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第八話 発覚と未来 (2)

第八話 発覚と未来 (2)







 神殿とは、昔は文字通り神を祀る場所であったらしい所のことだ。しかし何百年も前に、『神』を崇める信仰は既に途絶えていた。この大陸は基本的に無信仰で、でも人々の意識の根底に、『この世の至高の存在は竜』というものがある。竜は決して伝説の存在などではないし、崇め奉った所で何か人間に干渉する訳でもない。


 つまり、『心の寄る辺』としての『神』は竜であるが、『神頼み』としての『神』は存在しない。

 うっかりその対象にも竜がなる所だったらしいが、そんなことをしているくらいなら自分でやり遂げる為に動け、と時の竜が言ったとか言わなかったとか。つまりは遠い昔に神の存在論争は終止符を打たれているのである。


 しかし、建物のとしての『神殿』は未だ各地に残っている。しかも、神を祀る場所であったからか、やたらと丈夫で作りが凝っている。これを壊すのは勿体ない、しかし住むのは嫌、という議論の末、神殿は『怪我人を治療する所』と相成った。常時治療術師と薬師が数名詰め、怪我をした人、病気を患った人の治療に当たっているのだ。



「…ここか」


 この件の生存者も、何名かここでまだ手当てを受けているはずだ。リディは事件当時の状況を訊こうと思ってここへきた。だが――。


「…覚えてない?」


 目の前で、片目に痛々しい包帯を巻いた男、残った緑の右目で済まなそうに頷いた。


「後ろから襲われて、振り向いた所までは覚えてるんだが…、その後の記憶がぷっつりと無いんだ。他の人もそうだと言っていた」

「振り向いた時に、顔とか見なかった?」

「見ていたら狩人協会に伝えているさ。…見たかも知れないが、覚えていないんだ」


 リディは唇を噛んだ。そうだろう。もし事件の時の有力な状況情報があったら、狩人協会(アリスティア)を通じて渡されているに違いない。自分の浅はかさをリディは呪った。

 が、続けられた男の言葉に彼女は眉を寄せる。


「…しかし…狩人協会には言ってないし、今はそれ程感じないが、目が覚めた直後には、かなり違和感を感じたんだ。…記憶がないんじゃなくて、奪われたような」













 神殿を後にし、人気の少ない通りを歩きながら、リディは今し方の情報について考えていた。


(記憶が奪われたような、か)


 確かに男が狩人協会に言わなかったのも無理はない。漠然としすぎていて、言えなかったのだろう。だが残っていた気がかりを、言わずにもおれなかったということだ。


(収穫としていいのかどうか微妙なところだな…)

 

