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第十話 安寧への撃鉄 (9)

第十話 安寧への撃鉄 (9)






「坊っちゃん――いや、嬢ちゃん。いつからあいつと手際を決めてたんだ?」


 蜂の巣をつついたような騒ぎの中、束の間敵であった少女に手をとって助け起こされながら、ラファエルはリディに訊ねた。

 最後の、彼が足を滑らせた原因。それはルイスが作った氷のせいだ。そして自らが転んでからそこまでしたのは、彼女が確実に止めを刺す為。だがそれを打ち合わせたのは、一体いつだ?


 リディは少し目を丸くしてから、


「合図あったし。ほら、最後の打ち合い始まる直前」


 とあっさり応えた。スヴェンは半ば呆然と首を振る。


 合図といっても、せいぜい目配せ程度だ。なんであれで読み取れるのだろうか。

 ラファエルも唖然としていたが、やがて肩をくつくつと震わせ、ついには腹を抱えて笑い始めた。


「くくっ、そりゃあ敵わねえや…はははははっ」


 いきなり笑い出したラファエルにリディは若干引いたが、その肩を剣を回収してきたルイスが叩く。


「お疲れ。派手にやったな。スヴェンも」

「そっちこそ。怪我平気?」

「あーまあ、すぐ治せる程度ではあるだろ」


 苦笑するルイスは、リディやスヴェンより遥かに汚れ、あちこち裂傷や擦過傷がある。だが、リディは彼が右肩を動かさないようにしているのに目敏く気付いた。


「肩。痛めてない?」

「……だから治るって」

「早く言え」


 リディはつと彼に手を伸ばし、魔力を込めようとする。だがそれをルイスは止めた。


「なんだよ」

「こんな人目のあるとこでそれ使うな。だいたい自分でも治せる」


 ルイスは左手を軽く振り、リディから離れる。それからラファエルを見上げて首を傾げた。


「肋、平気か?」


 ラファエルは唇を歪める。


「…いい根性してんなぁお前。一本くらい折れてっかもな。ま、治療術士に治させるさ。…それより」


 一端言葉を切って、彼は客席の一ヶ所を一瞥する。つられて視線を向けたルイスは、そこに『ジィ』を見つけて表情を差し替えた。ラファエルは意地悪く笑う。


「勝算は?」

「…高く見積もって二割だな」

「あり。じゃ、賭けねえ方がいいか」

「やめといてくれ。責任取れない」

「真面目だねぇ。まあ、俺でもそう言っただろうがな。健闘を祈っててやるよ」


 軽く手を振り、彼は呻きながら起き上がった仲間の元へ歩いていく。


「ルイス、スヴェン、行こう」

「ああ」


 リディの声に肩を竦め、ルイスはスヴェンを伴って控室に退いた。







―――――――――――――――――――――――――――――



「さて、いよいよ次は決勝戦なわけだが。どうする?」


 各々怪我を治し、本選第二試合の喧騒を背景に三人は額を寄せ合っていた。


「『ジィ』だろ。もう当たって砕けろ戦法で行くしかないんじゃ」

「基本はそうだけどな。誰が誰を相手取るかだ」

「槍士と、剣士と、魔術士…」


 スヴェンの呟きにルイスは頷き、控室から闘技場へ続く通路を見やる。


「神槍クラウディオとツェツィリア・クロノヴァの力はこれまでの試合で凡そ解った。ま、超強い。…だが、あの魔術師…どうも不気味なんだよな」

「…ルネ・フォーレ?」

「そうだね。なんか、得体が知れない。勘だけど」


 スヴェンは今まで見た『ジィ』の戦いを思い出す。…基本、槍士と剣士で三人を撃破し、魔術士は精々が補助だった。だが、確かに言われてみれば――それだけではない何かを、持っている気がしてなならない気もする。


