第17話 サラゴサ男爵への報復
「サラゴサ男爵への報復」
ロサーナ村を裁き、再生の第一歩を踏み出したアントニオの心に、まだ一つだけ消えぬ炎が残っていた。
――サラゴサ男爵。
村を踏みにじり、婚約者を奪い、麦畑を無残に蹂躙した張本人。
彼が王都で悠々と暮らしていると知った時、アントニオは決意した。
「このまま終わらせはしない。お前にも、償わせる」
風の精霊が告げる。「その者の邸に、偽りの光あり」――つまり、裏の顔があるということ。
アントニオはエミリアとリュネットを連れ、王都・西区の貴族街へと向かった。
サラゴサ家の邸宅は、絢爛豪華だった。大理石の門、金の装飾、噴水のある庭。だが、門番すらも傲慢な態度を隠さない。
「平民が何の用だ。ここは貴族様の邸だぞ」
アントニオは、令状を掲げた。
「私は国王より正式な調査権を与えられた使者だ。通せ」
門番が怯んだ隙に、エミリアが魔法で鍵を無効化し、門を開いた。
屋敷の奥、男爵は絨毯の上でワインを傾けていた。
「おや……これは、見覚えのある顔だな。麦くさき田舎者が王都にまで来るとは」
アントニオは静かに歩み寄り、机の上のワインを倒した。赤い液体が高価な書類に滲む。
「何をする!」
「償わせに来た。あの日、お前が踏みにじったものの重さを、今から味わってもらう」
アントニオは懐から一枚の証拠書類を取り出した。そこには、男爵が多数の村を不法に買収し、農民たちを追い出していた記録が残されていた。
「これは……どこで……!」
「精霊たちが見ていた。お前の“隠した真実”を、風が運んでくれた」
男爵の顔色が変わる。
エミリアが杖を構え、リュネットが背後を固める。
「ここで抵抗しても無駄よ。あなたの悪事は、すでに国王陛下の耳に届いている」
アントニオは男爵の胸倉を掴み、引き寄せた。
「お前が見下した農民の力、貴族の欺瞞を打ち砕くって、教えてやるよ」
男爵は連行され、王都の民衆の前で晒し者となった。貴族でありながら数々の不正を働いていたことが暴かれ、爵位は剥奪、財産は没収された。
彼が最後にアントニオへ向けた視線には、もはや傲慢さも軽蔑もなく、ただ絶望だけがあった。
「……なぜ、平民のくせに……!」
「俺たち平民には、守るべき土地と、信じる仲間がいる。お前の虚飾とは違う、本当の強さがな」
男爵が王都から追放される日、アントニオは精霊の声を聞いた。
――風はすべてを見ていた。麦は知っていた。正義の時が来ることを。
そして、今こそそれが果たされたのだ。
彼の胸に残った傷は癒えぬまま、だが確かに、風は吹いていた。新しい季節を告げるように。




