第七話 神の愛し子 (5)
第七話 神の愛し子 (5)
「…『精霊の御手』?」
ルイスが小さく呟く。答えが得られるとは思っていなかったのだが、存外あっさりと竜――メルセイエデスは答えた。
『五属性と聖属性、全てを扱える人の子のこと。精霊の加護を持つ者。千年に一人が現れる』
「……。…スケールが大きすぎて想像が出来ない…」
ラグの呻きには全くもって二人も同意だった。その二人に、メルセイエデスの瞳が向けられる。
『会えて良かった。お前達に渡したいものがあった、『原初の運命』』
「!…それ…」
それまでの硬直も忘れ、リディがはっと声を上げた。
「それ、何なの?セティスゲルダにも、占い師にも云われた…『原初の運命』って、なに?」
束の間、メルセイエデスは目を瞬いた。数秒後、『あの方も人が悪い…』と、リディ達には聞こえないように呟いて、それから持ち上げていた首を少し下げた。
『私の口から、言うことは許されていない』
リディは素直に肩を落としたが、ルイスは蒼い目を曇らせて訊ねた。
「…最高位竜である貴方を、口止めする者がいるのか?」
この大陸において、竜の存在は絶対だ。
国を作り、日々を動かしているのは人かもしれない。しかし、人など及びもつかない力と知性を持つ竜は、神の信仰がないこの大陸では、逆説的となるが神のようなもの。そしてその竜の頂点である筈の最高位竜を、上回る存在を彼は知り得ていない。
それだけに、続くメルセイエデスの言葉は衝撃的だった。
『私達の位階は、最高位が頂点ではない』
「メルセイエデス様!」
非難の声が、三人の背後、佇む竜達から発せられる。しかしメルセイエデスは緩やかに首を振ると、今し方の言葉に凍結している三人を穏やかに見つめた。
『私の上――竜という種族の頂点は、“天竜”と呼ばれている』
「……」
『人の子にとって我々が神めいたものであるのと同様に、我らにとっての神は、“天竜”…。至高の存在』
そして、哀しい存在。
口には出さずにメルセイエデスは呟き、苦笑するように目を細めた。
『本来、人の子が知り得ない話。他言無用にすること』
「…言えないよ…」
ラグが頭を掻いた。
こんな話、とても他人には出来ない。今までの常識をひっくり返すことになる。そっと胸の内にしまい込む良識はあった。
「…なんか、驚きすぎてもう何がなんだかわからないけど…つまりその“天竜”が、口止めしてる?」
リディの問いに、メルセイエデスは答えなかった。しかし、それ自体が、リディの言葉が正しい事の証明だった。
「…それで…渡したいものとは、なんだ?」
ルイスが静かに訊ねた。完全に単語に気を取られていたリディは、ぽんと手を打つ。忘れていた。
メルセイエデスはゆったりと首をもたげ、小さく『風よ』と囁いた。
ふわりと柔らかい風が、身を丸めているメルセイエデスの腹の間から、二つの丸い物体を浮かべた。すうと流れた風は、それらをルイス達の眼前に運ぶ。
「……?」
『それは、私の卵』
「たっ…!?」
訝しげに物体を眺めていた三人が、驚愕のあまりぽかんと口を開ける。しかしラグは、研究者魂のせいか直ぐ様我に返り、興味津々に“卵”を覗き込み、サッと取り出した手帳に凄まじい勢いでペンを走らせ始める。
白濁色の表面に、黒い模様のようなもの。形は楕円形で、大きさは人の頭程もある。
「竜の卵なんて初めて見た…」
「人間で見たのって、多分いないんじゃ…」
恐る恐る囁いて、ルイスとリディはメルセイエデスを見上げる。柔らかい瞳の光がそれを肯定していた。
『それを、お前達に与えよう』
「…は!?」
事前通告があったにも関わらず、三人は頓狂な声をあげてしまった。愕然と卵と竜とを見比べる。
『触れるが良い』
