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第十一話 崩壊の鏑矢 (1)

第十一話 崩壊の鏑矢 (1)








 アーヴァリアンの街の一つ、ジフレスト。王都ハイレインから二十キロ程西に位置するその街の一角の宿屋で、唐突に殴打音が響いた。


「なんでだよ!」


 震えるほどに握り締めた拳を振り抜いた姿勢のまま、簡易な綿製の寝着代わりの服を纏った黒い髪の少女――リディ・レリアは自らが殴り倒した男を見下ろし、激昂した。


「なんでっ、君はっ…!それだけの力を持ってるのに、反逆者のいうことなんて聞いたっ!?なんで、みすみすスヴェンを行かせた!!」


 彼ら一行が貸し切った宿屋には、今殆ど人気がない。食事の場所である食堂に、買い出しに行かなかった狩人数名が佇み、宿屋の職員が恐々と事態を見守っているのみだ。

 殴られた頬を押さえながら、クラウディオは黙って身を起こし、黙然とリディを見上げた。


「スヴェン・アイヒホルン自身の望みだ」

「それを何故聞いたと訊いてる!死にに行ったようなもんだろ!」

「そうではないと判断した。それに、本人が決めたことは尊重すべきだ」

「あいつはまだ十四だよ!」


 クラウディオは、落ち着き払った眼でリディを見やる。


「お前だって、俺から見れば同じくらいの子供に見えるが。…だが、お前も自分の意志で行動しているように、スヴェンにも意志がある。それにお前の願いを押しつけるのは、ただのエゴではないのか」

「っ……!」


 カッと頭に血が上り、感情のままに再び振り上げられたリディの拳を、しかし背後から伸びた手が止めた。金髪の青年――ルイス・キリグである。

 ルイスはリディと対照的に、クラウディオやジョンから事態経過を聞いている時も聞き終わってからも、冷静な様子を崩さなかった。現に今も、瞳から感情を伺わせていない。


「やめろ、リディ。八つ当たりしてなんになる」

「でも、ルイスっ…」

「いいから落ち着け。――クラウディオ、シルグレイは俺に何か言っていたか?」


 不意に振られた問いにクラウディオは目を瞬かせ、頷いた。


「ああ。――『決して手を出すな』と」

「――」


 ルイスの蒼い眼に、その時初めて忌々しげな色が浮かぶ。声に出さず、口許だけが「あの野郎」と動いた。


「…ならやっぱり手を出すべきじゃないな。あいつらが決めたことだ。あいつらの国はあいつらのものだ」

「ルイスはそれでいいの!?」


 リディがルイスから手を振り払い、金の眼を怒りに燃やして怒鳴る。


「クリスティアーナは殺されたんだ!シルグレイだってスヴェンだって、いつ殺されるかっ…!なのに、何もしないなんて」

「いいわけないだろう」


 言い返したルイスの声に、リディだけでなく全員が本能的に身を竦ませる。一見平坦な調子のそれは、底に怒りや悲しみなどという言葉では済まない、様々な強い負の感情が押し込められていた。


