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巫女・妖狐2

 いきなり現れた巫女さんは妖怪退治を生業にしている方らしく、凶悪な妖怪である雅さんを祓い、雅さんに憑りつかれ洗脳されているオレを救うためにお札を取り出した。そのお札は強力な力を宿す巫女さんの家宝の品であるらしい。巫女さんはこれから起こることから、あるいは現在受けているだろう雅さんからの悪影響からオレを守るため、オレにお札を貼り付けようとして……お札は燃えカスになった。


 札は塵となりもはや欠片も残っていない。巫女さんは顔面蒼白となり、空を摘まみ震えている指先を見つめている。


「ごめんなさい。オレの体質のせいで……」


 憐れなくらいテンションが下がった巫女さんの泣きそうな瞳が、困惑の色を宿しオレを見つめる。

 罪悪感が凄い。

 巫女さんの向こう側には、残忍な笑みを浮かべた雅さんが見える。

 雅さんの尾が胸部と下半身から離れ、その尾の先を巫女さんとオレに向けた。尾の先に青白い炎が灯る。狐火というやつか。 

 巫女さんは気づく様子が無い。オレは巫女さんを背に隠し、咄嗟に前に出た。

 放たれた狐火がオレの目の前で霧散する。異変への抵抗力、オレの体質は有効のようだ。良かった。火傷するのも覚悟でやったけど、何事も無くて。


 人に危害を加えないで欲しいという願いと約束は速攻で破棄された。哀しい……。


「雅さん……。残念です。オレは本当に、あなたに協力するつもりだった」


「と、東堂様……! ち、違います! 違うのです! どうぞ誤解なされませぬよう!」


「どう誤解するところが―――」


「洗脳が解けてる……? まさか、燃え散ることで最後の役割を果たした……?」


 ごめん。巫女さん、それ違うと思う。ちょっと黙ってて欲しい。

 だけど巫女さんは大きな独り言を続けた。

 

「何が起きたのか一切分からなかった……」


 オレも分かってないから大丈夫。


「わたしたちの神通力とは違う系統の術……。そして妖狐の術を打ち消すほどの力……! それに、東堂……? あなたはまさか……っ!?」


 なんか考察してくれているけど……何か知ってるのか?


「伝説の、仏閣生まれのTさん!?」


「いや、違いますね。確かにTではありますけ」


「聞いたことも見たこともない力! まさに神仏の加護! やはりあなたは仏閣生まれの……!!」


「いえ、違いますね。ちょっと今はその話は置いて貰って。雅さん、今の」


「東堂様! どうかお聞きくださいまし!」


「しかしそれほどのお力をお持ちであれば洗脳など……ましてやお祓いなど不要。一体何者!?」


「あの、ちょ」


「東堂様! 東堂様! どうか私の言葉に耳を傾けてくださいますよう……っ!」


「まさか狐を使役している!? 社の結界が破れているのはあなたが」


「聞いて。聞いて」


「先の炎は幻術でございます! 特段人を害するものでは」


「父の言っていた異変とはまさか」


「おい、聞けよ。聞け」


 哀しいかな。

 オレが凄んだところで別にとんでもない突風が吹いたり重力が強まったり不思議な威圧感が出るわけでもない。

 こういうときはお手上げだ。


 オレは二人から距離を取り、雅さんが起きるまでの間腰かけていた木の根に再び腰を下ろした。

 幹に背を預け、じっと空を見上げる。

 まだ何やら言っているようなので、携帯を取り出していじる。


「東堂様?」


「東堂さん?」


 オレの行動にようやく二人のマシンガントークが止まった。

 不思議そうにオレを見ている二人に言う。


「ああ、二人が落ち着くまでのんびりしようかと。それで……どうでしょう? 話は聞いていただけそうですか?」


「あ、はい……。すみませんでした……」


 巫女さんは恥ずかしそうに俯いた。自分の暴走を省みているようだ。そしてオレの態度から、巫女さんは自分が何かしらの誤解をしており、現状に危機的なものはないということも察したみたいだ。オレとしても巫女さんを責めるつもりはない。言動から察するに、誤解はあれどオレを助けに来てくれたようだから。

 雅さんは土下座する勢いで頭を下げ……というかオレの前で土下座をした。ケツの位置が妙に高いのが気になる。


「東堂様……。申し訳ございませぬ……。どのような罰であろうと受け入れる所存でございます」


 ケツが震えている。ここからは見えないが、尻尾が割れ目をうまく隠しているようだ。巫女さんが雅さんの行動に凄く困惑しているようだが、そっち系で引いている感じはしない。