「教えてやろうか?」


 不意に、三人ではない声がした。スヴェンははっと振り向いたが、ルイスとリディは軽く片手を上げてその主に挨拶する。


「久しぶりだな、ヨセフ」


 『ノナ』魔術師――ヨセフ・フィッシャーは、軽く手を挙げ返してそれに応える。


「よう。なんか女がいなくなってるけど元気そうだな」

「悪かったね女に見えなくて。…それより、何を教えてくれるって?」


 壁に寄りかかった青年は、その質問ににっと笑った。


「ルネ・フォーレ。ザイフィリア出身、職業魔術士。年齢は恐らく二十前後、性別不明。六年前に『ジィ』に加入、以後パーティの万能魔術士として力を発揮。属性、推定不能」

「――は?」


 立て板に水のように渡された情報に唖然としながらも、最後の単語を聞き逃さなかった三人は目を丸くした。


「属性不明?どういうこと?」

「ん。簡単に言うと、目撃者によって見た属性が違う」


 彼の説明を要約するとこうだ。


 『ジィ』と共に何らかの仕事をこなしたことがある狩人達。しかし彼らは、パーティによってルネの属性について違うことを言うのだという。

 ある者は火と風だと言い、

 ある者は雷と土だと言い、

 ある者は土と水だと言った。


「…が、これを鵜呑みにしたら五属性持ちってことになるだろ?それは有り得ないから、よって属性不明」

「……」


 リディとルイスは沈黙した。有り得ない、と言われた存在が実はいるということを彼らは知っている。


「俺が伝えられるのはこれだけだ。じゃな、頑張れよ」


 アイルでは見せなかったシニカルな笑みを浮かべ、さっさとヨセフは踵を返す。その足音が聞こえなくなってから三人は額を寄せあった。


「…どう思う?」

「…どうもこうも。それが全てなんだろ、多分」

「?」


 リディは深くため息をつくと、スヴェンに向かって言った。


「スヴェン、君、結界解読使えるよね?」

「?い、一応…陛下みたくは、できないけど」

「ならやっぱりスヴェンがルネなんとかだ。ルイスはまだ習得しきってないし、かと言ってツェツィリア・クロノヴァを相手にするには君には荷が重い」

「…うん」


 ひとしきり考えを巡らせてから、ルイスは二人に告げた。蒼い瞳が好戦的に眇められた。


「それで行こう。…最初はリディ、お前も加わって魔術戦しろ。『神槍』は俺が引き受ける。で、魔術士が援護だけじゃなく結界張ったら分断。ツェツィリア・クロノヴァはお前が倒せ」











 昼下がりの日の光の許、六人の人間達が闘技場のフィールドに居並んだ。


『さあ―――いよいよ、いよいよ武術大会も大詰め!大トリ!本選――決勝です!一方は『ジィ』――言わずと知れた大陸屈指の実力者!他方は『ヘキサ』――まだまだ未知数の若手有望株NO.1っ!』


 わああああ、と耳をつんざく歓声。その中心で、二組は対峙する。


「随分持ち上げられもんだな」

「それはまあ決勝戦だから」


 ルイスとリディは軽口を叩きあい、そして『ジィ』を見据えた。一方の『ジィ』は意味深げな表情で彼らを見下ろす。クラウディオが口を開いた。


「まさかかの『ヘキサ』だったとは思わなかった。生きていてよかった」

「死亡説流されてるとはこっちも思ってなかったからな。余計な目に遇ったぜ」


 ツェツィリアはリディに向かって妖艶に笑んだ。


「アナタ、女の子だったのね。驚いたわ」

「ちょっと手違いでね。髪色変わるだけで性別間違われるなら便利だよ」


 一方、スヴェンはじっとりと汗を掻いていた。


「……」


 無言で向かい合う黒いマントの魔術師。フードの中身は窺えず、何より魔力が底知れない。


(封印、してたのかも。僕たちと、同じように)


 スヴェン達は皆、この試合に当たって精霊の封印を解いている。だから魔術士には、彼らの使役精霊がどれも最上位だとわかるはずだ。それでも――目の前の魔術師からは、更に圧倒的な気配を感じるのだ。


