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第十話 安寧への撃鉄 (2)

第十話 安寧への撃鉄 (2)






 狩人協会の側にある食事処は、狩人と思しき人間達で溢れかえっていた。リディは入った瞬間に顔をしかめる。


「うっさ…」


 狩人の人口比率としては圧倒的に戦士職の男――つまり、むさ苦しい類の奴が多い。女性はそもそも少ないし、魔術士は大陸全体で見たって圧倒的に比率は少ない。

 そんな人間達が集まっているのである――マナーも何もあったものではないし、一人一人の声が野太くて喧しい。


 空いている席に座り、給仕に食事を頼む。いつも通りルイスは大量だったが、給仕も慣れたものだ。こんな位置で長年狩人を相手に商売しているなら、大食漢など珍しくもなんともないからだろう。


 予め大量に用意されていたのか、すぐに運ばれてきた食事をさっさと食べ終え、ルイスは水、リディは甘い紅茶を飲んでいた時。不意に隣のテーブルから、自分達の名前が耳に飛び込んできた。


「しかし、マジなのかよ?『自由時間フリータイム』が壊滅したって」


 ぶっ、とルイスが飲んでいた水を吹き出す。唖然としたリディの手からもカップが滑り落ち、机の上に転がった。しかしそんな一幕も騒がしさに紛れ、ルイスがげほごほと咽せるのを余所に、噂話は続く。


「マジらしいぜ。三か月近く前か?エーデルシアスのどっかの街で、吸血鬼騒ぎがあったらしいんだが、それの解決と同時にぱったりと足取りが掴めなくなったんだと」

「丸三カ月?一切何の音沙汰ナシ?」

「ああ。狩人協会は、半年何の連絡も無かったら死亡判断するらしいが…。“ヘキサ”にまで上りつめた奴らがねえ」

「土台二人なんて無茶だったんだよ」

「そーそー。どっかでしくじったところ回復も出来ない内に殺られちまったんだぜきっと」

「あーあ、早く空いたヘキサの席こっちに回ってこねーかなー」

「てめえらじゃ無理だろ」

「んだとコラ!」

「やるかテメエ!」

「……」


 隣で巻き起こった喧嘩も気にならず、二人は愕然と眼を見交わした。…砂漠の上で交わした会話が蘇る。


「……まさか、本気で死亡の噂が流れていたとは」

「笑い事じゃなかった…」


 隣では悲鳴や怒声が上がり、たまに物も飛んできたが、二人は無視した。


「…まあ、死亡判断は半年だっていうし…今日慌てなくても大丈夫だろ」

「…だね。とりあえず城いこ城」


 そして、店全体を巻き込み始めた喧嘩の間を縫って、店を出たのだった。







―――――――――――――――――――――――――――――




「殿下に面会?」

「ああ。ルイス・キリグと言えば解ってくださるだろう」

「……」

(嘘だろ…)


 ルイスが王城の門衛と会話をしている横で、リディはぽかーんと城を見上げていた。


 アーヴァリアンの王城は、ハイレインの街の中心部に浮かんでいる(・・・・・・)。それは比喩でもなんでもなく、ありのままの事実である。


 黒を基調とした――恐らくは魔鉱岩を精練した素材を使っているのだろう――外壁に覆われた、尖塔の目立つ作り。オルディアンの王宮が、どちらかと言えば敷地面積が広く、扁平な作りなのに対し、ここは空へ空へと高みを目指したような形だ。

 リディが立っているのは、唯一城と街とを繋ぐ大きな橋の上なのだが、遥か下の地上では、基盤の関係なのか、空に浮かぶ城ごと逆三角錐に切り取られた地面の跡に、澄んだ水が湛えられている。さながら小さな湖のようだ。


(緻密な固定型の風魔術陣を敷いて、尚且つ土魔術系で地盤を補強してるのか…正気で出来る業じゃないだろ、これ)


 肩に乗るネーヴェも耳と尻尾をぺたんと下げてぽけらっとしているようで、ほとほとこの光景の非常識さを思い知らされる。


「リディ、行くぞ」


 話が付いたらしく、こちらを振り向いたルイスにはなんの動揺もない。見慣れているのだろう。リディは一つ息を吸って気持ちを落ち着けると、城の中からやって来たらしい侍従について、アーヴァリアンの王城に足を踏み入れた。











