表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
notebook  作者: 多河透
2/5

2

 古びた封筒の中には、ヨレヨレになった一冊のノートが入っていた。薄汚れた、子供用の学習帳だった。

「開いてもいい?」祐樹が聞く。美希は身を竦めながら小さく頷いた。目に涙を溜めている。震える指で表紙を開く。罫線のない白紙に茶色の染みが付いている。ページを捲ると、所々に子供っぽい落書きが薄く残っている。シンナーか何かで消そうとしたのだろう、紙がボロボロになっていた。ふとノートから顔を上げると、美希がスカートを握り締め、震えている。白くほっそりとした太腿が少し見えた。

 「母の…、形見なの。」美希が唇を開き、振り絞るように話し始める。美希は小学校に入ってすぐに交通事故で母を失った。ノートは母が亡くなる前の日の晩に、美希に買い与えたものだった。

「何を書いてもいいのよ。」母は言った。デザインが可愛かったから買ったのだという。このノートが母からの最期の贈り物となった。美希は大切に使おうと思った。使い道を思い付くまでは、何も書かずにおくつもりだった。彼女はノートをお守り代わりに持ち歩いた。ノートは母が遺してくれた、期待に満ちた美希の未来だ。

 何をしていても母が見守っていてくれる気がした。何を書いても許されるノートのように、美希の未来は自由なのだと思った。母がいなくなった家は寂しかったが、皆が気を使ってくれたし、美希も暗い顔を見せないように頑張った。ノートは心の支えだった。

 小学校の中頃まで、美希は明るく優秀だった。その頃はノートの存在が皆に知られており、級友も彼女の思いを尊重してくれていた。しかし優等生の彼女を嫌う者もいて、「デスノート」だの、死者の呪いがかかっているだのと、ノートのことを悪く言う生徒が出てくるようになった。終いにはノートを隠されたことすらあった。

 美希は周囲にノートの存在を隠すようになった。それにつれ彼女の表情に影が差すようになり、行動も控えめになっていった。初めて決定的な出来事が起きたのは、高学年の話だ。その頃にはノートのことを覚えている生徒は少なくなっていた。しかし何かの拍子にクラスで再びノートのことが噂になり始めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