「スヴェン、気楽に行こう」


 それを見越したのか、ルイスは軽い口調でスヴェンの肩を叩いた。それを境にして、二つのパーティは互いに距離を取る。


「お手並み拝見、ね」


 ツェツィリアの笑みにリディは楽しげに笑みを返した。


「お手柔らかにお願いするよ」


 会場は今や緊張に静まり返り、司会者が息を吸う音がやたらと大きく響く。


『では――両者健闘を!始めっ!!』









 最初に動いたのは、ルイス達三人だった。というのも『ジィ』はこちらの様子見をしたいのだというのが初めの数秒の対峙で解ったため、それならばと作戦を多少追加する。


「総力戦といこうじゃねえか。――アイシィ」

「フレイア」

「…スティミア!」


 三人それぞれの傍らに精霊が現れる。本人しか不可視のそれは、しかし明らかな力を伴ってその場を威圧する。

 命令は同時だった。


「「「遠慮なくやれ」」」


 次の瞬間フィールドと観客席を隔てた結界を構築した、アーヴァリアンの魔術士の判断は見事だった。そうでなくば少なくとも軽傷者くらいは出ていただろう。


「あほか、あいつら…」


 シルグレイがそう呻くくらい、魔術攻勢は凄まじかった。既に視界が利かないほどの粉塵が舞い上がる中に、容赦ない青い炎弾、鋭い氷刃、風刃。普通のパーティなら間違いなく命を落としている。だが。


「…来るよ」


 リディが目を細めて呟いた。ルイスとスヴェンは目を見交わし、それぞれ位置を調整する。そして三人同時に、意図的に攻撃を止めた瞬間。


「やってくれるなっ…!」


 粉塵から飛び出してくる二つの人影。鋭く光る得物を構えた彼らを、待ち構えていたルイスとリディは完全に同期した動きで別々の方向に蹴り飛ばした。


「ぐっ…!?」

「きゃっ!」


 不意を突かれた為にまともに食らい、そのまま吹っ飛んでいくのを追って、ルイスとリディが地を蹴る。


「スヴェン、頼むよっ!」

「気を付けろよ!」


 去り際にそう声をかけられたのに頷きを返し、スヴェンもまた真っ直ぐに走り出した。










「…始めから分断が目的だったのか」


 対峙した時には既に態勢を整えていたクラウディオは、ルイスに向かってそう呟いた。


「ああ。あんたのとこの魔術士は厄介そうだからな。それにあんたとツェツィリア・クロノヴァのコンビネーションが怖い。以上、分断の理由だ」

「単騎なら勝てると?」

「さあな?」


 不敵に笑う。音が遠退く。――今感覚が捉えるのは、目の前の相手だけでいい。


 一瞬の静けさ。そして次の瞬間、それが嘘であったかのような甲高い金属音が木霊した。











「分断されちゃったわね」


 ツェツィリアはフィールド全体を見渡してそう言った。東ではクラウディオと金髪の青年が向かい合い、中央では少年がルネに向かって疾駆している。

 たがさして気にした風もなく、ツェツィリアはぺろりとぽってりした唇を舐めた。


「まあいいか。あたし、貴女と戦ってみたかったのよね。同じ女剣士として」

「光栄だね。当代髄一の実力者に目をつけられたなんて」


 リディは目を細めた。


(…魔力がある。魔術付加使ってきそうだな)


 久しく使っていない技術。実は余り得意ではないのだが、それを言っていられる場合ではなさそうだ。


「じゃあ、さっさと戦りましょう。お互い、余り気が長い質ではないようだから」

「奇遇だね。私もそう思ってた」


 早くも東から聞こえ始める剣戟の音。それに続くように、リディは二振りの剣を振りかざしてツェツィリアに突っ込んだ。













(やっぱり、多属性結界)


 スヴェンは粉塵の奥に見える、何色ともつかない結界に覆われた黒いマントの魔術師を見据えてひたすら駆ける。途中、飛んできた炎をかわし、時に剣で弾きながら距離を詰めた。