 昼ご飯でも食べながら考えよう、と歩いていたリディの背に、不意に「そこのお嬢さん」と声がかけられた。

 ちらりと周りを見るが、『お嬢さん』と形容出来る年齢の者は彼女くらいのものであったので、仕方なしにリディは振り向く。


「…何ですか」

「ちょっとお尋ねしたいのですが」


 声の主は、三十程と見える男だった。旅装に隠れてはいるが、体つきはかなり筋肉質のようで、腰には剣も佩いている。

 リディは眉をひそめ、それと気付かれないように足をずらした。…剣をいつでも抜けるように。


「この街、何か起こっているのですか?やけに人気が無いし…ピリピリしている。貴女も」

「…貴方、旅の人?」

「ええ。王女殿下の生誕を聞きつけ、故郷に帰ってきたところなのですが…」

「……。今この街は、猟奇殺人事件が起こってるんですよ。夜は絶対出歩かないで下さい」


 詳しい事は街の人間に訊いて下さい、と言い捨ててリディは踵を返した。しかし、再び呼び止められ、足を止める。


「あと、人を探しているのですが」

「…どんな人?」


 出した声は平坦であった、と思う。半分だけ振り向いて、男の顔を伺った。

 短い干し草色の髪に、鈍角的な顔の男は、柔和な――しかし目は顔程笑っていない――表情で、リディに言った。


「長めの黒髪に、深い蒼の瞳。年齢は二十歳くらいで、身長はあなたより頭一つと半分くらい高いでしょう。剣を帯びているとも思います」


 リディはすっと目を細めた。笑う男の表情は読めない。数秒後、リディはすいと肩を竦めた。


「さあ。私は会ってませんね。私も流れ者ですから」


 今度こそ彼女は歩き出す。今度は呼び止められることはなかった。













 歩き去る少女の背を見つめ、男は足早に路地に入った。すぐさまその傍らに黒装束の人影が降り立つ。


「どうだった」

「さあ、知らないと。だが」

「信じるのは愚かだな」

「ああ。――尾けろ」


 男の言葉に頷いて、黒装束は再び姿を消した。















(…尾けられてる、な)


 手近な食事処に入って昼ご飯を食べながら、リディはちらりと目を動かした。

…先程男に話しかけられた直後から、リディを尾けている男がいる。しかも相当な手練れだ。かなり集中していないと気配が感じ取れない。


(ルイスの追っ手か…厄介そうだな)


 ルイスはゼノでの一件で、薄々彼女の正体を察していると思う。だがリディ自身はルイスの正体は全然解らない。だが彼女にとって重要なのは『今』であり、過去はどうでも良かった。

 ただ見るに、どうも自分と同レベルかそれ以上に厄介そうだ。


(まあ、狩人協会にいる限りは大丈夫だろ)


 ルイスは狩人ということで、神殿ではなく狩人協会の一室で眠っている。そして狩人達は、無闇に人の過去を詮索する事を嫌う。だから、あそこにいる限り彼は安全な筈だ。


「問題は私の方、か」

 スプーンを口にくわえてリディは唸った。


 眼。

 記憶。

 人型の魔物。

 夜。

 血。


「――血?」


 自分の中で浮かんだ単語に、思わずリディは口に出して眉を寄せた。なぜ血という単語が――。


「……」


 待て。あの時ルイスは、何故倒れていた?大した外傷もないのに。当て身を食らった可能性もあるが、それだけならこうも目覚めないのはおかしい。なのにルイスは、血の気が殆どない白い顔で――。


「――…」


 その時何かが脳裏をかすめた。いつか、誰かが何かを話していたような…。


(――で、この魔物は記憶を消すんだって。自分の存在がばれないように)


 ガタンッ、とリディは椅子を蹴立てて立ち上がった。周りの、数少ない客がびくっとした顔で彼女を見るのもお構いなしに、そのままの態勢で立ち尽くす。


「そうか……」


 もしかしたら、そういうことか。

 確証はない。裏付けも無いに等しい。だが――尻尾は掴んだ。


「囮作戦、続行だ」


 にやり、と一人人の悪い笑みを浮かべ。リディは周りの客が怯えるのに一切気付かず、食事処を飛び出していく。その背をそっと黒い人影が追ったが、リディの頭からはすっかりその存在は消えてしまっていた。







――――――――――――――――――――――




 夜。


彼女(・・)』は夜道を歩いていた。


――ここのところ、街の人間達も自分に警戒して、夜歩きをする者は殆どいない。代わりに、そこかしこで緊張と敵意を漲らせた、『普通でない』人間達が目を光らせている。大方自分を捕らえようという狩人(羽虫)達だろう。――が。


 彼女(・・)はくすりと嗤う。


――狩人だろうがなんだろうが、自分と|真正面から向かい合って《・・・・・・・・・・・》、敵う者などいない。昨日の、あの尋常でない魔力を持っていた男だって自分の前では無力と化した。


 そこで彼女・・は、顔をしかめる。


 あの時あのタイミングで邪魔が入らなければ、あの男の()を奪えたのに。あの忌々しい、紅い髪の小娘――。


――ああ、だが。

 あの小娘の眼は、良い色をしていた。あの男に負けず劣らず、澄んだ鮮烈な(いろ)を。何より――美味そうだ。


 昏い笑みが、彼女・・の唇に浮かぶ。


――あの様子では、激怒して再び自分を探しているだろう。あの男が小娘にとってどういう存在かなど興味は無いが、冷静さを失ってこの街で彼女を待っているなら、好都合。あの時は不意を突かれたが、今度は――。


 偶に視界に入る人影を慎重に避ける。どいつもこいつも不味そうなのばかり。


 どこだ――?


