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昼の亡者

作者: はる
掲載日:2025/11/10

世界が壊れても、太陽は昇る。

昼に動く亡者たちと、

夜に怯えながら生きる人々。

名もなき一人の“私”が見た、

絶望の中の小さな決意の物語。

叫び声がした。



それは誰かが悲鳴を上げるというよりも、何かが叫び出したという感じだった。



その瞬間、教室の空気が凍りつく。

机を叩く音、誰かが走る音、椅子が倒れる音。


私はただ呆然と立っていた。


そこにいたのは、知っている顔も知らない顔も混ざった――**“学校なのに、学校じゃない”**人たち。


子どもを連れた大人までいて、参観日か学祭か、そんな空気だった。



けれど、次の瞬間にはもう違った。


廊下の向こうから、小走りくらいの速さで迫ってくる何か。

皮膚が焼け爛れ、毛もなく、男か女かも分からない“それ”たちが、足音だけで空気を壊していく。



悲鳴が混ざる。

誰かが転ぶ。

その肩を踏み越えて逃げる誰か。



私は――そのどちらにもなれず、ただ見ていた。

血の匂いが鼻の奥に張りついた頃、やっと足が動いた。

知人の子どもが泣きそうな顔でこちらを見ていたから。


「こっち」と言いながら手を引く。



それだけで、やっと“自分”がこの世界に存在しているような気がした。



街に出れば助かると思っていた。



けれど外は、学校よりずっと騒がしくて、ずっと壊れていた。


倒れた車。

焼けた家。

逃げ惑う人たち。



それでも風は生ぬるくて、陽の光だけはやけに眩しかった。


遠くで、誰かが叫んでいる。


いや、“何か”が笑っていた。



ゴブリンのような小さな化け物が、車をひっくり返して遊んでいる。


牙の生えた巨体が、建物を壊し人をあぶりだしていく。



鳥の翼を持つ人型が、人間を掴んでは空に放り投げる。



――そして地面に落ちる音は、もう聞こえなかった。



私は子どもの手を引いて、影に潜り込む。

震えながら、子どもに覆い被さる。



昼の間だけ、奴らは動く。

夜になれば止まる。



その法則に、どんな意味があるのかはわからない。


けれど、その“夜”だけが私たちに残された唯一の時間だった。


夜になると、生き残った人たちが集まっていた。


みんなで罠を作り、武器を拾い、怪我の手当をし、計画を立てる。



でも朝になると、また誰かがいなくなった。

傷口から感染したり、

泣きながら「もう限界だ」と叫んで外に飛び出していったり。



ゾンビを倒しても、安心なんてなかった。

倒せば倒すほど、奴らは増える。



そして――真似をするようになった。



罠を。

武器を。

戦い方を。



私は眠れなくなった。

だから、もうひとつの隠れ家を作った。



夜のうちにこっそり抜け出して、古い倉庫の中に毛布と缶詰を置いた。



「もしもの時はここに逃げよう」と自分に言い聞かせた。




ーーーそして“その時”は、すぐに来た。




夜、空気がざわめいた。


校舎の壁の向こうで、金属がこすれる音がした。


罠の仕掛けが作動したんだと思った。



でも次の瞬間、それが**“壊された音”**だと気づいた。



悲鳴が混ざる。

誰かが叫ぶ。



そして、また静かになった。


私は息を殺し、影の中で震えていた。


胸の奥が焼けるように痛い。


子どもの泣き声が、どこか遠くから聞こえた。



――助けなきゃ。



けど、足が動かなかった。

怖かった。


この夜が明けたら、また昼が来る。



昼が来たら、あの化け物たちが動き出す。



そう思ったら、息が詰まった。



私は――逃げた。



人のいない廊下を抜けて、外へ。


夜風が肌を切るように冷たかった。


倉庫まで走り、扉を閉め、鍵をかける。


そして、うずくまった。


心臓の音がうるさい。


息ができない。


暗闇の中で、手の震えが止まらなかった。




どれくらい経っただろう。


空が少しずつ白み始めた頃、

静寂の中で、あの子の泣き声が

――もう、聞こえなくなった。




「……これでいいの?」



誰に聞いたわけでもなかった。


倉庫の壁に向かって呟く声は、誰の声でもない気がした。



ーーー怖い。



でも、このままじゃもっと怖い。



私は立ち上がった。


鍵を外し、朝焼けの光を見つめた。


血と煙の匂いの中で、胸の奥にひとつの言葉が浮かぶ。


――あの子だけでも、助けよう。


鉄パイプを握りしめて、私は学校へ向かって歩き出した。




(完)

見ていただいてありがとうございました。



ゾンビが襲ってくる夢を見たんですよね。

あまりにもリアルでした。

いつも覚えてる夢は日記に書出してるんですけど、

このゾンビの夢、実は何回も同じようなもの見てるんです。



で、今回こういう形で表現できたらなって思って。。。


文字をこんなに並べるなんて

小学生の時の読書感想文以来です。

難しかったです。


暖かい目で見てくださったあなた、ありがとうございました。



また似たような夢を見たら、次も書いてみようと思います。

その時は、また読んでもらえたら嬉しいです。




はる


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