「こちらでお待ちくださいとのことです」


 通されたのは、応接室の一つのようだった。華美なものは控えられ、どちらかと言うと実用性重視のシックな調度品が設えられた、デザイナーの品の良さを浮かばせる部屋だ。


「ルイス、これなに?」


 リディは机の上に置いてあった、透明な水が張られた円盤を指差して訊ねた。


「ああ、それはな」


 ルイスは机の前の椅子に腰掛けると、ふっと円盤の上に手を翳した。

 すると、触れたわけでもないのに、円盤の水が揺らいで波紋を作る。


「え…」


 リディは驚いて目を見開いた。揺らぎが収まったあとの水面に、明らかにこの部屋のものではない景色が映っているではないか!


「これは『水鏡』って言ってな」


 ルイスは楽しそうに言った。


「この水盆の底には魔術陣が刻まれてる。詳しくは良く知らないが、この城の真下にある湖から水精霊を呼び出すものらしい。呼び出された水精霊は、それと同じものが描かれてる水場を行き来できて、そっちの風景をここに映してくれる。この魔術陣は城の、風呂場と手洗場以外の水場ならどこでも描いてあるから、つまり、水魔術使いでなくとも、この城の中ならほぼ何処でも覗けるってわけさ」

「へえ…」


 原理的にはラグの開発した通信具に似ているが、誰と契約しているわけでもない水精霊を、魔術師でもない人間まで使えるとなると、それより格上と言えるかもしれない。発表されていないだけで、この国で既に通信具が開発されていたとしてもおかしくないな、とリディは思った。


「で、今はどこ見てるわけ?」

「それはだな…あ、こっち来るな」


 ルイスが水盆から顔を上げるのと、部屋の扉が勢いよく開くのがほぼ同時だった。


「ルイス!…て、は!?」


 部屋に飛び込んできたシルグレイ――こと、アーヴァリアン王弟――は、見慣れない色彩に絶句したようだ。


 凡そ似つかわしくない騒々しい登場の仕方をした旧友に、ルイスは苦笑して手を上げた。


「よう、シルグレイ」

「お邪魔してまーす」


 リディの緊張感の全くない挨拶も受け、我に返ったシルグレイはさっと辺りを見回してから扉を閉め、微妙な面持ちでルイスとリディを振り返った。


「…久しぶりだな、ルイス…それに、リディエーリア殿も。というか、その髪の色は…」

「リディでいいですよ、シルグレイ殿下」


 リディが茶化すように言う傍ら、ルイスは事情説明を簡単に済ませる。聞き終えたシルグレイは、苦笑するしかないといった風に顔を歪めた。


「一瞬誰かと思ったぞ。リディ…は、また髪を切ったんだな」


 遠慮がちに呼び捨てたシルグレイを気にすることなく、リディはにやりと笑う。


「男に見える?」

「…遺憾ながら」


 やった、とネーヴェに微笑むリディを微妙な眼差しで見遣ってから、シルグレイはルイスを探るように見つめた。


「で?二度目の出奔をしたらしいお前が、なぜこんなところ(アーヴァリアン王城)にいるんだ?」


 前にも何度か誰かに同じような台詞で訊かれたな、となんとはなしに思いながら、ルイスは真面目な表情になってシルグレイを見返す。


「解ってるんだろう?俺達がここを訪れたわけぐらい」


 無駄な詮索は止めようぜ、と言ったルイスをじっと見つめてから、そうだな、とシルグレイはルイスの向かいに腰を下ろした。


「先に言っておくが、イグナディアとの国境に結界を張ったのは私達ではない」


 一切の前置きを省かれ切り出された言葉に、リディもすっと目を細め、ルイスの横に歩みよって座った。


「つまり、向こう側から張られてるってことか?」

「ああ。それも恐らくは人の魔術ではない。魔族――十中八九、お前の国の式典で現れたエカテリーナとかいうやつの仕業だろう」

「参考までに訊くけど、なんで人の魔術じゃないってわかるの?」


 リディの疑問に、シルグレイは頷く。


「魔力には波長があるだろう?それは勿論千差万別だが、なんというかな…大きな範囲で見ると、人と人同士には共通パターンとでもいうべき形がある。だがそれとは明らかに形が異なっているからだ」

