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第一話 後日談

第一話 二人の狩人(ハンター) 後日談






「うわー、でっかいな…」


 イェーツ第2の都市、イスダルハリア。リックはその活気と威容に、半ば呆然と立ち尽くした。

 辺境の小さな村で生まれ育ってきた彼には、想像もし得ない人の多さだ。綺麗に整えられた白い石畳の両脇には露店が並び、見たこともないような不可思議な品もたくさんある。


 イェーツはその地理上、大陸の交通の要衝だ。大陸のほぼ中央に位置する為に、商人達はイェーツを通って各地に向かう。同じく中央部を占める大国アルフィーノほどではないが、商業国家として栄えている。

 その第二の都市なのだから、大陸中の商品が取り揃えられていると言っても過言ではない。リックは年に一度の村の特産品を売る機会に、特別に連れてきて貰っていた。


「えーと…狩人協会は…」


 一緒に来た村人と別れてから茫然と立ち尽くしていたリックは、気を取り直して歩き出した。キョロキョロと辺りに視線を巡らしていると、通りの一角に、一際人で賑わう建物を見つけた。看板に、『狩人ハンター協会』と書いてある。


 これか、と納得してリックはそこに足を向けた。







「こ、こんにちは…」


 何だかよく解らない内にリックは列に並んでいて、暫くするとカウンターらしきものの前に来ていた。そこに座る男に恐る恐る声をかけると、男は怪訝そうに眉を上げた。


「あ?坊主、こんなとこになんの用だ?」


 確かに、ここにはリックのような子供は他にいない。皆大抵屈強な体つきをした戦士のような人間や、魔術士達―――当然、狩人ばかりだ。


「まさか狩人になりてぇ、とかじゃねぇよな?」


 揶揄まじりの声に、周りからも笑い声が上がる。萎縮しそうな心を叱咤して、リックは懐から袋を取り出した。そこから更に紙を取り出してから、袋だけを渡す。


 男は眉をひそめて、中を覗き込み――次の瞬間驚愕の叫び声を上げて仰け反った。


「レ、レベル60の核っ!?」


 ざわっ、と周りがどよめいた。一気に喧騒が包む中、リックは必死で声を張り上げた。


「ル、ルイス・キリグと、リディ・レリアの代理で来ました。換金してください」

「ルイス・キリグとリディ・レリアぁっ!?」


 リックの後ろにいた剣士らしき男から、驚愕が上がる。喧騒は騒音と化し、誰が何を言っているのかもさっぱり聞き取れない。


(な、何でそんな驚くのかなぁ…?)


 良く言えば純粋、悪く言えば無知なリックが首を傾げていると、カウンターの男がリックを覗き込んだ。


「おい坊主。これは、何の核だ?」

「イゴリア山の山頂にいた、竜の核」


 その後周りから聞こえたのは、最早悲鳴だった。カウンターの男は絶句、後ろの剣士は呻き声を上げた。


「そんなに…凄いの?」


 狩人でなく、また田舎者で子供のリックには相場など解らない。だが周りの様子から、段々あの二人は実は凄いひとたちだったんじゃないかと思い始める。


 カウンターの主は、暫し沈黙し、それから据わった目でリックを見据えた。


「いいか、坊主。核にランクがあるのは知ってるか?」

「あ、うん。ルイスが言ってた。高い低いがあるって」


「……。核のランクってのはな、レベル1からレベル100まであって大まかに色で分けられてる。

レベル0は茶、レベル10は白、20は黄、30は橙、40は赤、50は紫、60は青、70は緑。で、80は黒、90は銀、100は金…と言われてる。核の色は、レベルが上がる程、次のランクの色が混じる。つまり、…例えばレベル19だったら、限りなく黄色に近い白だな」

「へぇ…。じゃあ、言われてるって?色がわかってないの?」

「レベル70以降は殆ど見た奴いないんだよ。レベル90以降に至っちゃ、こりゃ大昔の書物にちらっと載ってるしかないっていう、最早伝説だ。多分最高位の竜かなんかなんだろうな」

「竜にも位階があるの?」

「あぁ。大体生きてる年月が長い程高い。竜ってのは、年を経る毎に巨大になり、炎の温度は高くなり、鱗が硬くなって強靭になっていくのさ。最高位は、これまた見た奴はいねぇが、人より遥か卓越した知性と知識、ダイアモンド並の鱗を持ってる、と伝えられてる」


 リックはへぇと驚きと共に頷くばかりだった。新しい知識が面白い。考えてみれば、ルイス達が、屠った竜は自我を失っていたと言っていた。自我を失う程度の竜の位階は、大して高くないのだろう。


