#11. 悪戯好きのハイド・アンド・シーク
身体が手のひらサイズに縮んでしまった辰樹を踏んでしまわないようルルトは慎重に拾い上げ、ひとまず肩の上に乗せておく。
「まさかここまで小さくなるとは……ログを見た感じ魔法をかけられたみたいだ。ボスの名前は《ハイド・アンド・シーク》――ダンジョン内の最も弱い生物に対してイタズラをするモンスターで、ダンジョンのどこかに隠れている。見つけて倒さないと魔法は解けない。最も弱い……さいですか……」
つまり、このダンジョン全域がかくれんぼエリア。
隠れたボスを見つければ辰樹の小人化は解ける。
ルルトなら辰樹にかけられた小人化の魔法を解除できるだろうが、カモフラージュのためにルルトのスキルを【ドラゴンインストール】と銘打ったので、人目のあるところ、特に配信中に赤雷以外の魔法を使うのは絶対に避けたいところだ。
「フッフッフ、ならば小鳥遊は見ているだけでいい。余が必ず攻略し、小鳥遊を元に戻して見せよう!」
「いやまあ、元々俺は戦力にならないからやることは変わらないんだが……足手まといになるのは嫌だな」
「余にくっ付いていれば邪魔にはならん。安心しろ!」
「……おい、なぜそう言いながらつまみ上げる」
「肩では落としそうだから胸にしまっちゃおうかと……」
:胸に!!?
:エッッッッ!!!!
:ズルいぞ!!!
:オレも小人になりたい……
「……うん、ルルト。胸にしまうのはやめなさい」
「一番落としにくくて安定すると思うんだが……!」
「俺がいろいろ困るから、頭にでも乗せてくれ。見通しもいいし」
「むう、小鳥遊がそう言うなら、わかった」
やや不満そうな目をして、摘んだ辰樹をしぶしぶ頭へ。
ルルトの頭の上に座った辰樹は、なんとか視聴者のヘイトを買わずに済んでホッと胸を撫で下ろす。
移動中は髪に掴まっておけば振り落とされることもないだろう。
「しかし小鳥遊よ、このダンジョン見た目より広そうだぞ。かなり道が入り組んでる」
「この辺りにモンスターの足跡は見えない。とりあえず先に進んでみよう」
「りょーかいした!」
二人は洞窟を進む。
森を詰め込んだような洞窟なので足場が悪く、ルルトはぬかるみや木の根っこで転ばないよう慎重だ。
「――分かれ道だな!」
「俺のスキルでも反応がない。どっちに行くべきか……」
「じゃあ視聴者さんに決めてもらうか! なあお前たち! どっちに進むべきだ!」
:右!
:左
:上上下下左右左右でBAだ!
:右!!
:みぎー!
「なるほど、上だな!」
:はやまるな
:誰だコマンド打ったやつ
「なはは! 冗談だ。さすがの余も天井をブチ抜くほど行儀は悪くないぞ」
そう言って、ルルトは右へ進んだ。
視聴者とのコミュニケーションを楽しんでいるのか上機嫌に心が浮き立つルルトに、辰樹は人知れず微笑みを向けた。
1000年もの間、ひとりぼっちで寂しがっていたのだ。
今は存分に楽しんでくれ、と辰樹は密かに思う。
「……! 小鳥遊、何か居る」
「モンスターか?」
「おそらくダンジョンの主だ。でも姿が見えない……気配を捉えようにも、奴め魔力の霧に紛れて居所が掴めん」
「なるほど……まあ安心してくれ。かくれんぼなら俺の得意分野だ」
気配はあるがそれすらボヤけて、見えない敵。
探し出すのは面倒極まりないが、そこに居るなら【記録閲覧】はその足跡を映し出す。
「見えた、《ハイド・アンド・シーク》だ! 時計回りに走ってるぞ!」
:どこ?!
