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【幕間-2】ラグとルネ

【幕間】ラグとルネ





 オルディアン、シューベルト邸。そこの一室、本が山というか海というか積まれた部屋の奥で、机に向かっていたラグは、意識の琴線に触れた気配に顔を上げた。

 誰かが、外の結界に触れている。


(誰…?)


 リディではない。彼女は、触れる前に壊してくる。

 ルイスでもない。彼は常識的に玄関に回って取り次ぎを頼んでくる。

 ヴィンセントでもない。彼はそもそも滅多に来ない。


 眼を閉じ、触れる気配を探る。知らない人間だ。だが、妙に――。


「…ああ」


 ラグは眼を開いた。赤い瞳に、ゆっくりと理解が広がる。意識を操作して結界の一部を解除した。驚く気配。

 続いて風の魔術に言葉を乗せる。


『入ってきなよ…僕に、用があるんでしょ…?』


 数秒の躊躇いの後、気配が邸内に入ってきた。結界を閉じてから、ラグは執事に案内するように伝える。

――なぜかやたらと時間がかかったが、しばらくして訪問者はラグの部屋に現れた。


「わあ…」


 足を踏み入れるなりあがる、感嘆の声。魔術士とは得てして本の虫だ。リディなど、ジャンルは偏るにしても数冊どころか一気に数十冊借りていくことも多い。そんな彼らに対し、この部屋は宝庫だ。

 ラグはちらりと笑い、振り向く。亜麻色の頭巾を被り、所々に銀糸で刺繍された長い黒のローブを着込んでいる人間の姿が、そこにあった。


「あ…」

「はじめまして…ルネ、さん。リディから…話は聞いているよ」


 座ったら?と指した来客用の椅子に、ルネは躊躇いがちに座る。ラグもよいしょと白衣を払って立ち上がり、彼女の向かいに腰を下ろした。

 水色の瞳がおろおろとゆらめいているのに苦笑を零した時、タイミング良く執事が紅茶と菓子を持って現れた。リディも大好きな『シェクロール』の菓子で、見た目からしてとても可愛らしい。わかりやすく眼を輝かせたルネに、ラグはどうぞ、と言った。


「い、頂き…ます」


 銀のフォークを恐る恐る手に取り、小さな口に運んでいくルネを外目に、ラグもまた菓子を口にする。研究の合間の糖分摂取は必須であり至高だ。

しばらく二人とも菓子だけに集中して、やがて紅茶に手が伸びた頃、ラグな切り出した。


「改めて、自己紹介するよ…。僕の名は、ラグ・ルガンナ・シューベルト。リディの幼馴染だよ」

「わ、わたしは、ルネ・フォーレ…狩人協会所属、『ジィ』の魔術士…です」


 慌てて居住まいを正したルネに、ラグはひらひらと手を振る。


「固くならないでよ…あのリディの幼馴染だ…気にする人間じゃあ、ないことぐらい…わかるだろ…?」

「…ちょっとだけ…リディ、から…あなた、との昔話…聞き、ました」

「ふうん…?じゃあ、僕がオルディアン(この国)の最終兵器、ってことも聞いているの…?」

「ちゃんと、は…。でも、ちらりとは…」


 ラグは天を仰ぐ。全く、あの幼馴染は機密を機密と思っていない節がある。自分がその一部であるからかもしれないけれど。


(ただ、まあ…話す相手は、無意識に選んでいる、みたいだけれど…)


「…君も、五属性持ちと…聞いているよ。ただ…」

「は、い…あなた、の、十分の一程しか、魔力…ない、です」


 たどたどしく話すルネに、ラグは眼を細める。


「敬語は要らないよ…同い年でしょう…?それに、僕の考えが正しければ…」


 そこまで言って口をつぐみ、ねえ、とラグは訊ねた。


「君、誕生日はいつ…?」


 ルネの顔に、驚きは翻らなかった。彼女もまた、予期しているのか。

 そうして告げられた月日に、ラグは瞑目する。


「…僕は…君に、謝らなきゃならないのかもしれない。僕の誕生日は、君の誕生日と同じだ」

「そう、…」


 桃色の髪を揺らし、ルネは俯く。その反応に、やはり彼女も薄々気づいていたのだとラグは知る。


「……。僕の、精霊の御手としての…力。アルトゥールから聞いたけれど…歴代の中でも、異常なほど…強いらしいんだ…。そして、生まれた時…それが器に収まり切らなくて…飛び散った、可能性がある、って。君は…恐らく」

「あなたの力の…一部。だから、五属性持ちにしては、魔力…ない」


 呟くように言ったルネに、ラグは頭を下げた。


「すまない。君は…あまり良い境遇でなかったって…それは、僕のせいだ」

「…ううん」


 首を振る。あげられたルネの顔は、穏やかだった。


「わたし、今が好き。ディオ、や…ツェツィー…テディーや、マルセロと、出会えて…世界を、旅できる。大変なこと、も、あるけど…楽しいし…好きなの。だから」


 だから、あなたを恨むことなんて、ない。


 そう言い切ったルネに、ラグは僅か瞑目し、目を開くと同時に苦笑した。


「…君は、強いね」

「これでも、十強、の…狩人、だから」


 淡く微笑むルネは、けれど、彼の幼馴染と同種の、確かな強さを秘めていて。


(ほんとに…類は友を呼ぶ、のかな)


 肩を竦め、ラグは笑った。



 これからきみを、きみたちを――なにが待ち受けようと。

 きみたちが築いてきた絆が、きっと君達を支えるだろう。

 もちろん、僕も。





「はい、これお土産に」

「え、いい…の?」

「うん。ああ、そうだ…代わりに…また、来てよ。今度は…ゆっくり話そう。魔術のこととか」

「う、うん…!喜ん、で!」





(アラアラ…ルネちゃんも運命見つけちゃったのかしラ?)

(くさっ!マルセロくさっ!でもたしかにルネ、感情いつもより豊…って、どしたディオ)

(…のか?いや、まだルネは18…まだ早い…)

(……おーい、)

(ほっときなさい、テディー。全く、親バカなんだから…)

(…そういいつつツェツィー、その手の魔力はなんなのかしラ?)

(あら、オルディアンの国家機密だかなんだか知らないけど、魔術士なら私に勝ってからにしてもらわないと)

(だめだこのバカ親ども!)



なんだかんだ言ってみんな親バカ。

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