 どこかに必ずいる。あの鮮烈な、金の眼の持ち主。


 勝手知ったる街をゆっくり歩いていく。夜の闇はいよいよ深い。街全体が、押し殺したように静かだ。――押し殺しているのが自分だということに、彼女は愉悦を抱く。


 そして。



いた。


 路地の先で翻った、紅い髪。


「――見つけた」


 音も立てずに忍び寄る。そのまま襲えれば簡単だが、そうもいくまい。現に娘は振り返った。猫科のような瞳が、敵愾心に満ちて彼女(・・)を貫く。


――思う壺だ。


 彼女(・・)はニヤリと唇を歪めると、被っていたフードを自ら取り払う。そして、娘に見えているだろう顔(・・・・・・・・・)で嫣然と笑んだ。――思惑通り、娘の顔が驚愕と困惑で、歪む。その機を逃さず娘の背後に回り込み、その白い首筋に――


 バリッ――!!


 何が起きたのかわからぬまま、彼女(・・)の躰に衝撃が走った。


――そんな、まさか。


 彼女(・・)は有り得ない、という思いに満たされたまま、地面に倒れ込む。彼女(・・)の視線の先で、娘が乱れた襟元を直し、凶悪に嗤う。


「やっと会えたね。――吸血鬼(ヴァムピール)









 リディは目の前に倒れ込んだ黒いマントに、自分の策が見事効を奏したのを見て、笑った。――多分、今自分の顔は凄く悪人面だろう。まあいい。誰も見てないし。


「な、んで…」


 黒マントが動かない躰を戦慄かせて、リディを見上げる。蹴りつけ様、思いっ切り雷魔術を叩き込んでやったので、もう喋ることすらままならないだろう。そして、その顔は予想していたものだ。


「君は――淫魔(サキュバス)吸血鬼(ヴァムピール)のハーフか何か?その顔――『対象者が最も強く想う者の顔の幻』を見せるんだろう?」


 今――彼女の目の前で驚愕の表情を浮かべているのは、ルイスの顔(・・・・・)だ。

 愕然とする黒マントを見ながら、リディはこの結論の経緯を思い返した。




――――――――――――――――――――――


『ああ、それ――多分、吸血鬼か淫魔の仕業じゃない…?』


 風魔術による通話で、リディから事情説明を受けた、遠く離れたオルディアンにいる幼馴染はあっさりとそう言った。

 やっぱり、と思いながらも理由は、と訊ねたリディに、幼馴染は淡々と説明する。




 一点目は、ルイスの容態である。大した傷も無いのに眠り続け、血の気がない(・・・・・・)

 ――文字通り、血が無かったのだ。発見した時、襟元には血の痕があったのに傷がなかった。吸血鬼(ヴァムピール)は獲物の血を吸った後、バレないようにその痕跡を消すという。ルイスの様子は、それに合致する。


 第二に、神殿にいた男の話だ。彼は『記憶が奪われたように感じる』と言っていた。…そんな芸当が出来るのは、人型の魔物――その中でも知能が突出して高い、吸血鬼(ヴァムピール)淫魔(サキュバス)、もしくは悪魔だけだ。


 そして淫魔(サキュバス)の最も知られた能力として、幻惑がある。淫魔(サキュバス)達はその幻惑能力で人を誑かし、精気を奪い取るのだという。


『で、その幻惑能力ってさ…『強く思う者の顔』って説があるんだよね…』

「強く思うものの、顔?」

『うん。数百年前にテーリアでおんなじような事件があったらしいんだ。おもしろかったから覚えてるんだけど…。確か、何十人かで特攻したら、みんながみんな違う顔を見て、それで気付いたんだって。頭いいよね…』