一瞬目のやりとりをしてから、リディとラグが恐る恐る手を伸ばした。
少しだけ色合いの違う白い手が、それぞれ左右の卵を掴んだ。
「…ッ」
「…う、おも…」
途端、ズンと手にかかった重みにそれぞれふらつきかけ、なんとか踏ん張る。そして、卵の表面にピシッと亀裂が走った。
「…え」
三者三様に固まる前で、瞬く間に亀裂は卵の全体に及び、細かくひび割れを作っていく。
「わ…!」
一瞬パンと弾け飛ぶような光が網膜を刺し、思わず目を瞑った。そして、消えた手の上の重みに慌てて目を開くと、リディとラグの足元に小さな生き物がうずくまっていた。
「…これ…」
そうっとしゃがんで、卵の中から現れた生き物を覗き込む。それは、表皮にこびりついている粘膜を、長い舌で舐めとっていたが、三人の視線に気付いて小さな頭を上げた。
体は薄蒼い白で、きょとんとした風な眼は薄紫。メルセイエデスと同じ彩だ。大きさは、畳められている翼を除けば野兎程で、鱗はまだ薄く、ぱっと見た目は滑らかだ。牙も短く、爪もまだ軟らかい。尾の棘は未発達で、小さな突起があるだけだ。
「竜の子供…なんか、感動する…」
リディの呟きに、メルセイエデスは喉の奥を鳴らした。
『それらは私の子。しかし、運命に従いお前達に預けよう。竜の子は、『神の愛し子』。大切に育てるが良い』
「ちょ、ちょっと待て」
ルイスが狼狽えて立ち上がり、メルセイエデスを見上げる。
「預ける、って言われても、俺達は竜の育て方なんて知らないし、それに人里に連れて行ったら、大変な事になる。そんな無責任な事をする訳にはいかない」
『心配無用だ。――ほら、お前達』
ぴくんと二匹の子竜が小さな角を揺らした。じいっと母親を見上げる。
そうして数秒後、一瞬光に包まれたかと思うと、そこには子竜の姿はなかった。代わりに、
「『ピュルマ』…?」
ラグが目を輝かせて、腕を伸ばしてそれを抱き上げた。ルイスがぎょっとしてラグを見るが、その生き物は大人しく抱き上げられている。
ピュルマとは、非常に希少な生物の一種で、ふわふわした真っ白の羽毛と、兎のように長い耳、猫のようなふさふさの尻尾に体躯と、可愛いもの好きなら一瞬で悩殺されてしまいそうな愛くるしい姿形をしている、といわれている。
けれど人前に現れる事は殆どなく、半分伝説のように云われていたのだが――。
「可愛い…!」
ラグがどちらかというと興味津々な一方で、女の血が疼いたらしい、金の目をキラキラさせたリディは我慢できないといった風に勢いよく、片割れを見上げていたピュルマを抱き上げた。
「っ、ふわふわ!やばい、可愛すぎる!可愛すぎて犯罪…!」
「いや、可愛くても犯罪にはならねえよ」
一人冷静にツッコミを入れ、ルイスはラグとリディを微笑ましそうに見下ろしているメルセイエデスを見た。
「ピュルマは竜なのか?」
『いや。しかし、竜の基本は擬態。上位竜になれば人の擬態も可能になるが、幼竜は自分と同じような大きさの動物に変わる。生まれたばかりの竜は非力。だから竜とわからないように擬態する。…大陸で、なかなか子竜が見つからないのはそういう訳だ』
「ラグ、聞いてたか」
「勿論。…これも書けないけどね」
ラグは少しだけ残念そうに眉を曲げて、ピュルマを下ろそうとした。しかし、下ろされそうだと見るや、ピュルマはふわふわした外見からは考えられない速度でラグの肩を駆け上り、
「ぐえっ」
頭にしっかと張り付いた。
「ちょ、ちょっとー…」
「…髪が増えたみたいに見えるぞ」
ふわふわが倍加したようにしか見えない。ルイスは噴き出しそうになり、慌てて横を向いた。
『ふふ、どちらも懐いたようだな』
どちらも、と言われ、ルイスはリディに目を動かす。…確かにこの短い間で、リディはピュルマを肩に乗せて、嬉しそうに撫でていた。
