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第八話 発覚と未来 (9)

第八話 発覚と未来 (9)





「なっ…?」


 誰もが一瞬、呆然とした。ダンスの為に広間の中央に集まった人々、それを囲い込むように赤い円が大理石の床に走っている。玉座すらも同様で、今円に囲われていないのは、部屋の隅にいた給仕達や、警備の騎士くらいのものだった。


「なんだ…?」


 訝しげな顔をする面々の前に、見るからに興奮している男が踊り出る。無論、円の外だ。

 その男に、あっとリディが口を抑える。――さっき、ぶつかりそうになった貴族だった。


「はははははっ、無様なものだっ、あっさりとひっかかったな」

「どういう意味だ、というより無礼だぞ貴様」


 エーデルシアスの大貴族の一人が男を睨み、円の外に足を踏み出す――が。


「『出るな』!」


 大貴族の足が円を踏み、男の叫びが走ると同時に、彼は吹っ飛んだ。円の中に位置する大テーブルに突っ込み、凄まじい音を立てる。


「なっ…?」

「足掻くのはよせ!貴様らはもうここからは出られん!」

「何を世迷い言を」


 シルグレイはそう吐き捨て、手の一振りと共に火矢を男めがけて放つ。しかしそれは、


「『跳ね返せ』!」


 再びの男の叫びで、なんとシルグレイの方に弾かれ返ってくる。愕然として動けないシルグレイの代わりに、側にいたサーレクリフがかろうじて結界で防いだ。


「何だ…今の」


 ルイスも信じられないという面持ちで呟く。シルグレイは治療術こそ不得手だが、魔術は一流だ。その彼の魔術が、なんの魔力も籠もらない男の叫びだけで、無効化された。


「どうなってんの…?」


 テーブル上のナイフをこっそり隠し持ち、リディが困惑の色を濃厚にして眉を寄せた。

 その声が聞こえた訳ではないのだろうが、男は嬉しくてたまらないというように嗤う。


「貴様らを囲むその円は、竜の血だ!!」

「は?」


 共にいたセレナを庇うようにしながら、アルが素っ頓狂な声を上げた。


「竜の血?それが何だってんだ?」


 男が嘲りを込めて叫ぶ。


「知らないとでもいうつもりか?王族ともあろうものが、戯けたことを!」


 だが、その場の大半はアルと同意見だった。貴族達や、各国招待客達も訳がわからず眉を寄せる。しかしごく一部――エーデルシアス王、シルファーレイ、ヘンドリックを始めとするほんの数人が顔色を変えた。

 だがそれに他の者が気付くことはなく、皆不審げな目で男を見返すものが殆どだった。


 それに男も気づいたらしい。眉をひそめて、


「貴様ら、本当に知らないのか?貴様らの――」

「あなたの要求はなんですか?」


 その声に被さるように、シルファーレイがよく通る声で言った。


「この祝いの場を汚すあなたの目的はなんなのですか?何がしたいのですか?」


 シルファーレイが意図的に話を反らしたことをちゃんと認識したのも、やはり数人だった。シルファーレイの質問は、今全員が一番知りたいことであったためだ。

 それは男も同様だったようで、狂気を顔に浮かべて再度叫んだ。


「何がしたいか、だと!?決まっている――貴様ら一族の滅亡だ!」

「一族?」


 さっきからさっぱり要領を得ない、とリディは顔をしかめた。その傍らで、ルイスは思い当たりにしかし首を捻る。


「遥か昔、今の王族の祖はとある一族だった――ってやつか?それがなんの因果なんだ?」


 ぐり、と男の顔がルイスを振り向き、その形相に思わず彼は身を引く。――正気じゃない。


「俺の一族にはその遥か昔から伝わる家訓がある――『王族達を許すな』ってな!祖母曰わく、その昔貴様達と覇権争いをしたんだそうだ!覇権争いに負けた俺の一族は、土地を追われ見つかり次第殺されたそうだ――それが俺にとって現実を伴ったのは、祖母を含めた俺の家族が皆殺しにされた時だ!エーデルシアス王!貴様にわからんとは言わせない!!」