「だがあいつは『手を出すな』と言った。俺達にじゃない――『私達』にだ」


 その微妙な言い回しを、リディは少しおいて理解した。しかし、その場でのそれ以上の問答をルイスは避け、リディの頭を軽く叩く。声の調子は元に戻っていた。


「今、俺達のすべきことは他にあるだろう。取り敢えずお前は着替えてこい」

「…わかった」


 リディは唇を噛み、身を翻す。その際、既に立ち上がっていたクラウディオに「殴ってごめん」と小さく謝ってから、食堂を出ていった。

 ルイスはクラウディオに向き直り、苦笑して頭を下げる。


「悪いな。あいつ、怒ると見境ないから」

「気にしていない。――それに、親しい者が死んだとあれば、当然だろう」

「……」

「その点、お前は冷静だ。腹の底は煮えくり返っていても」


 ルイスはやはり苦笑して、髪をかきあげた。


「俺は自分の感情をある程度コントロール出来るからな。ついこの間まで忘れてたが」


 半ば自嘲するように言うと、「少し寝る」と言い置いて、姿を消した。


「…ってか、あいつら何者なんだよ。王族を呼び捨てかよ」


 黙って推移を見ていたヨセフは、ルイスの気配が消えるのを待ってそう呟いた。


「まあ、これからのことについては全員揃ってから今夜話すさ。その頃にはリディの頭も冷えてるだろう」

 ジョンは頭をぼりぼりかきながらそう答え、昨日のことを思い返した。










 闘技場をあとにした狩人達を迎えたのは、ハイレイン狩人協会支部長のジークリードだった。彼はひとまず狩人達を協会の建物へ連れ戻り、簡単に任務の説明をした。


 いわく、生前、つまり一昨日の時点でクリスティアーナは狩人協会に対して『イグナディア潜入』を依頼し、ジークリードはそれを受諾。金額は前払いで全額支払われたらしい。

 その任務はかなりの危険を伴い、並みの狩人では務まらないこと、できれば『十強』の彼らに頼みたい旨とあり、詳しいことはそれをすでに受諾している『ヘキサ』が知っているという。


 だが、その場に長居するには余りにハイレインの情勢が不安定であり、ジークリードは突っ込んだ内容を説明せず、用意していた幌馬車をジョン達に託し、ハイレインから発たせたのだ。










「イグナディア、ねえ」


 噂には聞いている。約三ヶ月の間、一切国に立ち入れていないと。慌ただしくジークリードが話したところによると、結界が張られているらしい。しかし、それならどうやって踏み込むというのか。


「なんにせよ、夜になってからだな」


 ジョンは呟いて、情報収集をするべく自らも街へ赴いたのだった。





―――――――――――――――――――――――



 リディは自室のベッドの上で、膝を丸めて抱えていた。脇では心配そうにネーヴェが彼女を見上げている。


「……ちくしょう」


 噛み締めた歯から、呻き声が漏れる。


(何が『烈火の鬼姫』だ。何が最強の炎だ。私は、守りたいものも守れないっ…)


 力不足ゆえに、ツェツィリアに負けた。その結果、クリスティアーナの死を見届けることすら出来なかった。スヴェン達を追い込むことになった。


(…いっそ)


 ガルイードとかいう大臣を殺してしまおうか――そんな昏い考えが頭をもたげた時、軽いノックと共に「入るぞ」と声がして、ルイスがドアを開けた。目にしたリディの表情に眉をはねあげ、ルイスは静かに部屋に滑り込むとドアを閉める。


「…酷い顔だな」

「…悪かったね」


 ルイスは机の前の椅子を引っ張ってくると、リディの正面に据え、どさりと座った。ネーヴェは二人を交互にみやり、きゅう、と鳴いた。


「お前――ガルイードを殺せばいい、とか考えてないだろうな?」

「……」


 リディは答えなかったが、空気で察し、ルイスは溜め息を吐いた。


「図星か」

「駄目なの」

「駄目に決まってるだろう」

「なんで」

「あのな。先に言っとくが、ゼノの時とは違う」


 リディはぴくりと肩を揺らした。ルイスは淡々と話す。


「あの時は、『お前』という理由があった。『お前』――『烈火の鬼姫』は、ゼノに対しての絶対的制裁権と介入権がある。俺はその連れという扱いだったしな。だけど今回はそうはいかない」

「内政干渉だって言うわけ!?なんでっ…!だって、ガルイードはクリスティアーナを殺したんだ!それに対して抗議して何が悪い!?」

「弑逆だろうが簒奪だろうが、それはあくまでその国の内部での出来事だ。別にガルイードはシルグレイを王に差し替えただけで、他国に戦争を売るような挙動はない。あくまで国の中の政策変更をしようとしてるだけだ。他国が介入すべきことじゃない。俺達がただの雇われで、シルグレイ側に依頼されてたならともかくな」