『食事は肉を与えれば良い。そのうち自分で狩りにいくようになる。ひと月もすれば、人二人乗せて飛ぶ位には成長するはず。…ただし、竜の姿に戻らないと、どれだけ大きくなったかはわからない』
「なんで…貴方は、俺達にこいつらを預ける?」
この場の三人の中で唯一、冷静さを保ち続ける青年を、メルセイエデスは穏やかな目で見つめ返した。
『私がお前達に出来る、唯一の事だから』
メルセイエデスは首をいったん丸めると、どこからか取り出した銀色の玉を口にくわえた。そしてそれを、ルイスに向かって首を伸ばすことで差し出す。
「メルセイエデス様…!」
『良い』
後方から、どこか恐怖を帯びた声がかかったが、メルセイエデスは軽くいなした。
躊躇いながらもルイスは数歩歩み寄ってそれを受け取り、瞠目する。
「…これは…まさか、核…!?」
その声に、ぽやぽやしていたリディもようやく現実に帰ってきた。鋭い眼でルイスとメルセイエデスとを見比べてから、ルイスに近づいて、やはり瞠目した。
『そう。それは紛れもない核。子らと共に持っておいき』
「なんで…」
言葉の出ない二人の人間を、メルセイエデスは慈愛の瞳で見やった。
『旅を続けよ。その先に、お前達の求める答が待つだろう』
「……」
「…わかった」
どこか釈然としない顔つきのままながらも二人が頷くと、メルセイエデスはもう一人に愛おしげに視線を移す。
『『精霊の御手』よ。お前も、彼らが見つける答に関わる事となるだろう。…研究はいいが、その子を頼む。大切にしてほしい』
「…はい。言われるまでもありません」
前半の意味合いはわからなかったが、ラグは後半にしっかりと頷く。そしてその意志はルイスもリディも同じだった。
「頑張って育てるよ」
「安心して任せてくれ」
メルセイエデスは頷き、さて、と大きく息を吐き出した。
『お前達には旅がある…エマルファ、麓まで送ってやってくれないか』
「…わかりました」
青い髪の女が頭を下げた。その眼はどこか悲しげに最高位竜を見上げている。
「メルセイエデス様。…私達は、いつまでも貴方をお慕いしています。…どうぞ、お安らかに」
『…ありがとう。さあ、行け、人の子。我が子らよ、自らの務めを果たせ。…愛している』
ラグの頭のピュルマと、リディの肩のピュルマが同時に一声鳴いた。
リディとラグは顔を見合わせる。――これはまるで、今生の別れのような…。
しかしどちらもはっとした。一人は狩人の性ゆえに、一人は研究者ゆえに。あの核は、もしかして。
「、行きましょう。エーデルシアス側にお連れします」
エマルファと呼ばれた女が静かに踵を返した。
「……」
ルイスは静謐を湛えた瞳で最後にメルセイエデスを見つめると、黙って一礼し、渡された銀色の核を懐に丁寧に入れて踵を返し、エマルファのあとを追った。
リディとラグは戸惑い気味に顔を見合わせ、慌ててメルセイエデスに頭を下げると、それぞれピュルマを連れて、並びいる人間に擬態した竜達の間を抜けて、先を行くルイスの背を追っていった。
それを見送り、竜に比べて余りにも小さなその背が見えなくなると、メルセイエデスはゆっくりと大きな息を吐いた。
「…メルセイエデス様」
竜のひとりが、悲しそうに言った。
「何故…、とはもうお訊き致しません。ですが、どうにもならなかったのですか」
『わかっているだろう。私がお前達と共にいられるのは、ここまで』
「…なればこそ、形見を残したのじゃろう?メルセイエデスよ」
不意に、嗄れた声が響いた。全員がはっとその方向を見、漣のようなざわめきが走る中メルセイエデスは嬉しそうに目を細めた。
『来て下さったのですか、マルブレヒト様』
呼ばれた老婆は、若干眉をひそめて白竜に歩み寄る。
