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それからの授業は地獄だった。先生が質問を始める度に体が熱く昂ぶった。屈辱で動悸がして切なくなる。もう、早く当てられて楽になりたい、とさえ思った。数日後、その時がきた。
「◯◯です。」美希が小声で、恥ずかしい言葉を口にすると、教室の空気が凍りついた。
「え?」先生が聞き返す。クラス全員が美希に注目していた。
「◯◯です…」涙目になりながら、再び美希が淫らな言葉を漏らすと、不良の一人が笑い始めた。それにつられて教室中が笑いに包まれる。体の力が抜け、膝がガクつく。気が付くと美希は失禁していた。
以降、美希は不登校になった。ノートは手元に戻ってきた。不良の女子の一人が、ノートが美希の母の形見であることを知って、奪い返してくれたのだ。リーダーの名前は削り取られ、卑猥なマークは塗り潰されている。そのページには小さく「ごめんなさい」と書かれ、押し花が貼ってあった。
保健室に登校して出席日数を稼いで、何とか知り合いのいない学校に入学した。彼女の成績からするとレベルが低過ぎる高校ではあったが、平穏に毎日が過ぎていった。おどおどしながら目立たないようにしている美希に興味を示したのが祐樹だった。最初は避けていたが、純真な彼に惹かれるようになり、徐々に美希は心を取り戻したのだった。
美希と祐樹は公園にいる。もう夜になっていた。
「本当にいいの?」祐樹が尋ねる。美希は頷いた。全てを話し、気持ちの整理はついていた。ふと祐樹が口にした提案は、彼女にとっても、何故かしっくりくるものだった。祐樹がライターに火を灯す。美希は緊張に少し喘ぎながら、ゆっくりとノートを近付けた。すっと炎が広がる。辺りが少し明るくなった。心の中に何かが燃え広がっていく。解放感に浸りながら、唇を半ば開いたまま、美希がノートを地面に落とす。チラチラと燃え尽きるノートを恍惚とした表情で眺めながら、彼女が少し身を震わせた。
「ありがとう、お母さん。」うっとりした目に涙を浮かべて、美希が呟いた。