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「美希、お前、悪魔のノート持ち歩いてんだってな。」男子生徒の一人が言った。
「何のこと?」美希がとぼける。形見のノートのことを言っているのだと、すぐに気付いた。美希を嫌う一部の女子達がノートのことを聞きつけ、母の遺品であることを省いて男子達に伝えたのだろう。
「持ち物検査だ、抑えつけろ。」男子達に囲まれた。一人が美希のランドセルに手を伸ばす。走り寄って取り返そうとするが、たちまち床に引き倒された。仰向けで手足を押さえつけられる。男子達の脂の匂いが肌に染みつきそうだった。嫌悪感で吐き気がする。
「これから悪魔祓いをしてやる。」男子の一人が美希の胸元に馬乗りになった。顎に硬い股間が当たる。何か生臭くて嫌な匂いがした。
「見つけたぞ!」ランドセルを漁っていた男子が叫ぶ。床に美希の教科書が散乱している。一人が手にしたノートを高々と掲げた。敗北感が襲ってくる。床に組み伏せられ、大切に隠してきたノートを皆に晒されてしまった。興奮で醜く歪んだ顔をした男子達の手から手へ、ノートが回される。
「なんだ、何も書いてないぞ。どうする?」
「俺達の汚れを擦り付けて、魔力を無くしてしまえ。」
「美希にもしっかり見せてやらないとな。」馬乗りになった男子が立ち上がる。他の生徒達も体勢を変えた。大の字にされた美希の手足に一人ずつ男子が跨っている。その足元に、ノートを手にした男子が立った。
「これから皆でお前のノートを駄目にしてやる。」男子は表紙を開き、口から唾を垂らした。幼稚な男子達の妄想で、美希だけの秘密だったノートが辱められていく。自分自身が汚されるようだ。無知で粗暴な男子達の不潔な股で手足を押さえられ、一番大事にしてきた物を好きにされる。口惜しかった。次の男子はノートをズボンの中に入れた。股間や尻の間に擦り付けているようだ。何も抵抗できない自分が惨めだった。手足に跨った生徒達も交代でノートを汚す。鼻くそを捻じ付ける者、素足で踏みにじる者、汗や脂を拭う者、それぞれが思い思いに一ページずつ荒らしていく。自分の未来が汚辱に塗れていく感じがした。もはや抵抗する気力すら湧かない。美希は男子達に屈伏してしまっていた。
「そろそろトドメだ。」男子がノートを床に投げ捨て、ズボンのチャックを開く。ジョロジョロという音と共に、尿の匂いが漂ってきた。それは美希の方まで流れてきて、生暖かく彼女の手足や背中を濡らした。
「うわ、汚なっ!」男子達が飛び退き、教室から出ていく。美希は仰向けで乱れた服のまま、一人取り残された。そのまましばらく啜り泣いたが、おずおずと立ち上がった。教科書をランドセルに戻し、ノートを拾い上げた。無残な姿だった。母に会わす顔がない。しかしどうしようもなかった。雑巾で軽く拭いてノートを丁寧にしまった後、美希は床を掃除した。屈辱の痕跡を残したくなかったのだ。尿を拭くのには抵抗があったが、既に制服にも染み込んでいる。どこまでも汚れてしまえばいい、と思った。体から尿の匂いを漂わせたまま、美希は教室を後にした。