「…あれは、お前の核。核を渡せばどうなるかわかっておるだろうに…己の子らまで託しおって。私はそんなことをしろと言った覚えはないぞ」
『私が好きでしたのです。どの道近い内に滅びた身。ならば何も出来ぬこの身を、せめて役立てて欲しかったので。――それに、あの者達に託しておけば、この状況――命の危険も、減りましょう』
「――そうじゃな。すまぬ」
『いいえ。マルブレヒト様のせいではございません。私達全員の、無力が招いていること』
穏やかな、しかし沈痛な声音でそう喋るメルセイエデスの体に、徐々にひび割れた線が走っていく。
老婆は瞑目した。次に睫毛の下から覗いた銀色の瞳は、慈愛に満ちて優しかった。
「あの者達は――、解っておったぞ」
『聡い子らでしたね。自分に課せられた運命が何か知らずとも、私の願いを受け取ってくれた…』
ピシピシとひび割れが広がっていく。背後の上位竜達は顔を伏せ、老婆は肩を竦めた。
「あれならばお前の核も役立てるだろう。安心して眠れ」
『…そうですね…。では、そう致しましょう。先立つ不幸をお許し下さい』
「馬鹿者」
老婆は顔を歪めた。引きつれた傷痕の上を、透明な雫が伝う。
「…愛している。我が娘よ」
メルセイエデスの全身にひび割れが伝わり、強固なはずの鱗が、砕ける。
『私も…愛しています、お母、様…』
パン、と。
薄氷が砕けるような澄んだ音を立てて、白竜の体は砕け散った。煌めく光は直ぐに四散し、下に降り注ぐことなく空気に消えていく。
「……」
数秒前まで白竜が存在した、今は虚無感の漂う空間を老婆と、そして後ろに並ぶ竜達は凝視した。しかしそこに最早、メルセイエデスが存在した痕跡は残っていない。彼女の形見は、彼女が未来を視たものが連れて行った。
「『神の愛し子』…か…」
老婆は呟いた。
誰も彼らに言わなかった事がある。
通常、竜が子を孕むのは、上位竜までだ。長い年月を経た竜は、生殖機能を徐々に失い、孤高の存在と成り果てていく。
その中でメルセイエデスとその夫は、例外的につがい、メルセイエデスは子を宿した。その代償として、メルセイエデスとつがいの竜はその命を喪った。
「生まれながらにして上位竜」
長い歴史の中でも、未だかつて例のなかった最上位竜の子。二匹の子達は、宿す精霊の加護も命の輝きも、並のそれではない。
神――精霊に愛されし子ら。
彼らが、『原初の運命』の傍らにつく子供は、果たして何を生むのだろうか。
だが、
「お前の願いを無駄にはせぬ、メルセイエデス」
竜達が多く見守る中、老婆はゆっくりと頭を垂れた。
ルイス達三人は、青い竜、エマルファの背に乗せられ、ジルフェイを越えた。あれほど登るのに苦労した山も、竜の翼にかかればひとっ飛びで、まもなく見えた、故国エーデルシアスの風景に、ルイスはそっと息を吐いた。
三人を山の麓手前に降ろすと、エマルファは言った。
『ここからは自分達で行きなさい。私の姿を見られる訳にはいかないから』
「ありがとう。…て、ラグ、こっち来て良かったの?」
「ああ…大丈夫だよ。手は打ってあるんだ」
今更のように慌てたリディに柔和に微笑み、ラグはエマルファに頭を下げた。
「大切な貴方達の遺産は、僕の命に換えても守ります。…ありがとうと。お伝え下さい」
『…ええ。確かに伝えましょう』
エマルファは、わかっているのかどうか感情の読めない夕焼けの瞳を見返し、静かに頷いた。
「俺達からも。これ以上ない餞を頂いたと。…想いは受け取った、と」
『…はい』
真摯な蒼の瞳に微笑み、エマルファは最後に少女に抱かれるピュルマを見た。ふわふわの毛に埋もれる薄紫の瞳に思念を送り、ばさりと翼を羽ばたかせる。
『どうか良い旅を。私達は皆、貴方達の同朋です』