 そう言うと、男は感心したように言った。


「坊主、頭良いな。魔術士向きか?」

「おいマスター、続き話してやれ」


 後ろから声が飛ぶ。いつの間にか静まっていた周囲は、皆カウンターの男とリックの話を聞いていたらしい。


「あぁ。じゃ訊くが坊主。これ、何色だ?」


 男が、リックの持ってきた核を示した。


「ちょっと青っぽい…紫」

「当たり。じゃ、これはレベル幾つに値するか、覚えてるか?」

「えと…ランクが高くなると色が混じるんだったよね…青は、60で、紫は、50だから…57くらい?」

「上出来だ、坊主。魔力高かったら魔術士になれる頭の出来だな」

「よく解んないけど、ありがと。で、凄いの?その核」


 男は核を取り上げて、ため息をついた。


「坊主、核はな、例えレベル10でも重宝される。怪我の治療だって簡単だからだ。市場に出てくるのは精々がレベル30までだが、それ位あれば大怪我の治療もできる。…レベル40すら、なかなかお目にかかれないんだぜ?つぅか出たら王族とか神殿に持ってかれることが殆どだな。…そこを、レベル60と来た」


 リックの額にうっすら冷や汗が浮かんだ。…なんだか、嫌な予感がする。


「レベル50以上ともなると魔物や悪魔じゃ限られてくるから、大抵は竜だ。恐らくは幼竜か下位竜だろう…別に大陸を見渡せば、そこまで珍しい話じゃあない。だがな、問題はこれを狩ったのが、二人ってことだ」


 男の声が低くなる。周りからも頷きが返される。


「例え幼竜でも、狩るにゃ相当の人数と力が必要だ。通常二パーティ…十人程度でチームを組んで、竜には向かう。それを…」


 ぷるぷると男が震えた。周りからもざわめきが上がる。


「二人で狩りやがっただとぉ!?んだそりゃ、人間か!?」

「つか本当にそいつらだけで殺ったのかよ?」


 後ろからの疑念の声に、リックは声を荒げた。


「ホントだよ!目の前で見たんだから!…そうだ、これ!」


 手に持ったまま忘れ去っていた紙を、リックはばんとカウンターに突き出す。別れ際に二人が身分証明だと言って、くれたあの紙だ。


「こりゃ、魔力押印か…」


 紙の上ので銀色で踊る文字に目を走らせ、男が呟いた。待ってろ、と言うと、カウンターの下から取り出した銀の板を素早くなぞると、紙と核とを掲げた。

 と、一瞬それらが金色に光り、銀の板は金色に変わっていた。


「…こりゃ、間違いねぇ。この核を狩ったのは、ルイス・キリグとリディ・レリアだ」


 周りから呻きとも感嘆ともつかぬ声が上がる。


「…ったく、噂にたがわねー人外っぷりだな…」

「その板、どうなってるの?」


 がしがしと頭を掻く男に、リックは興味津々で訊ねた。


「よくわからん。が、個人の魔力波長を協会側はこの銀板に打ち込める。その為に協会に、狩人は全員波長を登録してんだ。で、核は狩った相手の波長を覚えてるから、それと、あと本人の波長が一致すれば、無事認定。証明完了ってわけだ」

「しっかしなぁ、なんつかやっぱトップハンターってすげぇなぁ」


 リックの横で、槍を背負った男が首を振った。その中に聞き捨てならない言葉を聞きつけて、リックは勢いよく振り向く。


「トップハンターって!?」


 男は面食らったようにリックを見、ややあって懐から小さな手帳を取り出して、リックに広げて見せる。


「坊主、知らなかったのか?ルイス・キリグとリディ・レリアのコンビ、『自由時間(フリータイム)』は登録して二ヶ月なのにトップハンター…狩人の中でもトップクラスを稼ぐ奴らの仲間入りしてやがる、とんでもねぇ新人だぜ?」


 ここに名前乗ってる奴らがトップクラスだ、と言う、男の指が示す先――紙面いっぱいにずらりと名前と稼いだらしい額が乗っていて―――そこには確かにルイスとリディの名前があったのだった。



「えええええぇぇぅえっ!?」


 響き渡った絶叫は通行人によると、通りの先まで響いていったらしい。


「だが…通常幼竜や下位竜の核は40から50なんだがな…」


 リックの絶叫に伴う騒ぎのせいで、続いて呟かれた男の囁きは誰も耳にすることはなかった。




 そして男もまた、日々の流れに直に忘れてしまうが――それは確かに、大陸の『変化』を示すものだったのである。

 しかしその変容に、気付く者は、ここにはない。

 





 ちなみに余談だが、リディとルイスがリックに渡した竜の核は神殿が買っていき、一般人が人生を五回繰り返したって手に入らない額がついた。リックはその金で家畜や被害にあった建物、木々の補修にあたったが、それでもなお余りある金に、リックの村の村人全員で使い道に頭を悩ませる羽目になった。


 こうして狩人デビューして二カ月の新星、ルイス・キリグとリディ・レリアの名は、さらなる畏怖と呆れをもって、仲間の狩人内に浸透していったのである。

ちょっと核についての説明を入れてみました。

要は魔物とか悪魔とか竜とかを倒すと、核が手に入るんですが、その核にもレベルがあるんですという話です。

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