「成程。解りやすい説明ありがとう」

「礼には及ばん。…ともあれ、あの結界のせいで、こちらからの出入りはおろか、この三カ月というもの、イグナディア側かこちらに来た者は一人としていない」

「…一人も?じゃあ、中の様子とかは…」

「悪いが、全くわからん。時期的には、エーデルシアスから飛んで帰っていったロドニス…イグナディア王太子が国境を越えたあたりからだ。その後一切イグナディアの内部とは連絡が取れない」


 予測していた中で最も深刻な事態に、ルイスとリディは顔を見合わせ沈黙した。シルグレイが何かを知っている可能性は五分だと思ってはいたが…見事に外れた。


「強行突破してみようとかは考えなかったの?」

「やった。…だが、多人数で無理矢理こじ開けようとした結果――」


 全員、結界からの反発に遭って死んだ。


 そう、シルグレイは苦い顔で吐き捨てた。


「――……」


 何も言えずリディが黙り込み、ルイスも前髪をぐしゃりと握り潰した。


「じゃあ、どうやって入るってんだ…?アーヴァリアンの魔術士が束になっても敵わなかった結界を俺達が破れるとは…」


 言いかけて、はっとルイスはリディを見た。リディも強張った顔つきで頷く。


「出来るかもしれない。結界解読なら――」

「駄目だ」


 しかし余りにもあっさりとシルグレイが否定し、リディは目を剥く。なんで知ってる、とばかりの彼女の視線に、シルグレイは肩を竦めて答えた。


「私としては貴女があの技術を知っていたことの方が驚きだが。複数の属性を組み合わせて一時的に結界を無効化するものだろう?結界解読は、我が国の研究班が長年かけて秘密裏に編み出したのだが」

「…その辺は企業秘密で…」


 リディのぼそぼそとした誤魔化しに、ルイスが助け船を出した。


「なんで駄目なんだ?試したのか」

「…ああ。宮廷魔術士長が直々にな。だがやはり弾かれたと言っていた」


 リディの返答に、当然シルグレイは納得が行っていなかったが、ルイスの手前突っ込むのはやめておいて、素直に疑問に応じた。

 ルイスは眉を寄せ、思案を巡らせる。


「…八方塞がりだな。一体どうすれば…」

「そうでもありませんよ」


 澄んだ声と共に、唐突に扉が開かれた。そこに立った人物を見た瞬間、シルグレイは席を立って直立し、ルイスは些か行き過ぎ気味に背筋を正したのでリディは目を点にする。


 誰、と聞きかけ、しかしその顔が自分の乏しい対人記憶能力の内にすら刻まれていることに気付いて慌てて立ち上がって頭を下げた。


「まあ、そんな改まらなくていいですよ」


 長い銀髪に、すっと美しく背筋の伸びた、女性にしては高い背。どこもかしこも余分な肉など存在しないように細いのに、女性らしいまろやかさは確りと主張する体躯。雪のように白い肌に、高い鼻梁、その両脇に左右対称に収まった最上級の紫水晶(アメジスト)を思わせる柔らかな双鉾は、同時に理知の光を多分に含んでいる。儚さを訴えているのに、弱さは感じさせない――そんな立ち姿。


「お初にお目にかかります――クリスティアーナ陛下。ご尊顔を拝せますこと、誠に光栄に存じます」


 頭を下げたまま、リディは久方ぶりの拝謁の文句を述べる。女性――アーヴァリアン現女王、クリスティアーナ・リィ・ヴィルニア・アーヴァリアンはにこりと笑って優雅にお辞儀を返した。


「こちらこそ。初めまして、リディエーリア・エルクイーン。噂はかねがね」

「…良い噂ではないでしょう」


 リディは少しだけ笑ってみせた。


「あら、噂というものは人を判断する材料の、そのまた原料にしかならないものですよ。――失礼しますね」


 クリスティアーナはさっさと先程までシルグレイが座っていた席に腰を下ろしてしまった。それと同時に、扉の脇に控えていた侍女が、てきぱきと机の上に紅茶や茶菓子を用意していく。立ったままのシルグレイに、クリスティアーナは声の調子を変えないまま言った。


「お客様がいらっしゃったなら、お茶ぐらいお出ししなさい。幾ら機密を話すからと言って、順番というものがあるでしょう?」

「――はい。至らずすまなかった、ルイス、リディ」

「いや。気にするな」

「うん、別に…ていうか」


 なんで二人してそんな硬いの、とリディは言いかけてやめた。タイミング的にクリスティアーナが関係していることは間違いないし、なら後で訊いた方が無難だ。


(しかも喋るの私任せ?)