 血走った目が、玉座の王に向けられる。釣られて一斉にその場の眼が彼に向けられたが、王は落ち着いていた。


「……。確かに知らぬとは言えまい。平和をかき乱す者を放逐することは我らには出来ぬからな」


 客達は、未だに根底にあるものはわからないものの、どうやらこれはエーデルシアス王に対する怨恨らしい、と悟った。あの男が、王が某かの理由で抹殺を命じた中の生き残りだということも。


「それで、何が望みだ?聞くだけは聞いてやろう」

「この後に及んでまだ自分が優位であると疑わないとは、大した愚か者だな、王!!――まあいい、俺の望みは他でもない――この国の破滅、ひいては王族共の死だ」


 その瞬間、ふっと降りた気配にアル、ルイス、リディの肌が泡立った。鍛えられた狩人としての察知能力が警鐘を鳴らす。


「この気配っ――」

「まさか、魔物を――」


 それに応じるように、男の側に二体の人型の魔物が顕現した。人型ということは、上位だ。


「くはは、その通りだ!今この王宮は魔物に包囲されている。王族の貴様らはそこから出られない。守るべき国民が死んでいく様を見ているがいい!!」


 その言葉と同時に、部屋の隅で震えていた給仕達が、血飛沫を上げて倒れる。はっとして騎士達は剣を抜くも、混乱した状態では大した抵抗も出来ぬまま、鋭利な爪に貫かれて絶命する。甲高い悲鳴があちこちから上がった。

 そして、部屋の外から聞こえてくる喚声。男の言葉に、偽りはなかった。


「貴様っ――!!」

「くはははははっ、苦しめ、民の声を聞きながらな――『魔術は使うな』!」


 その言葉で、その瞬間にも魔術を発動させようとしていたサーレクリフ、ヘンドリック、リヒテルジーク、アマーリアの手から魔術が弾け散った。同時に、魔術禁止の効力を持ったらしい赤い環が鈍く輝く。


「貴様らはもう出られず、魔術も使えない!!無力な者共よ、くははははっ」

「…あの野郎…」


 殆どの女性陣は勿論、男ですらも顔色をなくし、何人かは意識を失う状況下で、リディは舌打ちした。ぎり、と歯を食いしばる。

 いっそこの手のナイフを飛ばして息の根を止めてやりたいが、そこまで投擲の腕前に自信はない。障害物(魔物)はいるし、失敗した場合のリスクが高すぎる。


「どうする、魔術も行動も弾かれるんだろ…どうすればいい」


 先程のシルグレイの魔術が無効化されたことといい、一言で吹っ飛ばされた貴族のことといい…迂闊に動けば致命的になりかねない。竜の血が何故このような効果をもたらすかはわからないが、最悪の状況に近い。


「しかも、早く片付けなければ街が危ない」


 側にいた男性が呟いた。リディがそちらを見やると、金髪の、まだそう年のいっていない顔が目に入る。


(あれ?この顔、どっかで…)


「ファーデリア王…すみません、我が国のいざこざでとんだご迷惑を」


 まるでリディの疑問に応えるかのように、ルイスが男性に向かって頭を下げた。その単語に、あっとリディは眼を瞠る。


(リューイとミリアの父親…!)