 感情を乱す様子のないルイスに、リディはキレた。


「君はクリスティアーナと親しかったんじゃないの!?なんでそんなに冷たいことが言える!?敵を討ちたいとは思わなっ…!?」


 しかし、彼女は途中で言葉を切った。突然、ルイスから恐ろしい殺気のようなものが噴出したからだ。


「…思わないわけないだろう」


 低い声がリディの耳朶を打つ。殺気はリディではないところに向けられているものの、その強さは彼女の頭に冷や水を浴びせるに充分な効果を持っていた。


「俺だって、今すぐ駆け戻ってシルグレイとスヴェンを助けたい!!だけど、そういうわけにはいかないんだ!!」


 階下に聞こえないように押し殺された激昂。それはリディだけを震わせ、宙に霧散していく。


「しかもあいつは俺に『手を出すな』と釘を刺した。――そのうえで、それを無視することは、俺達には、ルイシアスとリディエーリアには出来ない!俺達が、アーヴァリアンに干渉する術はないんだ!」

「…ごめん」


 リディは俯いた。…自分のことばかり血が上って、全くルイスのことを考えられていなかったのだ。ルイスの方が、クリスティアーナ達と過ごした時間は遥かに多い。憤激も、リディの比ではないはずだ。だが、彼は今は持ち合わせていない本来の身分のことも考えて、冷静を貫いていたのだ。

それをぶち壊したのは、自分だ。


「クリスティアーナの敵を討ちたいかなんて、そんなの当たり前だ…!だけど、もし俺達の素性がバレた時…窮地に陥るのは父上達だ!そんなことは、出来ない…」

「ごめん」


 リディは手を伸ばして、ルイスの頭を抱き寄せた。震える頭を抑えて、耳元で呟く。


「ごめん。私が考えなしだった。自分の立場、忘れてた。…ごめん」


 何度も謝るリディに、ルイスは許す代わりに自分の腕を伸ばして細い躰を腕に閉じ込めた。痛い程の力で抱き締め、溢れる悲しみと怒りを内に抑え込む。


「……」


 微かに震える腕を直に感じながら、リディはルイスの肩口に顔を埋めた。やるせなさと悔しさ、哀しみを自分の中に押し戻していく。

 瞳から溢れた涙と喉から漏れた嗚咽は、ルイスの服に染み込んでいった。








―――――――――――――――――――――――――――





「まず、詳しい事情も知らないまま俺達を守ってくれたことに礼を言う」


 夜、夕食を終え、人払いもしてもらった食堂に集まった狩人達に、ルイスはそう言った。

 ここに集まった狩人は総勢十九名。


「気にするな。同胞なのだから当然だ」


 十強第二位、『ジィ』――五名。クラウディオ・ガウス、ツェツィリア・クロノヴァ、テディー・ピアース、マルセロ・ドーリアス、ルネ・フォーレ。


「気になったから、来た。それだけ。」


 十強第八位、『オクタ』――三名。アインス・ザレッタ、ツヴァイ・ザレッタ、ドライ・ザレッタ。


「ま、知らん仲でもないし、依頼金もかなりよかったからな」


 十強第九位、『ノナ』――四名。ジョン・イーデル、エドガー・ムーア、ヨセフ・フィッシャー、マシュー・アストン。


「僕らは、よくわからないままなんですが。クラウディオさんについてくるように言われて…でも、よろしくお願いします」


 一般新人狩人、『シルバーダガー』――五名。ハワード・ロードル、エイト・ベル、リリア・メイス、カミラ・シンフィルド、ユーリス・ティレット。

そして、


「これから今回の任務を説明する。わからないことがあったら随時聞いてほしい」


 十強第六位、『ヘキサ』――二名。ルイス・キリグ、リディ・レリア。


 一組を除き、このそうそうたる顔触れを他の狩人が見たなら腰を抜かすこと安請け合いだ。それを見回して、ルイスは話し始めた。


「事の始まりは三ヶ月前。エーデルシアスの王女誕生式典だ。俺達の最初の依頼主は、そこに参加していた貴族のひとりだ」


 ここの辺りは、予めジークリードやクリスティアーナ達と決めておいたことである。ルイスもリディも、自らが高位の貴族であることを明かすのを嫌ったためだ。


「ああ、エーデルシアスっていうと私達もいたわ。急に魔物が襲ってきたもんだから、びっくりしたわよ。撃退したけど」


 リリア・メイスの言葉にルイスは思わず礼を言いそうになり、踏み留まった。


「……。ああ、それだ。あの時王宮側には、魔族が出現していたらしい」

「「「魔族!?」」」


 何人もの声が揃った。一同驚愕の表情を浮かべ、ルイスを凝視する。


「俺もざっとしか聞いてないけどな。なんでも、その直前には賊が侵入して国王を脅してたそうなんだが、現れた魔族はそれを殺したとか」

「…はぁ?」


 聞いていたリディはルイスの空っ惚けた話に呆れながらも、疑わしさを微塵も感じさせない話しぶりには感心していた。ちなみに彼女は自分が話すとボロが出るのが解っている為、ひとつだけやれと言われた役以外ルイスに丸投げしている。