 フードに隠された顔は、何を考えているかなどちっとも読み取れない。


(多属性結界を構築出来るのは、理論上、聖魔力も合わせて五つ以上ない、といけない。だからこのひと、は少なくとも四属性を持ってる。でも、今使ってくるのは炎だけ。ぎりぎりまで、引き付けられるまで、こっちの目論見が悟られなければいい、けど)


 左右では既に二組の激突が始まっている。クラウディオ・ガウスやツェツィリア・クロノヴァに対して援護をされては困るのだ。

 スヴェンは短く精霊の名を呼び、風刃を放った。それは予想通り、一瞬だけ煌めいた相手の結界に弾かれる。直後、左右から炎と氷の攻撃が飛んできた。ルイスとリディが、合間を縫って放ってくれたらしい。それはやはり弾かれたが、地面を抉って二度目の砂塵を巻き起こす。


(相手は、魔術師。視界が利かなきゃ、力は半減する!)


 スヴェンは躊躇なく視界を塞ぐ砂塵に飛び込み、魔力の気配と己の勘を頼りに走った。途中、予めリディが仕掛けておいてくれた聖属性結界に魔力を追加し、発現と同時に強化する。

その時ゴッ、という圧力を伴った強い風が吹き、一気に砂塵を吹き飛ばした。


(風魔術…!)


 一気に晴れる視界。ついでにスヴェンをも吹っ飛ばそうとする風に耐え、残り僅かな魔術師との距離を縮める。


「――っあああッ!」


 戸惑ったように再度魔術を行使しようと、魔術師が手を上げる前に、スヴェンは聖、風、土の三つを集めた掌を相手の結界に押し付けた。












「世界は広いな、って、つくづく思うよ」


 リディはツェツィリアの剣を打ち返しながらおもむろに呟いた。ツェツィリアは面白そうに眉を上げる。


「どういう意味かしら?」

「門外不出の、あいつだけの技術だと思ってたらさ。実は使う奴はたくさんいた。つくづく、自分は井の中の蛙だなって思う」


 ツェツィリアの使う匕首と、リディの使う少しだけ反った刃が交差する。お互い力技の技術ではない為に、それは交差しては離れ、また交差して、凄まじい速さで金属音を立てていた。


「聞いていい?」

「なにかしら?」


 会話しながらも隙を見せることはない。呼吸と精神をすり合わせ、間合いを詰める。


「あの、ルネって魔術士。五属性持ってるんだろ。…にしては魔力少ないみたいだけど」


 しかし、これにはツェツィリアも驚いた。予想外のことを言われたために呼吸が狂い、剣先がぶれる。それを見逃さなかったリディは、ひゅっと身を低めるとすれすれでツェツィリアの鋒をかわし、右手を思いきり突きだした。


「っ…!」


 リディの剣先は、咄嗟に身を右に傾けたツェツィリアの二の腕を掠め、黒い革の服を切り裂いて赤い血を散らす。

 舌打ちしたツェツィリアは傾けた身をそのままに、右手を地について回し蹴りをリディに向け放つ。それを避ける為にリディは数歩飛びずさり、ツェツィリアもまた飛び退いて距離を取った。


「…避けられるとは思ってなかった」


 憮然とした調子でリディは剣を構え直す。ツェツィリアは彼女に真っ向から訊いた。


「さっきの、どういう意味かしら」


 きょとんとしたリディは、ついでああ、と頷く。


「あの多属性結界張れるのは理論上計五属性以上持つ奴だけだ。仮に聖属性持ちでも、四属性っていうのは体内バランスの問題で生き延びるのは無理。はい、証明終了」

「…あなた、あの結界の原理を」

「知ってるよ?ていうか言っただろ。案外使う奴は多かったってさ。――それに」


 肩を竦めてリディは言う。ツェツィリアが嫌な予感に眉を寄せた時、少し離れたところから細い悲鳴がフィールドを打つ。

 ばっと振り返ろうとするツェツィリアに容赦なく狙いを定め、リディは地を蹴りながら笑った。


「作り方があるなら、解き方もあると思わなかった?」











 ルネ・フォーレは驚愕していた。


 自分目掛けて一直線に走ってきた少年。魔術による攻撃をされながらも、ルネには自分の結界が破れないとわかっていたから焦らなかった。そういう結界なのだ。

 生まれたときから持っていたこの異常性――五属性の魔術と、それにしては少なめな魔力(といっても、一属性魔術士の五倍以上はあるけれど)。それを使いこなそうと必死になる内に編み出した術。滅多に人前で使ったことなどない。竜や上位の魔物相手に、しかも切羽詰まった時に使うくらいだ。