 確かにそれならどんな強者でも、必ず隙は生まれる。


「でもわからない。血ならともかく、なんで目を?」

『ん、確証はないけど…カササギって、宝石好きでしょ…?』

「は?」

『それとおんなじじゃないかな…。吸血鬼とか淫魔とかって、綺麗…というより、『美しい』ものが好きだし。ルイスの眼も、綺麗な蒼玉(サファイア)みたいでしょ…?それを狙ったんだとするなら…』




―――――――――――――――――――――――――



「全部、辻褄が合う」


 にっこりと笑んでやった。自分に出来る中で最高に美しく。最悪に凶悪に。



 ラグから話を聞き出した後、リディはすぐさま準備に向かった。切る直前、ラグが珍しく慌てたように呼び止めようとした気がするが、それどころではなかった。多少気になるが、まあ後で聞きだせばいい。



 黒マントは黙り込んでいた。その顔は未だルイスのままに見えたたが、リディは懐から小瓶を取り出して、遠慮容赦なく中身を黒マントにぶっかけた。


「……!」

「『解除』」


 パン、と何かが砕けるような音がして、一瞬ルイスの顔がぼやける。――ついで顕れたのは、ルイスとは似てもつかない、金髪の肉感的な女の顔だった。


「それが君の正体か。女だったんだね」


 リディが今ぶっかけたものは、幻惑を解く効果のある薬草を調合した液体だ。魔術薬屋に普通に売っている。人間は、魔術によって幻惑や催眠を行えない代わりに、薬草技術を持っている。それを持ってすれば、かなり応用が利く。


「まあ女だからといって容赦なんてしないけどさ」


 今のリディを誰かが見れば、一般人は元よりアル、ラグ、ルイスといった面々も漏れなく凍りついただろう。――それ程までに、彼女から放たれる殺気は凄まじかった。

 現に、最早黒マントからの回答を求めていない。求めていたとしても、そこに見解の相違はなかったのだが。


 


 リディは怒っていた。眼の収集なんて嗜好で何人も襲った吸血鬼(バカ)にも、それに踊らされていた自分達(バカ)にも、果ては術中にあっさり嵌って死にかけたルイス(バカ)にも。


 しかもルイスのことを考えると腹も立つ。


 自分は今淫魔の幻惑に浮かぶ程彼のことを心配しているのに、彼はどこぞの『大切な存在』とやらを視て動揺し、淫魔(サキュバス)なんぞに遅れを取った。そのことを考えると、何故か無性にイラつく。

だが今はその時ではない。


「奪った眼も、直に私の風精霊が見つける。君の魔力痕を辿ればすぐだ――安心して死になよ」


 代わりに、そう悪魔も裸足で逃げ出すような声音と顔で、淫魔に剣を振り上げた。










――どうしてこうなった。

 スローモーションのように落ちてくる銀の軌跡を、彼女は――吸血鬼(正しくは淫魔とのハーフだが)は呆然と見ていた。


 何故。自分の計画は完璧だったはず。なのにどうして、こんな小娘に――。

 有り得ない。たかが人間の小娘に、この私が追い詰められるなんて――。


 有り得ない!!


 彼女はそれまでの凝結が嘘であったかのように、バネのように弾ね起きると、鋭い爪を伸ばして小娘に向かった。


 まさか魔術を破られると思っていなかったのだろう、小娘の驚愕した顔。


――馬鹿な小娘。吸血鬼と淫魔のハーフの魔力が、高くない訳ないだろう!!破れないと驕ったその傲慢さの報いを、

 死を持って思い知るがいい!!


