#10. さあ、配信を始めよう!
――ショッピングも終えて、都内某所にある《ギルド》から出てきたルルトは拳を突き上げた。
「ふはは! ギルドカード、ゲットだ!」
「なんとか目的達成……これでダンジョンに入っても問題ないな」
冒険者が持つべきギルドカード。
ギルドに冒険者登録をすることで貰える証明書であり、ダンジョン探索許可証でもある。
魔法で住民票やらを偽造し、難なく冒険者登録をしたルルトは、晴れて自由に行動できるようになったわけだ。
ギルドカードには『竜居ルルト』という名前と証明写真、スキル【ドラゴンインストール】、16桁の識別番号、冒険者ランクが記載されてある。
「しかしどうせなら余も小鳥遊と名乗りたかったぞ」
「親戚って設定なんだから、苗字が同じだとややこしいだろ」
「むぅ」
ルルトは不服そうに唇を尖らせる。
「スキル名も、まあこれならドラゴン要素が外付けだって印象を付けられるだろ。肉体変化系、常時発動型で説明してあるからスキル名を叫ばなくてもいいけど、こういうのはここぞと言う時に叫ぶと配信的にも盛り上がる」
「なるほど、盛り上がりは大事だな! この冒険者ランク『E』というのはなんだ?」
「ダンジョン攻略の成績に応じてランクが上がる。基本はE~Aまで。ランクが上がるほどギルドからの支援が手厚くなるから上げて損はない」
まあ俺には関係ないが、と辰樹は付け足す。
戦闘能力のない辰樹は調査だけで攻略をしたことがないのでEランク止まりだ。
「基本は?」
「Aランクから上は『称号持ち』って呼ばれてる。ランク外、規格外……いわゆる超人だ。たとえばモンスターの殲滅力を評価される『討伐者』だな。他にもいろいろ称号はあるけど、大抵はそれ」
「確か先日の少女がそうだったな」
「ああ」
辰樹は軍服のスレイヤーを思い出しながら頷く。
あの子もなかなか大変そうだ、と。
(まあ……俺が首をくっ込むことじゃないか)
スキル【記録閲覧】で見た彼女の過去に目を瞑り、辰樹はネクタイを緩める。
「さて、冒険者登録記念だ。昼飯はルルトの食べたいものを食わせてやる! さあ、店を選べ!」
「なんと! 服も買ったのにご飯まで!?」
「……あんまり高くないものだと俺も財布も嬉しい」
「じ、自重しよう」
「それで、何が食べたい?」
「そうだなぁ……ここはやはり肉を――――」
手頃そうな飲食店はないかと辺りを見回して、突然ルルトは何もない路地を見つめて固まる。
「どうした?」
「ダンジョンだ。もうゲートが開いてる」
人が行き交う昼下がりの大通り横、建物に挟まれた狭い路地に、光彩が渦巻いていた。
「……ここは、ギルドからクエストが出てるな。まだ誰も攻略してないみたいだ」
「ならば辰樹、腹ごなしにやっておくか?」
「そうだな。せっかくギルドカードもゲットしたし、いっちょやってみるか!」
ルルト用のチャンネルは既に作ってある。
辰樹はスマホの遠隔操作で自宅からライブドローンを現在地まで飛ばし、ルルトの前で静止させて配信準備を整えた。
「――お、始まったな。ってさすがにまだ誰も見てな」
作りたてのチャンネル。登録者もまだ居ない。
まあ気長にやるか、と早速ダンジョンに突入しようとするルルトの耳に、ポコンと軽快な通知音。
ライブドローンから投写されたホログラムのコメント欄に次々とコメントが打ち込まれていく。
:ルルトちゃんだ!
:専用チャンネル作ったのか
:ぽまえら拡散しろ
:ちゃんとギルカ作ったー?
:かわいい
:保護者同伴ですか?
:デッッ……!?
「み、見つかるの早いな。さすがに目立つか……」
:あ、保護者
:保護者おるやん
:安心
「たつ……じゃなかった。小鳥遊も歓迎されてるじゃないか!」
「あー、どうも皆さん。ルルトのチャンネルだから俺は裏方です」
「小鳥遊のおかげでギルドカードも作れたぞ! 見よ!」
「あ、おい。個人情報をそんな見せびらかすな!」
:おー!
:ルルトって本名だったんか!?
:ドラゴンインストールかっこよくて草
「スキル名は辰樹の考案で~」
「そこまで! ほらダンジョン探索するんだろ!」
このまま雑談しているといつかボロを出しそうだ。
辰樹は慌ててルルトを制する。
「おっとそうだった。では早速突入していこう!」
:おー!
:おーー!
予想外の視聴者数にルルトのテンションも高めだ。
意気揚々とダンジョンゲートに飛び込んで、探索スタート。
そして――――全員の思考が一時停止した。
「……お?」
「は……?」
:ん???
:おっと??
そのダンジョンは青々とした植物が生える洞窟で、地面には透き通った水がちょろちょろと流れ、日差しに照らされて煌めいていた。
一見すれば普通のダンジョン。
しかし、辰樹は唖然としながらルルトを見上げていた。
「冗談だろ……」
「た、たっ、小鳥遊が縮んでるぅぅぅぅーー!?」
誰のイタズラか。
これもダンジョンの力なのか。
小鳥遊辰樹は、手のひらサイズの小人になっていた。