 なのに、あんな容赦ない魔術の嵐に晒されれば使わざるを得なかった。それだけでも完全に想定外。それなのに。


(なんでっ……!)


 今銀髪の少年は、ルネの作った多属性結界に触れている。否――手を突っ込んでいる。普通なら、結界表面で混ざっている各魔術の反発を受けて、とてもそんなことは出来ない。けれど彼は触れ――なおかつそこを起点にして、徐々に結界が解かれていく(・・・・・・)のをルネは感じ取っていた。


「はなっ、はなれてっ…!」


 半ば恐慌状態に陥ったルネは、少年目掛けて魔術を乱発した。

 至近距離からの火魔術、水魔術。まともに食らえばただでは済まないそれを、しかしスヴェンはその身に張った聖結界でなんとか凌ぐ。とはいえこの距離。かなりの衝撃と苦痛が躰を苛み、噛み締めたスヴェンの唇から血が零れた。


(き、きつっ…!)


 それでも、諦めるわけにはいかない。降り注ぐ魔術を意識の外においやり、スヴェンは掌に集中した。


(雷…集束、下段、火…中段)


 ゆっくりと、だが着実に解いていく。そしてあと一息、という時だった。


「っう……っ!」


 度重なる攻撃に、結界が耐えきれなかったらしい。破れはしないまでも亀裂が走り、更にスヴェンの躰を強烈な魔術が襲う。ミシッ、という音と共に、躰の何処かで骨が折れたのがわかった。

 しかしスヴェンは歯を食い縛り、一気に遠ざかる集中力を必死にかき集め、最後の魔力を手に注ぐ。


(痛みなんて…しるかっ!)


 解読しきった結界構成。それに寸分なく魔力を注ぎ――ルネの悲鳴を伴って、結界は砕け散った。


「よしっ…」

「そんな、うそっ…!」


 ルネは有り得ない、信じられない、という混乱した思考のまま、半ば反射的に風魔術で空に逃れた。否、正しくは逃れようとした。


「逃がさないっ…!」


 躰のあちこちで、嫌な軋みがするのを無視してスヴェンも地を蹴り、まだ結界を構築出来ていないルネに向かって躰を捻った。


「ひ――」

「――観念しろっ!」


 体重を乗せた肘鉄は、空中でガンッ、と鈍い音を立てて ルネの腹部を直撃した。


「ぐぅっ」


 後方支援特化の魔術士であるルネが、直接攻撃に耐えられる訳がない。衝撃で体がくの字に曲がり、そのまま地面に叩きつけられた。


「ぁあっ…」


 ルネは一瞬だけ目を見開き、そのまま力なくフィールドに横たわった。気絶したのだ。


 スヴェンも、途端に襲ってきたとてつもない苦痛や疲労に半ば意識を奪われ、空中でぐらりと姿勢を崩す。そのまま落下する直前、スヴェンはふと地面に仰向けに倒れるルネの姿を捉えた。叩きつけられた衝撃からか、深く被っていた黒いフードが外れ、中が露になっている。その顔は――


(お、んな…?)


 線の細い顔。華奢な骨格。まだ若い、儚げな顔つき。なにより――有り得ないような、桃色の長い髪。

 驚愕しながらもスヴェンの意識は容赦なく奪われていき、急速に地面は近づく。


(女の子に、あの肘鉄は…悪いこと、した、な…)


 そんな思考を最後に、スヴェンは激しい衝撃を感じると共に意識を手放した。





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