 ユーリス・ティレットが訊ねた。


「なんで魔族が人間を助けんの?」

「さぁ…でも助けた訳じゃないらしいぜ。その辺は言葉を濁されたから詳しいことはわからないが、その魔族はその場にいた奴らに、『イグナディアに来い』って言ったらしい」

「…?あなたはその場にいた人間ではない。」


 ツヴァイ・ザレッタが首を傾げる。ルイスは頷き、懐から紙を取り出した。紙には、魔術士以外にも視認できる光で何やら文字が綴られている。


「これは俺達の依頼主の魔力押印だ。その場にいた貴族はみんな大貴族ばっかりで、そうそう動ける立場にない。だから、これで騙そうってわけだ――国境の結界を」


 ルイスに目配せされ、リディは渋々口を開いた。嫌だと言ったのに、ボロが出たらルイスのせいだ。


「…推測だけど、アーヴァリアンの魔術士でも手が出なかったイグナディアの結界は、ある一定の波長を認識すると解けるんじゃないかって研究されたらしい。その一定の波長は、要するに魔族に名指しされた貴族のものだ。だからそれを利用する、らしい」

「…それで、狩人に丸投げかよ?ちぇー、たまには自分で動けってんだお貴族サマよぉ」


 テディー・ピアースが不機嫌に言った。ルイスとリディは曖昧に笑い、話を続ける。


「ここからが本題なんだが、知っての通りそれから約三ヶ月の間、イグナディア内部とは連絡がついてない。だが直前の報告内容から、イグナディアには『ペンタ』がいると思われる」

「!!ゼーテ達か…」


 エドガーが思わずと言った風に唸る。


「俺は『ペンタ』は知らないからなんともいえないけどな。それに当たって、今回の件――『オクタ』は外れてもらう」


 ルイスの言葉に、しかしさして衝撃を受けた様子もなく、アインス・ザレッタは訊いた。


「そう。一応、理由を聞く。」

「いくら異常事態とはいえ、一国に狩人最高戦力が半分も集まるのはまずい。だから『オクタ』には、今十強のいない大陸南部に向かってほしいそうだ」

「あ?南部にいないって…あー…ザイフィリアとフェルミアか」

「ああ。本来ならもっと減らすべきなんだろうが、魔族を相手にする以上、また『ペンタ』の生存も危ぶまれている以上、他のパーティには来てもらいたい。…『シルバーダガー』については、『ジィ』に一任したいと思う」

「了解した」


 クラウディオが頷き、彼はハワード・ロードルを始めとする『シルバーダガー』に向き直った。皆リディと同じかそれより若いメンバーは、緊張した面持ちで姿勢を正す。


「お前達は、なぜ自分達がここにいるかはよく解っていないだろうから説明する。俺が、お前達は将来有望だと思ったからだ」

「…はあ」


 ハワードが、喜んでいいのか疑問に思っていいのかわからないような微妙な顔をする。クラウディオはルイスとリディを顎でしゃくった。


「若手有望株一位は、間違いなくこいつらだ。だからこそ死んだと聞いた時は残念に思った。それだけに、お前達との戦いは嬉しかった。こいつら以外にも有望株はいると知ったからだ」


 ルイスとリディもまた、微妙な顔をした。ただし彼らの場合は、持っている素性の後ろめたさゆえだが。


「だが、俺達は死線をくぐることで成長する人種だ。中途半端に力があり、そこらの魔物を苦労せず狩る力を持っていると、そいつらは伸び悩む。命の心配はしなくてもいいかもしれないが、上を目指せなくなる。俺はそれを恐れた。だから、今回のような話は、お前達に持ってこいだと思った」