:どこにいるか誰か教えてくれ
:ドコドコ┌(^o^≡^o^)┐ドコドコ
辰樹の視界に映るのは、シルクハットを被った小人。
マジシャンのような風貌で、手には杖を持っている。
その背中には薄い光の羽があり、小人と呼ぶよりは悪戯好きの妖精だ。
ケヒヒと笑いながら洞窟内の草木に紛れ、ひた走る。
だがいくら姿を隠しそうと、居た記録さえあればその姿は見えている。
「余には見えん! やはり妖精は小さい上に隠れるのが上手いな!」
「右だ! あぁいや左――くそっ、すばしっこいな!?」
「いたたっ、そんなに髪を引っ張らないでくれぇ!」
「わ、悪い、ちょっと力みすぎた」
慌ててルルトの銀髪から手を離す。
相手は素早い妖精ハイド・アンド・シーク。
その姿を捉えられるのは辰樹だけ。しかし見ることができるのは過去の記録。
つまり見えたということは、既にそこには居ないのだ。
――だったら、予測して撃ち抜くしかない。
「ルルト、正面にある大きな渦巻き草、わかるか」
「あの草がどうかしたのか?」
「いや、奴さんさっきから時計回りに走ってるんだが毎度あの草の前を通ってるんだ。ルートが変わってない」
「……ふむ、理解した」
そう言って、ルルトは立ち尽くしたまま渦を巻いたゼンマイの中心を睨む。
「俺が合図したら撃ち抜くんだ」
こっそりと作戦を伝え、辰樹は【記録閲覧】でイタズラ妖精を目で追う。
妖精は時計回りに、一定の速度を保ったまま走っている。だがそれは辰樹のスキルによって浮かび上がった幻影に過ぎず、実際に撃ち抜くべきは幻影の手前を走る本体。
(こういうの偏差撃ちって言うんだよな……FPSはあんまりやったことないが、大丈夫、規則正しく動く的を射抜くだけ。幸い、銃はこれ以上ほどの性能だ。つまり俺のタイミング次第……)
ルルトの赤雷は弾丸の速度を遥かに上回り、悪魔の頭をブチ抜くほど狙いも正確だ。
辰樹は落ち着いて的を見る。見えているものの先、見えない的の動きを予測して――――。
「……今!」
「〝赤靂魔法〟――――ッ!」
辰樹の合図とほぼ同時に、ルルトは魔法を発動した。
刹那、ルルトの眼前で迸る紅蓮の稲妻。
稲妻は轟きながらゼンマイの中心を焼き穿つ。
そして、短い断末魔と共に妖精の姿が現れた。
誰にも掴まらないと自負していた妖精ハイド・アンド・シークは、突如として自分の身に起きた想定外に唖然。
だが、すぐに笑みを浮かべてシルクハットを取ると、「よくぞ見破りました」とでも言うかのようにお辞儀した。
そのまま妖精の身体は光の粒子となって霧散していく。
「や、やった! さすがルルト……ぉあ!?」
と、辰樹は思わずガッツポーズ。
ベストタイミングの見事な一発命中。
倒したのはルルトだが、自分のことのようにはしゃいでしまう。
だがその拍子で体勢を崩してしまい、頭から真っ逆さまに落ちていく。ルルトの背が低いとはいえ、小人になっている辰樹からして見れば地面まではかなりの高さだ。
「た、小鳥遊……!」
落ちる辰樹を受け止めようとするルルト。
しかし、なんとタイミングの悪いことか。
それともやはりベストタイミングなのか。
ちょうどその時、辰樹の身体が光に包まれた――。
(ああ……それは、マズいだろ……)
辰樹は自分を受け止めようとしてくれたルルトの手をすり抜ける。
――――どゆん。
深い谷間に落ちた辰樹は、柔らかいクッションに頭を埋めた。
「むぐっ……」
:あっ
:あっ
:うおおおーー!!?
:きっっ、キサマァァ!!!!
:ゆるせん
:キャー! 小鳥遊さんのえっちー!
今朝にも感じた息苦しさに、辰樹は顔が熱くなる。
逆さまでルルトの胸に落っこちたので、その瞬間に辰樹の身体が戻ればさすがのルルトも体勢を崩して後ろに倒れた。
そう、つまるところ。
配信中のライブドローンが映しているのは、美少女のシャツの襟口に頭を突っ込んで、そのたわわに実った胸に顔を埋める一般成人男性の姿であった――。