「とりあえず雅さんの話を聞きます。ただその前に……、巫女さん。名前を教えて貰ってもいいですか? オレは東堂雷留です。東と本堂の堂に、雷を留めると書きます」


 温和に微笑むと、巫女さんはますます恥ずかしそうな表情を強める。

 そしてぺこりと頭を下げてこう言った。


「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした! また、ご丁寧にありがとうございます。わたしは涼音(すずね)と申します。鈴院(りんいん)涼音です。風鈴の(すず)に病院の院で鈴院。りんりんって呼ばれることもありますけど、涼音のすずは涼しいのすずでして苗字の鈴とは違うんです」


「なるほど。こちらこそご丁寧にありがとうございます。綺麗な響きの名前だと思います。涼音さんも混乱しているとは思いますが、まずはオレ達の事情を聞いていただけますか? 妖怪退治を生業にされているとのことですが、このように、こちらの雅さんは今のところは……」


 ……。

 言うほど無害か?

 さっきおもくそ人に危害を加えようとしていたけど。

 でもそこをほじくり返すと話が進まないから今はそう言っておく。

 

「無害なので、ひとまず矛を収めて頂いて」


「……」


 涼音さんは全裸でぷるぷる震えている雅さんとオレを見比べて逡巡しているようだ。雅さんの露骨な震えは多分演技だけど、涼音さんから見たらそうは思わないだろう。どうだろうな。やっぱり妖怪を使役する正体不明の男、みたいに見えてるのかな。


 あっ……。

 涼音さんがまた指先を哀しげに凝視している。

 それはオレの罪悪感をバチクソに掻き立てるから止めて貰って。


「分かりました。わたしも家宝をう、う、う、うし、失った理由を……知る必要がありますから。聞きましょう……。ただし、話の途中、少しでもこの妖狐が妙な動きをすれば問答無用で祓います。いいですね?」


 めちゃくちゃダメージ受けてるやん。

 そんな大事なものだったのか……。

 まあ、家宝だもんな。

 不可抗力の極みみたいなものだけど申し訳ない……。

 オレに対して土下座したままの雅さんが唸るようにこう言った。


「矮小な生娘如きが儂を……」


「貴様にとってわたしが矮小な存在であることが事実でも、わたしは命を賭して貴様を祓う覚悟がある」


「雅さん。それ以上はオレも擁護できません。さっきの話を思い出してください。オレは今、あなたの側に立つか涼音さんの側に立つか悩んでいます」


 雅さんを窘めたあと、涼音さんに視線を向ける。


「涼音さんも、お願いですので雅さんを刺激する言動は避けて頂けませんか? あなたにも事情があることは理解しています。

 妖怪退治を生業にされているということですから、雅さんを強く敵視し警戒するだけの理由を、あなたはきっとお持ちなんでしょう。普通の大学生であるオレが知る由もないような、妖怪の非道な行いを……これまでに何度も目の当たりにしてきたのかもしれません。

 ですが、彼女はオレの知人なんです。知人をそのように言われてしまえば、オレも黙ってはいられません。勿論先程あなたがおっしゃったように、オレが彼女に騙されているという可能性も考慮していますが……お願いです。一度、フラットに話をしてはもらえませんか?」 


「……。分かりました。良いでしょう。確かに、あなたは狐に支配されているようには見えません。……非礼をお詫びします」


 ぺこり、と涼音さんが礼儀正しくオレに頭を下げた。

 そして全裸土下座をしたままの雅さんの背中に視線を向ける。


「この妖怪に対しては、すべての話を終えた後、必要であればそうします。それでよろしいですか? 東堂さん」


「はい。聞き入れて頂いてありがとうございます。本当に……」


 なんか、涼音さんが割とすんなり受け入れてくれたので感動してしまった。最近会った人達の中では田辺に次いで大人だ。

 なんでだろうな……。 

 

「ふう……。では、まず雅さん。どうぞ」


「ありがたき幸せ……。あなた様に突き放されては、私は生きてはいけませぬ……。東堂様。先の炎は幻術でございます。特段、人に害を為すものではなく……。少し、そこな小娘をからかってやろうと。多少の痛みはあれど、傷はつきませぬ。まことにございます。私は東堂様からの御申しつけを違える気など毛頭ございませぬ」


「なるほど……。確かに、いきなり悪い狐扱いをされたわけですから、少し驚かすくらいの憂さ晴らしは理解できます」


 それはそれでやっぱり価値観が違うなとは思うけど。

 