 ごほん、と咳払いし、口を閉ざす男二人に呆れた視線を送ってから、リディは改めてクリスティアーナに正面から向き合った。


「僭越ですが…『そうでもない』と仰る理由は、なんでしょう?」


 クリスティアーナは再びにこりと笑うと、一口紅茶を飲んだ。同時に扉が閉まる微かな音で、準備をしていた侍女達が出ていったことに今更ながらリディは気付く。…会話に気を持ってかれていたとはいえ、自分に気取られないとは凄まじいまでの職業意識だ。


「…エーデルシアスでのことは、おおよそシルグレイから聞きました」


 かちゃり、とカップをソーサーに置いてクリスティアーナは話し出した。


「かの魔族はあなた方に言ったそうですね?『イグナディアで待っている』と」

「…はい」

「ならば、その魔族はあなた方を誘き寄せる為にあの結界を仕掛けているのでしょう」


 静かな部屋に、クリスティアーナの穏やかな声だけが流れる。


「ロドニス王太子が取って返したことから考えても、かの魔族は、イグナディアの中に何らかの災厄を喚んでいる。それらは全て、あなた方に帰結するのでしょう」

「…私達のせい、ということですか」

「そうではありません。原因の一つとなっていることは否定出来ませんが…。今かの国を襲っている出来事など、これからの序章に過ぎない」


 最後の言葉は独り言のように小さく――実際独り言だったのだろう――リディが聞き返す前に、クリスティアーナは話を戻した。


「目的は解りませんが…あなた方が狙いである以上、恐らくあの結界はあなた方以外が通れないようになっているのではないでしょうか。理由は…私達アーヴァリアンの介入を阻む為、かもしれません」

「じゃあ、私達は入れるってことですか?」

「あくまで私の予測では、ですが」

「なら迷ってる必要はないですね。ルイス、早いとこ用意して出発しよう」


 勢い込んで立ち上がったリディを、しかしクリスティアーナは止めた。


「お待ちなさい。――あなた方二人だけを行かせることは出来ません」


 リディと、同じく立ち上がろうとしていたルイスは揃って怪訝な顔でクリスティアーナを振り向いた。のち、ルイスの表情が固まる。というか、恐怖でひきつった。


「どういう意味ですか?」

「私としては、どういうつもりですか?とお訊きしたいですね」


 全く先程と変わらぬ口調の中に、しかし言い知れぬ圧力を感じて、リディは連ねる言葉を無くす。

「事情は伺っていますし、理解もしています。けれどあなた方は、紛れもなく一国の王位を左右する資格を持っている。解りやすく言えば――存在するだけで責任がある。そんな立場にあるくせに、何が起こるかもしれぬ、奈落へと通じているかもしれない地に、たった二人で乗り込もうなどと――何を考えているのですか」


 あくまで穏やかな声音。だが紛れもない国の頂点に立つ者としての冷ややかな台詞は、リディとルイスに酷く刺さった。

 リディはつっと背筋に冷や汗が伝うのを感じて唇を噛んだ。――怖い。今わかった。彼女の笑みは、為政者としての仮面。優しく穏やかな微笑みの裏に、厳しさと冷徹な心を隠しているのだ。


(ルイスやシルグレイが怯えてるわけは、これか)

「…すみません、クリスティアーナ。でも行かなくてはならないんです」


 だが、少しの沈黙を置いて初めて、ルイスがクリスティアーナに向かって言った。


 彼としては精一杯の勇気を振り絞って、クリスティアーナの深い紫の瞳を見据える。


「俺もリディも、自分の立場を忘れたわけじゃない。でもあの魔族が俺達を呼び――俺達に何らかの運命が課せられているのなら、俺達は今更歩みを止める訳には行かないんです」