 ファーデリアで出会った幼い兄妹。その兄の方の顔は、目の前の男の面影を確かに宿していた。

 いささかの懐かしさに言葉を使えさせるリディをよそに、ファーデリア王は首を振った。


「いや…あの一族のこととなれば、我らは皆、言うなれば運命共同体。来るべきものが来ただけだ」


 ルイスは内心引っかかるものを覚えた。『あの一族』とは何か――ルイスには未だよくわかっていないが、このファーデリア王はその意味を知っている。だが、それを問いただしている場合ではない。


「…民の方ですが…大丈夫です。我が国の騎士団並びに魔術士団は、それ程柔くはありません」

「…ま、そうだろね」


 自ら潜入して確かめてきたリディは頷いた。あの力があれば、魔物を殲滅とは行かずとも、防衛戦くらいならやれるはずだ。実際、殆ど断末魔と思われる絶叫は外から届いてこない。


 ただ、誰も大広間に来ないところを見ると、王族は大丈夫だと思っているか、手を回す余裕がないか――恐らくは後者だろう。


「さて――どうやってこの状況、打開するか」


 男とは、未だエーデルシアス王が会話を続けている。だが魔術は禁止されているし、環からは出られないし、どうにもなら――――


「…ん?」


 そこまで考えて、リディは眉を寄せた。


 数ヶ月前、うっかり巻き込まれたアルフィーノ貴族の陰謀。その際、リディはアルや現地の女性達と共に、魔術禁止結界の内に捕らわれたのだが――その時の、半身を抑えつけられるような不快感を、今は感じている気がしない。


「ルイス、ファーデリア陛下…本当にこれ、魔術禁止されてます…?」

「は?…されているが」


 ファーデリア王は怪訝そうに返して、忌々しい、と舌を打つ。


「精霊の気配が遠い…そうでなければ一息に壊してくれるものを」


 対照的に、ルイスは虚を突かれた顔になった。手が宙を彷徨い、終にぐっと握られる。


「…俺は、遠くには感じない」

「!?」

「…私もだよ。多分、使える」


 迂闊に発動したら気づかれる可能性があるので実際のところはわからない、が。


「…何でだろ?」


 リディの呟きに、何故かファーデリア王が固まった。まさか…と口が音をなくして紡ぐ。だが、それにはリディもルイスも気付かずに首を捻っていた。が、すぐにリディが眼を鋭くして魔物二体に守られている男を睨む。


「まあ、なんでもいいよ。動けるなら」

「だな…じゃリディ、まずは魔物潰すぞ」

「了解。ファーデリア王、離れてて下さい」


 ファーデリア王は未だ呆然と二人を見つめていた。だが強い視線にはっと我を取り戻し、


「…君達は…」


 そう微かに呟くも、すぐに首を振って数歩退いた。ついでに周りの人々も引っ張って下がる。

 未だに場の注意がエーデルシアス王達に向かっているのを確認し、ルイスが低い声で囁いた。


「五秒数えたら風魔術で跳ぶ。いいか」

「大丈夫。じゃ、カウント取るよ」


 ぱちん、と小さく小さく、リディが指を鳴らす。そして――五秒後。

 だん、という強い音を立てて二人の姿が掻き消えた。














 男は込み上げる嗤いを抑えられなかった。


 ――ついに宿敵であり仇であるエーデルシアス王を捕らえてやった!しかも、生死は自分の掌の上だ。これほど愉快なことはない。

 自分の一族に伝わる、“王族封じ”。効くかどうかは半信半疑だったが、見事に効を奏した。自分にとってはただの赤い水でしかないもので描かれた円を、奴らは越えてこれない。これをくれたあの女(・・・)と、手引きをしてくれたあの男(・・・)には、感謝するばかりだ。

 特にあの愚かな男には心底礼を言わなくてはならない。もっとも、今あの男は王族もろとも環の中にいるから、もう機会はないだろうが。


(血は水よりも濃い、とはよく言ったものだ)


 気が遠くなるような長い時を経ても、奴らは自分達の()を超克できないのだ。


「私に怨みがあると言うなら私を殺せばいい。他国の者まで巻き込むな」


 先程から似たようなことを繰り返す玉座の主。見苦しいものだ。王者としての傲慢(プライド)ゆえに、命乞いすら視野にない。


 ――もっとも、命乞いをしたところで聞き入れる気は毛頭ないが。


「言っただろう!俺は貴様達の中に流れる血が憎いのだ、そこに国などない!!だがそういうなら、手始めに貴様の息子から殺してやろうか?」


 哄笑と共にそう言えば、王の顔が微かに強張った。賢王と称えられても、子供には弱いか。


(貴様にも、家族を失う痛みを思い知らせてやる)