 反撃を許さず、小娘の胸に風穴を空けてやろうと手を突き出した、その時。

 どすっ、と鈍い音が響いた。


「――え」


 間抜けな声が、自分の喉から零れ落ちる。

 彼女の。胸と腹の間から。月を反射して輝く銀の刃が、突き出していた。


「…ルイス!?」

「…後ろからなら…そのツラ、見なくて済む」

 彼女の肩口に被さるように、誰かが立っている。否、小娘の顔を見ればわかる。彼は――


「…よくも、ヒトの大事なもんに化けてくれたな」


 昨日眼を奪えなかった、青年だ。












「ルイス…」


 危うく殺される所を寸前で救われたリディは、呆然と青年の名を呼んだ。ほぼ同時に、彼の剣が貫いていた躰が、紫色の珠を残して崩れ去る。青年は剣を鞘に納めて、未だに青白い顔は、しかししっかりとした意識を保って、リディを睨んだ。


「馬鹿かお前はっ。幾ら自分が優勢に立とうと、一時たりとも油断するな!戦いの基本だろうが!」


 リディは首を縮めてそれを受けたが、むっとした顔で言い返した。


「君だって人のこと言えないだろ!淫魔(サキュバス)なんかに引っかかってほぼ無抵抗で死ぬとこだったじゃないか!」

「ぐっ…、確かにそれは俺の落ち度だが。俺は油断はしてなかった!」

「そーだね惑わされたんだったね。大切な存在(ひと)とやらの顔に気を取られて死にかけたなんて知れたら、『自由時間(フリータイム)』の名が泣くよ!……っ、よっぽど大切なんだね、その人っ」


 早口でまくし立てながら、リディは胸の奥がズキリと疼くのを感じていた。訳がわからない感情が、理解の外で心を満たし、意志とは無関係に涙が出そうになる。それを必死で押し留めて、でも真正面からルイスに向き合うことは出来ずにそっぽを向く。


 ルイスの方も喉に餅が詰まったような音を出したあと、沈黙していた。


 一分が過ぎ、二分が過ぎ…五分が過ぎた頃、リディが呟いた。


「眼、見つけた。…今、ウェルエイシアがアリステアに伝えた」

「…そうか」


 ルイスも呟き返し、「…その」と言った。


「リディ、俺は…」


 何かを言いかけた、その時だった。唐突に二人の周りを、白い霧が包む。


「!これはっ…ウェー…ッ!」


 何かに気付いたルイスが、咄嗟に風精霊の名を喚ぼうとし、…途絶えた。ごすっ、どさっという鈍い音が聞こえて、リディは目を見開く。


「ルイスッ!…これ、水魔術かっ…吹き飛ばせ、ウェルエイ――」


 飛びずさった背後に不意に気配を感じると同時、首筋に衝撃が走った。一瞬火花が飛び、薄れゆく視界。


(…ああ、そうだった…)


 冷たい石畳に倒れ込みながら、リディは臍を噛む。


(ルイスの、追っ手…)


 視界の端に、二つの見下ろす影を映したのを最後に、リディの意識は闇に溶けた。













 自らが昏倒させた二人の若者を見下ろし、干し草色の髪の男と黒ずくめの衣装をまとった男は顔を見合わせた。


「…油断をされていて助かったな」


 その台詞はもしルイス達が聞いていたら、喉元を過ぎぬ間に、と自分達を猛省したに違いない。


「まあ、無理もない。事件に終止符を打ったと安心なされたのだろう」


 倒れている血の気のない横顔。それに胸を痛めながら、黒ずくめの男は干し草色の髪の男に問いかけた。


「どうする」

「どうもこうも、お連れするまで。…伴がいたならそれも連れてこいとの仰せだからな…、その娘も連れて行く」

「わかった」

「途中で目が覚めて暴れられても面倒だ。殿下諸共ユラの香を嗅がせておこう」

「妥当だな」


 黒ずくめは頷くと、気絶している少女を肩に担ぎ上げる。青年の方は、干し草色の髪の男が担いだ。


「人目に付かない内に。行くぞ」


 未だ、脅威が去ったことを知らない、静けさに満ちた街を、二人の男は足早にあとにした。





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