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第十二話 導きの涯 (14)

更新が大変遅れて申し訳ありませんでした。

第十二話 導きの涯 (14)








「リディ、俺の援護を!ラグはポイント8まで誘導してくれ!」

「「了解!!」」


 声の合った唱和を横に、ルイスは矢筒から矢を抜き、弓を引き絞る。眼を細め、すっと魔術を付加した。

 竜達が体当たりを繰り返している第二結界が目前に迫る。リディが片手で剣を抜き、ラグが二体の竜に結界を張った。

 その体躯が結界を抜ける瞬間。ルイスの放った矢と、風魔術が付加されたリディの剣から放たれた鎌鼬が、それぞれ別の竜を抉った。


――ギャアアアアアアッ


 悲鳴が轟く。そしてその場にいた竜達が、一斉に彼らを振り返った。それ目掛けて、ヴァイス、ネーヴェが焔を吐く。青い焔は、下位竜を呑み込みその体に深い火傷を負わせていった。

 リディが口笛を吹く。前に見たときより威力が上がっている。


――グオオオオオオッ


 怒りに吠えた竜が、牙を剥き出して襲いかかってくる。その眼を狙い、ルイスは矢を放った。

 上がる絶叫、揺れる大気。追い討ちをかけるように、リディの雷が周囲を走った。


「っと!」


 が、すり抜けた竜によって危なく頭上を掠められ、ラグは慌ててヴァイスに指示した。


「攻撃は僕らがやる。上手く避けながら、ポイント8に向かってくれ…!」


 ヴァイスは応えるように咆哮を上げ、ぐんと下降して竜達の注意を引く。それはネーヴェも同様で、二頭は空中を踊るように旋回しながら少しずつ場所を移動していった。





 その様を呆然と眺めているような愚を、狩人達は犯さなかった。


「装備が整っていない奴はいるか!」

「――『エイドス』いません!」

「――『リテンド』同じくいません!」


 同じような唱和が連鎖し、全員の装備が整っていることを確認して、システィアはアニタとカインズを振り向いた。


「総指揮はお前達に任せる。やれるな?」

「はい」

「お任せを」


 二人の男女も、強張った顔で頷く。システィアは顎を上げ、声を張り上げた。


「総員、アニタ・ベリスとカインズ・ラザフォードの指揮に従え!治療班総指揮はエッラ、お前がやれ」

「わ、私ですか…?わ、わかりました!」


 エッラも穏やかな顔に緊張を浮かべて頷き、集まっている治療班のもとに走っていく。途中でコケたことに不安を感じる程短い付き合いではない。


「『サグラダ』、『イェーデン』、第7ポイントに!魔術士は術前集中を忘れないで!『リテンド』は治療班の盾!第8に最後に直接飛んで!」

「『トリル』『テトラル』は各自個人の裁量で動いてください!必要に応じて攻撃・防御を担うこと!魔術士のガードも忘れずに!他はパーティを崩さず、一頭を相手に戦ってください!二頭を相手にしているパーティがあったら、『トリル』『テトラル』は直ちに誘導!」


 慌ただしく指示が飛ぶ中、アハトは北を睨むシスティアに近づいた。


「システィア。死ぬんじゃねえぞ」


 ぶっきらぼうに放たれた言葉に、システィアは眼だけで振り返って鼻を鳴らす。


「私より自分の心配をすることだな、アハト」

「…かわいくねえ」

「ふん。私に可愛いげなど求めるのはお前くらいだ。…」


 くるりと踵を返し、外に背を向けアハトの横をすり抜けながら、システィアはどんとその胸を叩いた。


「終わったら飲み会だ」


 そのまま片手を上げて去っていく背に、不器用な激励を見出だして、へっとアハトは笑う。


「――上等!」


 そうして彼も、仲間達が待つ転移陣へと駆け寄った。





―――――――――――――――――――――




「ラグ、東に三度修正!」

「了解…!」


 ごぉっ、と焔が吹き抜けていく。それを下降してかわし、ラグは軌道を整える。その背で、リディは一息に雷撃を三つ練り上げると、同時に迫っていた三頭の鼻先目掛けて打ち出した。

 悲鳴と轟音が上がり、嗅覚を潰された竜が後退し空中でもがく。が、致命傷ではもちろんない。


 吠え、こちらに躍りかかろうとしていた新たな一頭の首に、矢が突き立つ。風魔術が付加されたそれは、威力を数段増して竜の鱗を抉った。

 的確な射撃を為したルイスは、鋭く眼を巡らせると、片手で長い手綱を握りながら、新たな一矢をつがえた。


「ルイス、あとどれくらい!?」

「あと一キロ!――いや、もうここで大丈夫だ!」


 間髪入れずに返ってきた答えに、リディは頷いてラグの肩を叩く。直ぐ様幼馴染みの意図を読み取ったラグは、「ヴァイス!」と呼んだ。

 ぐぅっ、と翼を畳めたヴァイスが、一気に急加速して一団を抜け出し、そのまま高所へ舞い上がる。


「ルイス、離れて…!」


 言われるまでもなく、ルイスを乗せたネーヴェも距離を取っていた。


 空恐ろしい程の魔力がリディに集中していく。その指が空を切った。


「フレイア…!」


 そして放たれたのは、白い焔。竜の吐くものの温度すら超えた焔は、彼女の二つ名に相応しく、凄まじく苛烈な勢いで竜の一団を飲み込む。先頭にいた低位竜が黒焦げになって墜落するのを、ラグはギリギリ目にした。