 歪んだ嗤いを浮かべて、男が再び口を開きかけた時、だん、という出所不明な音が響き。


「ごめんだよ」


 玉座の隣に座る王太子と似た顔の、薄い笑いが通り過ぎたと思った瞬間、男の両隣から血飛沫が上がった。
















 男の両脇を固めていた魔物は、リディ達が床を蹴った瞬間に反応した。が、それでは遅い。反応し、出所を探してから戦闘体勢に移るのでは、遅いのだ。


「残念でした」


 緑色の顔に驚愕を浮かべた魔物を、リディは風の刃で粉々に切り裂く。血を吹き出した直後、魔術は霧散した。男を挟んで反対側では、ルイスが同じことをしていた。


「なっ――」


 事態が理解出来ていない男と一瞬で距離を詰め、逆手に握った果物ナイフを喉元に突き付ける。しん、とした静寂が広間に降りた。


「さて、と」


 冷徹な声を発してルイスは男の前に立ち、微かに笑みを浮かべる。


「生憎だったな。俺達にはなんでか知らないが、竜の血封は効かないようだ」

「一対一戦闘なら、明らかに私達に分がある。諦めて投降した方がいい」


 呆然としていた男は、はっとして喚く。


「なっ…何故だ!この封じは絶対のはず!!貴様らに…」

「だから知らないって」


 淡々と答えて、リディはナイフを握る手に力を込めた。途端食い込む刃に、ひっと男が息を呑む。


「さっさとあの術を解いて。じゃないと殺すよ」


 だが、その言葉は逆に男を冷静にさせた。唐突に静かになり、くくく…と乾いた嗤いが男の喉から漏れる。リディは走った悪寒を誤魔化すように舌打ちした。


「何が言いたい」

「じゃないと殺す…だと?馬鹿だな、娘」

「…なに?」

「この企みを失敗した以上、どうせ俺は殺される。しかもお前らに散々拷問された後でなあ…。俺の情報を、散々極悪人のように切り刻んででも取り出すのさ。どうせなら、死なば諸共、という言葉を知っているか?」


 前半の台詞に動揺したせいで、リディもルイスも反応が遅れた。にやりと男の唇がめくれあがり、ばっと懐に入れられた手が黒く輝く珠――核を取り出す。


「っ、やめ――」

「  」


 口の動きをみる限り、恐らく、滅びろ、と紡ごうとしたのだと思う。しかしそれは音にはならなかった。

 ルイスとリディの視界で、鮮やかな金と紅が、舞った。


「馬鹿ねえ。こんなところで役者(キャスト)を殺しちゃったらつまらないじゃない?」


 響いた、婀娜めいた女の声。艶を引くそれは、薔薇のような毒を含んで二人の耳に滑り込む。


「――な…」


 びちゃ、と顔に降りかかる鮮血に、リディはのろのろと足元に視線を落とした。赤黒い、元が何かもわからない破片が紅い水溜まりの中に浮かんでいる。その水溜まりの中に自分はいて、躯には所々薄赤い濁った破片が散っていた。


「――ッ!」


 吐き気をこらえてよろめいた彼女の肩をルイスは抱えて跳びずさった。彼にしても顔は青ざめ、手が微かに震えている。

 距離を取って改めて認識する視界。先程まで確かに人間の形をしていたものは、最早単なる肉塊でしかなく、知らなければそれが元は何の形をしていたかの連想すらままならない。