「では涼音さん。どうですか? さっきの炎は幻とのことですが、実際そうでしたか?」


「いえ……」


「小娘、謀りを……!」


「雅さん抑えて。涼音さん、どうぞ」


「お恥ずかしい話ですが、分からない、というのが正直なところです。一瞬でしたし……」


 口をつぐんでしまった涼音さんは、その先を言いたく無さそうだ。


「どうやらこの狐はわたしよりも……」


 どうだろう。雅さん、魔人ってのにぼろ雑巾みたいにされてたからな……。強さの基準が無いから何とも言えない。でも格上相手にオレを守ろうとしてくれてたのか。良い人だ……。

 雅さんが強いのか、この巫女さんがその道の人としては控えめなのかは分からないけど。

 

「東堂さん。あなたは何者ですか? 普通の大学生って言ってましたけど、そうは思えません。それに、先ほど体質とおっしゃっていましたけど……」


「それは」


「やはり仏閣生まれ、神仏の加護を受けた……!」


「いえ、違います。そう思われるのは、さっきの炎を掻き消したことが理由ですよね? だとすれば説明します。オレは『異変に対してかなり強力な抵抗力』のようなものを持っています。体質ですね。この体質は魔法や化け物からの干渉を無効化し、ときには相手を爆散させます。が、技術ではないので能動的に使用することはできません。そして神仏の加護を受けたという認識もありません」


「体質……?」


「はい」


「それに、魔法……? 霊能力ではなく?」


「……。涼音さん。世の中には、思いもよらないことがたくさんあるんですよ」


 なんか、涼音さんの反応が新鮮で嬉しくなる。


「そして、オレはちょっと特殊な体質と重めの過去を持っているだけで、普通の大学生です」


「それは普通とは言いませんよ」


「いえ、オレは別に起業をしていたり、会社に勤めながら通っていたりするわけでもありませんので。大学生という括りの中では、特筆すべきものもありません。空を飛べたりとかも出来ませんし、魔法を使えたりするわけでもありません。普通に授業を受けて普通に生活をしています」


「東堂さんは……普通ということになにかこだわりが……?」


「こだわりというか、本当にこれといったとりえもない普通の大学生なので……」


「……」


「?」


 雅さんは静かに土下座をしたままだ。

 涼音さんは小首を傾げいてる。


「小娘。東堂様が普通だとおっしゃるなら普通じゃ。口を挟むな」


 それを聞き、涼音さんの目が鋭く細まる。


「なるほど。そういうことでしたか」


「そういうことってどういうことでしょう?」


「東堂さんの体質が本当であっても、一定の干渉は受けている、ということです。狐の都合のいいように認識を弄られている」


「な、馬鹿なことを! 東堂様は最初から……! 貴様、余計なことを申すな! 濡れ衣じゃ! 誤解なされたらどうする!?」 


 土下座スタイルから僅かに頭をあげた雅さんが涼音さんを睨みつける。


「この慌てよう……。やはりそういうことですね!」


「く、この猪眼鏡!! 東堂様! 私は誓ってあなた様にはなにも!」


「二人とも、落ち着いてください。涼音さん。どういうことですか?」


「東堂様! お考え直しくださいませ! この小娘の話など……っ!」


「雅さん、少し静かにして貰ってもいいですか? ちゃんと話は聞きますから。涼音さん、お願いします」


「く……っ! 東堂様……!」


「良いでしょう!」


 涼音さんがくい、と眼鏡をあげる。


「わたしの考えはこうです! 東堂さん、あなたは狐の精神干渉を受けています! 何故なら、東堂さんが本当に普通の大学生なら、こんな状況で、そんなに冷静ではいられないからです! 昔、わたしの普通のクラスメイトが妖怪に襲われたときはもっとパニックになっていました! あなたは狐に自分は普通だと思わされているのです! 恐らくはその方が御しやすいからでしょう!」  


 雅さんに会う前からオレの認識はそれほど変わって無い。異変に対する向き合い方は変化したが、それは雅さんには全く関係のない、信乃ちゃんや律ちゃんとの一件があったからだ。そもそも雅さんと会うのは久しぶりなうえに二度目だし。雅さんもそんな素振りは見せなかった。


「オレは雅さんから特に何もされてません。根拠は……雅さんの要望を全部断っているからですね。涼音さんの話では、妖狐は男を虜にし操り人形するようですが、特にそういうことはありません」


