しない。
黒い眼球に光が瞬き、再び魔弾が生成された。
「狙うなら余のはず…………いや剣士の方か!?」
悪魔は最も警戒しているであろうルルトではなく、回避とチャージに専念して反撃ができない女剣士を狙った。
鎧の男もそれに気付くが、いつの間にか茨は二人を分断するように生えている。
魔弾が放たれる。
無防備なネズミは迫り来る暗い光を捉えて、半端にチャージした剣で迎撃しようとし――――直後、視界の横が閃光する。
パシャリ、とカメラのシャッター音が響き、女剣士は一瞬目が眩んだ。
しまったと魔弾を目で追うが、ついさっきまで迫っていたはずの暗い光の弾は跡形もなく消えていた。
「――そいつの攻撃は光を与えると消える!!」
声がした。若い男の声で、鎧の男ほど低くはない。
部屋の大扉の方を見やると、なんとも場違いなスーツを着た汗だくの青年が、スマホを構えて立っていた。
「た、タカナシ……!」
:保護者キターー!!
:保護者で草
:よく見破ったな
「ルルトはあとで叱らせてもらうとして、スマホのフラッシュじゃ限界だ! もっと強い光を出せないか!」
「お、おう! 光だけなら任せろ!」
ルルトはあとで叱られることに少々たじろぎながら、魔力を帯びたツノがわずかに光る。
天井に手のひらを向け、紅蓮の稲妻を放出。
紅に閃く稲光で悪魔は悶え、黒い茨も次々と灰になった。
「ま、また変な人が来た……」
日に二度も知らない人に助けられた女剣士は、困惑気味にそう呟いた。