「さすが…」

「炎だけなら負けないよ、私は」


 にっと笑ったリディはしかし、直ぐ様視線を走らせる。業火に耐えきった、もしくは逃れた竜達が、怒りの咆哮を上げて咢を開き迫ってきたのだ。ルイスの声が空を裂く。


「アイシィ、撃て!」


 下方に回り込んでいたネーヴェの背から、鋭い氷の刃が放たれる。膨大な数のそれに、竜達は体のどこかを傷つけられ、個体によっては翼を撃ち抜かれ、苦悶の声が谺した。


「…はっ、はっ…」


 それらを油断なく見ながら、ルイスもリディも荒い息をなんとか宥める。魔力も一気に削られ、残りは多くないだろう。ラグは申し訳なくも思ったが、揺れる竜に騎乗しながら戦うことなど、白兵戦の経験が殆どない彼には不可能だった。

 ネーヴェにしてもヴァイスにしても、空中の交錯の間に、その白い躯に無数の傷をつけている。後先考えず無謀に突っ込む戦法は、長くは続かない。


「まだか…」


 ルイスが奥歯を噛み締める。

 竜の注意を逃さず引きつける為に、付かず離れず飛び回り攻撃し続けることは、予想以上に大変だった。逃げたい気持ちに何度駆られただろうか。


「…逃げるわけには、いかないけどなっ!」


 ネーヴェの手綱を引き、ルイスは飛び出す。手に持った三本の矢を、目にも止まらぬ速さで三連射する。一本は外れたが、二本は同じ竜の個体の腹部に突き刺さった。


「――らぁっ!」


 そして気合い一閃、瞬時に弓から持ち変えた新しい剣を斜めに振るった。その剣が、あまりに自分の手にしっくりくることに驚く間もなく。


――ギャアアアアァアッ!!!


「……え?」


 すぱん、と相対していた竜の前腕が切り落とされていた。それを為したのは状況的に勿論ルイスの剣――『コルブランド』なのだが、あまりの呆気のない手応えにルイスは唖然とした。まるで細枝でも切ったかのような手応えだった。


 竜達の怒りの咆哮でハッと我に返り、慌ててルイスはリディとラグの元に飛んで帰る。二人もやはり、呆気に取られたようにルイスと、『コルブランド』を見つめていた。


「…それ、くれたのが『O.E』…?ルイス」


 ラグの疑問に、ぎこちなくルイスは頷いた。ラグの赤い瞳が思慮深げに染まる。


「ふうん…最高級ミスリルより上の金属、ね…?」


 同時に、爆音が轟いた。はっと振り返れば、迫っていた竜相手にリディが火球をぶつけたところだった。


「研究あと!今こっち!」

「…ごめん…!」


 ラグも慌てて意識を集中し、魔術を放とうとした時だった。


「「「!」」」


 三人全員眼を見開くと、瞬時にその場から離脱する。一瞬後、彼らに襲いかかろうとしていた竜もろとも、彼らがいた場所を焔が呑み込んだ。

 爆煙が立ち込めるのを見下ろし、ルイスは唾を飲む。


「…あっぶね」

「――待たせたな」


 凛とした声と共に、一陣の銀の閃光が走る。一頭の竜の腹を袈裟懸けに裂いたそれは、一気に立ちこめた煙をも切り裂いた。


 晴れたあとに視界に映った光景に、三人は笑みを溢す。


「よく耐えた」


 銀世界に布陣を敷き、武器を構える狩人達。その布陣に隙はなく、人々に油断はない。

 彼らの先頭に立つ一団――『十強』の前線戦闘組の、さらに先頭に立つ女性は、血糊のついた刃を振ってそれを落とし、不敵に唇を持ち上げて言った。


「狩りがいのある獲物だ。――総員、かかれ!」


 ドオッと鬨の声が上がる。後方に守られた魔術士達から多彩な魔術が放たれ、飛び出した剣士達が竜の群れを分断していく。千々に散り始めた個体群を認め、ルイス、リディ、 ラグは雪原にネーヴェとヴァイスを着地させた。そこにアニタが駆け寄ってくる。


「ラグ!」

「どうか…しましたか…?」

「治療班の方へ行ってちょうだい。彼らが倒れたら私達は終わりだわ。貴方の攻撃力は惜しいけれど、守る方に力を割いて頂戴」


 にこりとラグは笑った。いい判断だと思った。


「…わかりました…リディ、ルイス、あとは頼むよ…」

「任せとけ」

「核もあるしね。ラグこそストックは?」

「大丈夫。…ヴァイス、リディに付いていて…」


 主の言葉に、白いピュルマはじっと彼を見上げたあと、ぴょんとリディの肩に飛び乗る。リディはその頭を指先で撫でた。


「よろしく。…ありがと、ラグ」

「ん」

「その子達に関して色々問い詰めたいことはあるけれど、後回しにするわ。ルイス、リディ、あなた達は自分の判断で各所の援護な当たって頂戴。なるべくなら固まらないで」

「了解」

「で、護る方優先ね」


 ひゅ、とリディが剣を振る。ミスリルの刃には細かな傷がついていて、彼女は眉をしかめた。


「どうした?」

「…いや」


 生じた悪い予感を裡にしまいこみ、リディは、ざ、と眼を空へと向ける。飛び交う影、魔術。文字通り命懸けの戦場だ。


(――自分に出来る限り、やるだけだ)


「ルイス」

「――ああ」


 余計な言葉はいらない。二人は軽く手の甲を打ち合わせると、それぞれ別の戦場へと、地を蹴った。


実習が入るといつの間にか二か月を過ぎる恐れがあるのでちょっと短いですけど上げます。

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