そう言って青の竜は、勢いよく翼を鳴らして、霞む山奥に姿を消した。
「…なんか、果てしなく長く感じた旅だったよ。今までの知識がひっくり返された気分だった」
未だ頭の上に乗っかるピュルマを撫で、ラグはルイスとリディに微笑んで言った。
「でも、楽しかった。期待は裏切られなかったよ。…また次を楽しみにするね。じゃあ」
「ってラグ、君ここからどうやってオルディアンに帰るの?まさかまた登る気じゃ…」
「そのことなんだけどね…」
リディの制止に、ラグは悪戯っぽく笑った。
「新しく開発した魔術があるんだ。魔術環を使った魔術で、ちょっと魔力消費量が大きいんだけど」
言いながら、懐から何やら紙を取り出して、二人に背を向けると、ラグは何かを唱えだした。
「…召喚…?」
リディは呟き、いや違うな、と否定する。召喚の詠唱ではない。
「…複雑怪奇だな」
紡がれる詠唱を聞いて、ルイスが眉を寄せて言った。
数分後詠唱を止め、ラグは紙を宙に放る。ぼっと燃え上がったそれは、同時に地面に銀に輝く魔術環を描く。
見たこともない魔術環に、リディもルイスも眼を点にした。
二匹の子竜もといピュルマも、それをきょとんと見つめている。
「まだ秘密だし、不安定なんだけど。…転移魔術だよ」
次いでリディもルイスもぽかんと口を開けた。
従来、風魔術による高速移動は出来ても、瞬間的に離れた場所に移動するなどという魔術は、この世界には存在しない。
はず、なのだが。
「もうちょっと安定したら、図教えてあげるね…じゃ、また」
頭に重大混乱を来しているルイスやリディの心情を推し量ることはせず、ラグは軽く手を上げると言った。
「転移ー」
まるで、いい天気だねーとでもいうかのようなあっさりさで、ラグと、頭の上のピュルマの姿は消失。
ひゅるー、と寒い風がその場を吹き抜けた。
「「……」」
今の今までラグの立っていた場所を穴が開くほど凝視し、ぽつりとルイスが言った。
「もう、常識ってなんだかわからなくなってきたのは俺だけか」
「…すいません」
別にリディのせいではないのだが、その沈痛な声音に思わず謝ってしまう。
まさかあそこまで青天井だとは思っていなかった。もしあの転移魔術が普及すれば、大陸の交通は一気に塗り替えられるだろう。が、そんなことをラグはこれっぽっちも考えていないに違いない。かといって無闇に人に渡す事もしないだろう。馬鹿なのか賢者なのかわからないのは昔からだ。
そこでリディは思考放棄を決定した。なるようになる。それでもういい。
(…リオーラにはヴィンセントもいるし)
たまにはあいつが厄介事を負えばいい。
ひとり納得すると、リディは表情を差し替えてルイスに言った。
「ねえ、ルイス」
「……?」
「この子達は、どういう存在なんだろうね」
「……」
話題転換に、ルイスは目を瞬くが追及はしない。
「あの竜の願いって何なんだろうね」
自分達に命を預けた、その理由はなんだったのだろうか。
「…旅を」
ルイスは蒼穹を仰いで言った。
「旅を続けた先に答えがあると、あの竜は言っていた。なら、旅を続けよう。俺は、自分がなんなのかを知りたい」
一声、ピュルマが高く鳴いた。じっとリディの肩で大人しくしていたのに、急な動作に一瞬驚くが、リディは柔らかいその背を優しく撫でた。
「うん。私も知りたい。あの竜が言う――私達の意味を」
そして二人は歩き出す。最高位の竜の想いを背負ったその背は、新たな道連れをその傍らに、青年の故郷――エーデルシアスに踏み出していった。
ラグは魔術においていろいろ規格外です。彼のもう一つの規格外魔術と、子竜の名前は次回更新で出す予定です。
ピュルマは兎+猫×ふわふわ度三倍 みたいな生き物です(どんなだ