 ルイスはちらりとリディの肩に乗るネーヴェを見やった。夜明け色の瞳。それを持っていた、今はもういない竜のことを、決して忘れはしない。


「死ぬつもりはありません。だから行かせてください」


 クリスティアーナはじっとルイスを見つめた。目を逸らさず相対し続ける青年に、彼女は束の間昔を思い出す。


 弟を真似して自分の顔色を伺っていた幼い少年。それが面白くて少々過度にいじりすぎたせいか、いつの間にか本当に怖がられるようになっていた。笑顔で逆さ吊りにしまくったのがいけなかったのかもしれない。


 それでも今彼は、自分に面と向かって反論している。


(…成長したのですね)


 ひとつ、息をつく。反射にびくついた二人――ついでに愚弟――に向かって、クリスティアーナは、久しぶりに仮面ではない微笑を浮かべた。


「私は、行かせない、と言っているわけではありませんよ?」

「――へ?」


 思わず、といった調子の音がリディの喉から零れ落ちた。心情的には他の二人も同じらしく、ぽかんとクリスティアーナを見ている。


「二人は駄目、と言っただけです」


 晴れやかに笑うクリスティアーナを一頻り見てから、ルイスとリディは互いの顔を見交わし――脱力した。


「ということは――誰か実力者をつけるということですか?なら――」


 ようやくシルグレイが声を発した。しかしその言葉の先を読んで、クリスティアーナはぴしゃりと言う。


「貴方は駄目ですよ、シルグレイ。貴方は彼らより弱いてすし、万が一貴方に何かあった場合、私か独身を貫けなくなりますから」

「……」


 シルグレイは沈黙した。


 今現在、女王クリスティアーナには王配がおらず、当然子もいない。するとシルグレイは他と一線を画した第一王位継承権を持つわけで、もし彼が死んだ場合、彼より下に位置する有象無象の継承権持ちの間で血みどろの争いが起きるだろうことは想像に難くない。


「なら誰を――」

「それはあなた方自身に選んで頂きます」


 首を傾げたルイスにクリスティアーナは告げた。


「?どういう…」

「あなた方は、狩人という肩書きで今歩んでいらっしゃるのでしょう。ならば、その立場を活用なさい」


 リディは怪訝な顔をしたままだったが、その時点でルイスは嫌な考えに辿り着いた。顔をひきつらせて問いを口にする。


「クリスティアーナ、まさか…」

「相変わらず察しがいいですね、ルイス。――武術大会は明後日から団体戦です。その団体戦に出場し、自分の眼で自分達と同じかそれより強い者を見つけ、同行を頼みなさいな」


 短くない沈黙が落ちた。のち、割かし早めに自分を取り戻したリディが、慎重に訊ねる。


「つまり…私達を負かした相手を応援に寄越すように、狩人協会にかけあえ、と?お言葉ですが、私達は『十強』の末席に名を連ねるとはいえ所詮その程度です。そのような願いが聞き入れられるとは――」

「ならば、アーヴァリアン王家からの依頼ということに致します。きちんと謝礼も弾みますから、問題はないはずです」

「あ、それなら――ではなくて!ていうか、アーヴァリアン王家がそれをする理由は…」

「リディさんは、私達が遥か昔には祖先を同じくしているということはご存知ですか?」

「え…あ、はい」


 唐突に切り替えられた話に、リディは目を点にしながらも頷く。クリスティアーナはふっと目を伏せ、言った。


「ならば――血縁を心配するならば、理由は要らないでしょう」

「……」


 リディは微かに息を吸い込んで、クリスティアーナを凝視した。


(…わかった、気がする。この人の本質)


 この人は――クリスティアーナは、身内への情がとても厚いのだろう。その厳しさは、身内への心配の裏返し。彼女の力は、即ち身内を守ることに向けられている。

 しかし、クリスティアーナは内心で続けていた。


(それにあの国は――一度壊れなければ、歪みは直りはしない)


 ルイスがはあっと息を吐いた。全く、この人には敵わない。


「…わかりましたよ、クリスティアーナ。貴女には申し訳ないですが、狩人協会にはそのように依頼をお願いします。ですが確か、団体戦は三対三か、五対五だったはずです。どちらにせよ人数が足りません」


 クリスティアーナはにっこりと笑った。


「それについては考えがあります」



クリスティアーナはS。

当初武術大会はスルー予定でしたが、新キャラを絡める方法が思いつかず。この章は長そうです。

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