「…にしては重すぎると思うけどねぇ」


 マルセロがぼそりとツッコミを入れるが、クラウディオはスルーした。真剣な顔つきで聞き入る少年達に、厳然と告げる。


「だが選ぶのはお前達次第だ。お前達の力量では、俺達がいるとてこの件を乗り切るのはギリギリだろう。命も格段な危険に晒されるのは間違いない。命有っての物種だ――それを厭って避けるも良し、己の向上に命を懸けるも良し。好きにするといい」


 『シルバーダガー』は沈黙して、リーダーであるハワードを皆見やった。彼は渋面で俯いていたが、やがて顔を上げると、「一晩考えさせてください」と言った。


 それに対し吠えたのは、パーティメンバーのエイト・ベルだったが、


「なんでだよ!ハワード、そんなの考えるまでもごふゥ!!」


 言い終わる前にカミラ・シンフィルドに強烈な肘鉄を食らって悶絶する。彼女は穏やかな茶色の瞳をエイトに向け、にっこり笑う。


「黙ってくださいな、エイトさん」

「ぐっふぅ…か、カミラ…」

「単細胞も大概にするといいですわ。これはあなたの頭みたいに単純な問題ではないんですのよ」


 グッサグッサと刺さりまくる言葉群に、他の狩人達は顔をひきつらせる。エイトは既に虫の息だ。だが他の『シルバーダガー』メンバーは慣れたもので、それぞれ立ち上がると、一同に頭を下げた。


「話し合いをしたいので、部屋に戻ります。説明してくださって、ありがとうございました」


 最後はルイスに向かって言うと、ぞろぞろと彼らは階上に消える。虫の息のエイトはハワードが引きずっていった。


「…私達も、どこに行くか、話し合う。失礼する。」


 少し間を置いて、『オクタ』の三人も席を立ち、食堂を去っていった。







―――――――――――――――――――――――――――




「で、どーするのよハワード」


 一部屋に集まった『シルバーダガー』達は、円を作って床に座った。頬杖をついて、魔術士であるリリアが問えば、リーダーを務めるハワードはうん、と頷く。


「僕は受けたいなと思ってるよ。ただ、みんなの意見も聞きたいから」

「オレはッ」

「あー、君の言いたいことはよくわかるからエイトは黙って」

「ぐふっ」


 発言する前にその権利を奪われた少年は、うめき声を立てて床に沈む。それを他の誰もが無視して、話し合いは続行された。


「あたしは正直、怖いなあ…。だってあたし達、狩人になってまだ三カ月くらいなのに…、魔族と戦うなんて、ムチャじゃない?」

「そうですかしら」


 カミラが優雅に首をかしげる。


「『十強』が三組、ことによっては四組もいらっしゃるんですのよ?普通の狩り(しごと)より余程簡単ではありません?」

「僕も同感かな。いい経験になるとも思うけど」


 カミラ、ユーリスの台詞に、リリアは渋面を作る。


「そーかもしれないけど…」

「大丈夫だよ、リリア」


 ハワードが笑顔を向けた。


「僕達、新人にしては筋がいいって、『神槍』に褒められたんだ。やるだけやってみよう」

「……。ハワードが、そう言うなら」


 ついに頷いたリリアに、立ち直ったエイトが拳を突きあげる。


「っしゃあ!そうと決まりゃあとはやるこた決まってる!オレは寝るぜ!体力いちばーん!」


 ガタガタと騒がしく走っていったエイトを、残り四人は生温かい目で見送って、さて、とユーリスも立ち上がった。


「あいつは馬鹿だけど、言ってることは間違ってないね。僕も寝るよ。明日はどうせ早い」

「そうですわね。リリアさん、行きましょうか」

「…うん!」


 リリアは笑顔になって、カミラの手を掴んで立ち上がり、そのまま抱きつく。ちょっとだけ目を見開いたカミラも、すぐにくすくす笑って歩き出した。

 苦笑するユーリス、微笑ましそうなハワードに手を振って、リリアはうん、と頷いた。


(そう、大丈夫。あたしは弱いけど、みんながいるもの!)


お待たせしました!

この話は比較的早いペースで掲載出来たらなと思っています。例によって長いですが、お付き合い頂けると幸いです。

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