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6.異常者共には異常者ぶつけんだよ

「……なんで?」

 

「なんで? とはどういう意味かな? あ! もしかしてなんで知ってるかってことかな?」

 


カナタは瞳孔をガン開きにしながら、無理矢理絞り出した様な幽かな声で問う。

それに対して椎名は微笑みながら大袈裟にわざとらしくそう答えた。

 

 

「……そうだよ? それで、なんでお前が知っているの? なんで?  ねぇ、なんで? 」

 

 

普段のヘラヘラとした軽薄な態度や他者を見下す姿、貼り付けた様な笑顔はそこにはない。


あるのは無表情で首を傾げながら壊れた機械の様になんで? と繰り返す姿だけだった。

 

 

「そりゃあ、蛍くん。君が生まれてから今までの間ずっと監視してたからに決まっているじゃないか」

 

「……? え? は? 」

 

「いや、だから、君の人生をずーと記録してたんだよ、365日毎日欠かさず、そんな時に君は空太郎君に偶然出会った。あんなの天文学的確率だよ……。いやぁ、あの時ほど感情が昂ってしまったことはないねぇ」

 

「……監視? 何を言っているの? 俺なんか監視してなんの意味があんのっ!」

 

「蛍君、君はなんかじゃないんだよ。君はあらゆる世界の敵対種族、魔人なんだからさ、しかも先祖帰りの……まぁ、今の君に言ってもわからないか。だからはい、君が喉から手が出るほど欲しがっていたこれあげる」

 

 

椎名は微笑みながらテーブルに手の平サイズのそれを静かに置いた。


それは銀色の、所々錆びている錠前だった。

目を凝らして見ると薄っすらと小花、アキレアが刻印されている。

 

 

「……は? なんで急に? 意味がわからない」

 

「これは初めから君に渡すつもりだったからね。遅かったくらいさ」

 

 

カナタは訝しんだが、椎名を一瞥した後それを手に取った。

それはひんやりとしていて、どこからどう見ても只の錠前にしか見えない。

 

 

「安心して良いよ。それは正真正銘、君が欲しがっていた魔道具さ。それに魔力を流せば君は魔道具の契約者となり、女性になれるよ」

 

 

椎名は笑顔でそう言ったが、この魔道具に女性になれる能力はない。

あるのは治癒と浄化の能力だけである。

 

 

『くっくっく 妾の力を欲するのは貴様かならば代償を一つ払うが良い! ちなみに代償は性別とかでも大丈夫だぞー……こんなんでどうかな?』

 

『良いねー! 凄く良いよー! でもちょっと抑揚が足りないかなー』

 

『……わたし女優じゃないんだけど?』

 

 

椎名は先日の魔道具とのやりとりを思い出していた。

こんな飄々としている椎名だか、内心冷や汗ダラダラである。


というか、この場が一瞬で戦場になってもおかしくない。

それほどまでにカナタの精神状態は不安定であった。


空太郎君には責任持って常にカナタ君の手綱を握っていてほしいと、切に願っていた。

 

 

「………」

 

 

蛍は無言で錠前を見つめながら錠前に魔力を流す。

錠前のロックが外れた瞬間鈍く光りながらその姿を変えた。


それは一匕の短剣。それに鍔はなく、刀身と柄のみで構成されており、銀色のシンプルな短剣がそこにあった。

 

 

『わっははは! 我の名前はローキウス! 我の契約者ならだいしーー』

 

「俺を女にしろ」

 

『いや、だから代償をー』

 

「早くして。無駄話はいらない」

 

『あ、はい。すいません』

 

 

 

魔道具ローキウスはアドリブに弱かった。まさか遮られ、催促されるとは思ってもいなかった。

内心項垂れながらもカナタに掛かっている呪いの解呪を始める。

 

ベリベリと呪いが剥がれていくのと同時に蛍の魔力の質が変異していく。

青白い魔力から、どろどろとした黒く悍ましい魔力それが溢れ出していた。

 

その数秒後、魔力が飛び散る様に消失し、解呪が完了したのだ。

 

 

「気分はどうだい? 蛍君。ーーいや、カナタ君が正しいかな?」

 

「……ずっと、ずっと自分の名前に嫌悪感があった。周りの奴らが同等だと思えなかった。ノイズが走っていた。記憶が曖昧だった。思い出した記憶の中にお前がいた……。元凶はお前だな?」

 

 

カナタ・ローグランドは身体が女性になっていく感覚と同時に、膨大な自身の記憶も流れこんでいた。


自分の名前、思い出、家族のこと、猪頭のこと、なにもかもが頭の中に詰め込まれていく。カナタは自分の体を見てから苦笑する。


女性になっていく? 違う、元から女性なのだからそれは間違っている。魂が正しい姿に戻り、正しく認識出来るようになっただけだ。

 

急激に記憶を取り戻した影響か、頭痛が襲いしゃがみ込むが目線だけは椎名に向けていた。

 

 

「私が魔人とか、記憶の改竄とかは今はもうどうでも良い…。お前のせいで私と空太郎は……許さない。惨めったらしく殺してやる」

 

「隣の部屋に空太郎君スタンバってるけどそれで大丈夫かい?」

 

 

顔を顰めながらも右拳に魔力を流し、椎名に振り下ろした拳を顔面ギリギリで止める。

憎しみの表情からいっぺんして青ざめ狼狽えていた。

 

 

「えっ? はっ? そんなわけないじゃん? というかなんでそんなこと! 意味わかんないんだけど!」

 

「だから、君を監視してたって伝えたじゃないか。というか、君は警戒しなさすぎ、この部屋の監視カメラに気づかないなんてさ」

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