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7.暑い日の手のひら

カナタは動揺しながらも周囲を見渡す。

目に映るは花瓶、木目の時計、そして天井の角4箇所に設置されている監視カメラ。それのレンズに自身の泣きそうな情けない顔が反射し、歪んで写っていた。

 

 

「もしかしてさ、空太郎に見られてたの?」

 

「そうだね」

 

「私の気持ち悪い気持ちも?」

 

「……それはわからないねぇ。そもそも、何を指して気持ち悪いと言っているのか私には分からないねぇ、ごめんね」

 

「……そっか」

 

 

カナタはそう呟き、俯く。女になりたいと渇望したが、辛くなり諦め様としてダンジョンに潜った。潜った先で女になれるかもと、ひと筋の希望に縋り、その結果がこれだ。

 

ーー空太郎の為に女になる? 空太郎がそう言ったのか? 同性だと思っていた友人が実は好意を寄せていた? ……なにそれ、気持ち悪い。

 

 

「空太郎には私の気持ち、知られたくなかったなぁ…」

 

「だから、空太郎君に確認しようね……入っておいで」

 

 

ガチャリと扉が開かれる。

カナタがゆっくりと振り向くと、金髪の耳が長い女性に連れられた強張った表情の男が姿を表した。


地毛である赤髪を黒に染めたツーブロックヘアに精悍な顔立ち。183cmほどの長身に筋肉質の体型。

カナタがよく知る人物、友人の空太郎だ。

 

 

「あ……空太郎」

 

「蛍……。いや、カナタか。……今はそこじゃねぇ……。本当に! 本当に悪かったッ!! 子供の頃、俺のこと見ろとかほざいた癖に! カナタのことちゃんと見れてなかったッ!! 俺が不甲斐ないばっかりに苦しめちまったッ!! 」

 

一瞬の静寂、そしてお互いの、視線が合った時空太郎は地面に跪き額を床につける謝罪、土下座をしていた。


空太郎はあの日のことを忘れたことなど、一度たりともなかったはずなのにカナタの変化に気づけなく、何故支えてやれなかったのかと過去の自分を殺してやりたい程憎んだ。

 

 

ーーそう、あの日はニュース番組の天気コーナーで、殺人的猛暑と言われるくらいには暑い日だった。けたたましく蝉の鳴き声が教室内にいる自分達にすら聞こえる、そんな日に空太郎はカナタと出会う。


カナタは転校生で青いランドセルを背負いながら「あー、よろしくお願いします?」と短く自己紹介をし、窓際の席に座る。


窓際から外を眺めるカナタを見て、蝉の鳴き声が聞こえなくなると錯覚するほど、空太郎は見惚れていた。

一目惚れである。その日から空太郎は声を掛け始めた。

 

 

「えぇと……。俺、坂峰空太郎って言うだけどさ、君? 自己紹介の時名前」

 

「うるさい黙って。何言ってるかわかんない」

 

「……えぇ」

 

 

視線も合わせずそう言うカナタだったが、空太郎は挫けなかった。

 

 

「一緒に帰ろうぜっ!」

「………」

 

 

ガン無視で素通りされるが、それでも諦めなかった。次の日もその次の日も声を掛け続ける。

そんな、ある日カナタが問題を起こす。


同級生の少年達を殴り、失神させた。理由はーーなんか目障りだった。それだけだった。


その日から同級生達は腫れ物を扱うように接するが、空太郎はそれでも声をかけ続ける。

不思議なことに好きのままだったし、ほっとけなかったからだ。

 

学校の表門から少し歩いた先の通学路で、空太郎はいつもの様にカナタに後ろから声を掛ける。

 

 

「今日こそ一緒に帰ろうぜ!」

 

「……しい」

 

「え? なんて?」

 

「鬱陶しいって言ったんだよッ!! 毎日毎日! 俺はお前らとは違う! 俺は人間なんだよっ!! なんで家畜みたいな奴らと過ごさなきゃいけないんだ! 気持ち悪い! お前もあいつらみたいに殴ってやろうか!?」

 

 

カナタは憎しみを吹き出させる様に怒鳴り、対して空太郎は不思議なことに冷静のままだった。

 

 

「……俺も純平達も同じ人間だし、殴りたきゃ殴れよ、俺は逃げない」

 

「まるで俺が! 俺が逃げてるみたいに言いやがってッ!!」

 

 

そう言った瞬間、腹部を殴られる。今まで感じたことの無い激痛が襲うが、意識が失わないように歯を食いしばり耐えた。

 

 

「……んぎぎ…、そんなつもりで言ったわけじゃねーけど、そういう風に感じるってことは逃げてんじゃないのか? 人の顔全然見ないし目合わないし」

 

 