 それは、かつてファーデリアで見た光景と酷似していた。


 堪えきれず失神、嘔吐する者が続出する。視界の端で、セレナをはじめとする女達をかばう男達の姿が目に入った。


「人間って馬鹿ねえ。ちょっと力をあげただけで、すぐになんでも出来る気になっちゃうんだもの」


 その光景を挟んで立つ女は、全く自分のしたことを意に介した風もなく肩を竦めた。


 震える手を握りこみ、ルイスは低い声で誰何した。


「お前は()だ」

「何だと思う?」


 くるりと、一本の枝毛もなくゆるやかにウェーブした黄金の長い髪を見せ付けるように、女はその場で回ってみせる。

 荒れひとつ見当たらない白磁の美貌。白眼の存在しない緑の双眸はまるで緑柱石(エメラルド)のようで、妖艶な笑みは、総毛立つ程美しい。卵型の顔の各所に配置されたパーツに欠陥など存在しない完璧な美貌は、――逆に人間味が無い。


 趣きは違うものの、その存在感は、やはりかつてファーデリアで相対した存在と同じものだ。


「…魔族、だね」


 リディが呟いて、「フレイア」と喚んだ。

 瞬く間に顕現した気配が、すぐに更なる苛烈さを帯びる。際限なくいや増す勢いに、まだ意識を保つ面々は慄いた。


「リディ…」


 小さくサーレクリフが呟いた。妹の“本気”を見るのはあれ以来だ。自分も魔術を使おうとして、施術者の死を持ってなお、未だに血の結界が効力を持っていることに唇を噛む。

 ルイスも無言で手を振った。清冽な水の力が刺すような鋭さを持って顕現する。リディの火と対照的な力は、しかし相殺しあうことはなく並びあって魔族と相対した。


 女は大げさに手を振って、からかうような声音で言った。


「そういきり立たないの、『烈火の鬼姫』、『氷の軍神』。貴方達二人と今ここでやりあう気はないわ」


 その台詞に、既にその事実を知る者以外が皆、はっとリディを見る。

 が、リディはラーシャアルドで指摘された時のようには動揺しなかった。ゼノでの一件は、完全とは行かないまでも、彼女に毅さを与えていた。


「じゃあ、何しにきた?」


 ルイスが守るようにリディの肩を引き寄せ、低く問い質す。


「そうねえ。私は『原初の運命』になんか興味はないのだけど…あの方がとても面白そうになさっていたから。理由はそれだけよ?」

「あの方?」

「ファーデリアでお会いしたのでしょう?魔族(わたしたち)の王。闇の名を冠す、私達を統べるお方」

「…セティスゲルダ、か」


 落とした呟きに、あちこちから微かな悲鳴が上がった。基本的に人に不干渉の魔族に在って、異端ともいえる存在。人に興味を抱く彼の単なる気紛れで起こった禍いは決して少なくない。


「そう。あの忌々しい蜥蜴共の主と同じ位の悠久を生きておられる方。あの方の望みは私の望み。だから貴方達を見に来たの」


 幸せそうに笑む彼女からは、先程思い出すのもおぞましい殺戮をしたとは到底思えない。けれど無邪気な口調の裏には、確かに『虫けら』への嘲弄が潜んでいた。


「半信半疑だったのもあるけれど、これではっきりしたわ。あの馬鹿で煩い男も、少しは役に立ったわね。じゃなきゃわざわざあいつら()の血肉をあげた意味がないもの」

「じゃあお前がこれを仕組んだのか?王族の殺戮を?」

「馬鹿ねえ、ただの実験よ。殺すことが目的だったらその男、止めてあげなかったわよ」


 ルイスを一蹴し、女はふわりとその場に浮かび上がった。


「教えてあげるわ。私の名は、エカテリーナ」


 はっとして身構える間もなく、女の姿が消え、ルイスとリディの耳元で、艶やかな毒を含んだ声が囁く。ばっと振り返っても、その姿は既に視えない。


「イグナディアで、貴方達を待っているわ」


 くすくす、と軽い笑い声だけを残して。

 魔族――エカテリーナの姿は忽然と消え失せた。




第八話は次話で完結です。

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