「お前らみたいな有象無象の一緒の顔みたいな見分けのつかない奴ら……あにひゅんだ!」

 

 

空太郎はカナタの両頬を両手で優しく挟み、自身の顔に向かせる。

 

 

「有象無象…? だったら! 俺の顔くらい見てみろよ! これが俺の顔だ! 俺の表情だ! 俺が! 坂峰空太郎っていう人間だ! 俺はお前の顔をいつだって見れるぞ! 」

 

「……ふざけんな、なにそれ馬鹿みたい。でも、うん、見れたよ空太郎の顔」


 

カナタは目を見開き、暫く呆けた後くすりと確かに微笑した。


それからは空太郎への態度は軟化する。空太郎に対しては笑う様になったし、物理的心理的にも距離が近くなった。


けれど2か月程前からカナタがそっけなくなったのだ。前みたいな感じではなく、毎日会ってはいたが、口数が少なくなり、俯くことが多くなっていた。


心配して何度も声をかけるが、「大丈夫だよ」「心配しないで、平気だよ、ありがとうね?」ばかりだったが踏み込めなかったのだ。 


これ以上踏み込んだらまた、以前の関係に戻ってしまうのでないかと言う恐怖心が足を重くした。

 

 

 

 

「ーーなんで、なんで空太郎が謝るの? 謝るのは私だよ? 私は空太郎に気持ち悪い感情を抱いているんだよ? 聞いてたでしょ? だから、謝らないで? 土下座なんてやめてよっ!」

 

「カナタは気持ち悪くなんてねぇよ! もし気持ち悪いなら! 俺の方が気持ち悪いんだよ! 子供の頃から! 出会った時からカナタお前に惚れてんだよ俺は! 下心満載だし、独占欲だってあんだよ! 好きなんだよ、ずっとそばにいてほしいくらい好きなんだよ!」

 

 

カナタが空太郎を無理矢理起こしながらも、空太郎の口から本音が溢れ出す。

 

 

「私も、私も好きだよ! ずっとそばにいてほしいし! 空太郎が隣にいると灰色の世界に色がつくんだよ! 凄く綺麗なんだよ! 後ね! 将来は結婚して子供いっぱい作りたいくらい好きだよ!!」

 

 

空太郎とカナタは互いに涙を流しながら抱きしめあった。

その後も好き好き合戦は続き、それを微笑みながら静かに見つめていたが、内心では「シャオラァっ!! 第一関門突破だっ!! 」と歓喜していた。

 

 

 

****

 

 

 

「とりあえず、言いたいことも聞きたいことも山程あるけど、とりあえず協力してやるよ……。でも、その前に三週間……いや、キリ悪いから一カ月ほど休暇貰うから」

 

「えっ(絶望)」

 

それから暫くして2人が落ち着きソファに、座り直した時に隣に座っている空太郎に抱き付き、頭を撫でられご満悦になりながら椎名に伝える。

 

 

「いやいやいや! 長いって!? 一カ月? 一カ月!? バカンスでもする気かい!?」

 

「うん」


「うん!? えぇ……」


素直に頷くカナタを見て椎名は絶句したし、空太郎の安全装置関心っぷりに感心した。


 

「まあ、一週間は空太郎に魔力の扱い方教えたいし、猪頭の姉がいるダンジョンに行くよ」

 

「え? あそこはそもそもカナタ君の眠っていた魔人としての本能を目覚めさせるためだけに生み出した場所だし、もう消滅したよ?」

 

「えっ? お姉ちゃんは!?」

 


以前の他人への興味関心のなさが嘘みたいに動揺するカナタを見て椎名は苦笑する。



「あぁ、大丈夫心配ないよ。…‥私の推測だと、カナタ君の部屋掃除してるんじゃないかなぁ」

 

 

「そっかぁ……。なら安心だねぇ。とりあえずそこら辺は空太郎とお姉ちゃんとで話し合うよ」

 

 

そう言いながらカナタは身支度を整えてから空太郎と立ち上がり、帰るねと微笑み、手を繋ぎながら応接室を後にした。

 

 

 

「ふぅ〜。やっと終わったねぇ。ごめんねー。もう出てきて良いよー」

 

2人の足音が聞こえなくなった数分後、椎名は静かに口を開いた。

1人の女性が部屋の隅から姿を現す。灰色の髪に赤い瞳紛れもなく魔人であった。

 

 

「椎名様……。普通にびびったんすけど……? あたしアレに勝てないっすよ? 」

 

「大丈夫大丈夫!! 死なないし!」

 

「そういう問題じゃないっすよ! 再生するけど痛いのっ!! あたし、痛いの嫌い! OK?」

 

「おけー! まあ、ほらそんなことより会議始めるよ?  クリエ君」

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