「ですから、部分的な干渉と言っています。きっとその体質があるからこそ、気づけないんです。東堂さん、目を覚ましてください!」


 なんだこの女は。

 いや、オレを案じてくれてるのは分かる。思い込みは強そうだけど、それだけ妖怪に対しての警戒心が強いんだろう。そしてオレを助けようとしてくれている。


 無下にはせず、一度考えてみようか。

 とはいえ、オレは別に他人に「オレは普通だ」と主張して無理やり認めさせるつもりはない。周りがオレをどう思うかは自由だし、直接「お前は普通じゃない」って侮辱的に言ってこないなら別に。


「涼音さんがオレを案じてくれていることは分かりました。ありがとうございます。ですが……雅さんからの干渉、ということは無いと思ってます」


「ですからそれが!」


「違うんですよ。オレ、もともとこういう……マイペースな人間ですし、雅さんと会ったのは今日が二度目、しかも一か月以上も開いてます。それとも、その妖怪というのは、そんな短時間で人の認識を歪められるものなんですか? だとしたらオレの根拠は揺らぐかと思いますけど……」


「そ、そうでしたか……。それは、確かに……」


 さすがに妖怪でもそういうことは出来ないらしい。


「イノシシが。思い込みで儂をわるう言いおって。恥を知れ恥を」


 雅さんが小声で言っている。


「では東堂さんはその、普段からご自分のことを普通だと……?」


 涼音さんが困惑したような表情を浮かべている。


「そうですね。普通だと思ってます」


「おっしゃる通りでございます。東堂様は普通の殿方。何も思い悩むとはございませぬ。私は……ありのままの東堂様を、お慕い申し上げております……」


「狐、そうやって人の心の隙を……! 貴様こそ恥を知れ!」


 涼音さんが雅さんに厳しい声を叩きつけると、優しい表情でオレを見る。

 そして穏やかに語り掛けて来た。


「東堂さん。わたしも同じです。幼い頃は自分は普通か否か、そんな疑問を抱き、悩みました。生まれ持った特異な才は人を孤立させるものです。自分には見えないものが見える。自分には感じられないものを感じられる。それだけで人は人を排し、孤立させます。わたしのこの容姿も、自分を偽り普通に溶け込むためのモノ……伊達眼鏡です」


 涼音さんは何かを憂うように、哀し気な表情で眼鏡の縁に触れている。眼鏡自体は気に入ってそう。


「涼音さん……」


 なんか急に重い話になったな。

 だけどその髪型と小物、レトロ過ぎて逆に浮いてると思う……。


 でも、そっかぁ……。

 涼音さんも苦労して来たんだなぁ。


 眼鏡と髪型で自分を普通に溶け込ませようとしている涼音さんと、かつて自分のアイデンティティを捻じ曲げて普通に潜り込もうとしたオレ。

 確かに、今の話だけでも共感するところがあって、一気に親近感が湧いて来る。


「東堂さん……」


 涼音さんが悲し気に目を細め、慈しむように微笑んだ。


「もし、わたしが自分を普通の大学生と言ったら、あなたはそれを受け入れてくれますか? 霊能力を持ち、妖怪を認識し、戦う力を持つわたしを」


「それは……」


「そういうことです。霊能力を持つわたしと、まるで神仏に愛されているかの如く不思議な体質を持つあなた。似て非なる存在ではありますが、しかし普通ではないという最も大きな事実は確実に通じ合っています。そんなわたしたちですが今、遂に巡り合った。わたしたちは孤独ではないのです!」


 ふ、と涼音さんが微笑んだ。


 なんて人だ……。


 さすがは神職、巫女さん。

 渾身の演技を見せていた雅さんより、余程オレの琴線にクリティカルヒットしている。光の陽キャ……。まずい、語彙が……。

 しかも色んな意味で『本物』。

 思わず、吐露していた。


「涼音さん……。実はですね。オレ、前世の記憶があるんです」


「現世と幽世は表裏一体。そういうこともあるでしょう。わたしと同じような年頃でしょうに落ち着かれているので、むしろ納得です」


 なん、だと……?

 

「では、オレは転生者である、と?」 


「それはわたしには分かりません。ただ、あなたがそう思うのなら、それで良いのでは? 特殊な生まれや特異な自己認識は必ずしも社会に認められるとは限りませんが、重要なのはどのように生きるかだと思います」


 くい、と指先で伊達メガネを持ち上げる優等生然とした涼音さんに、オレは輝きを見た。

 強い。


 祓われる……!


「涼音さんは過去にそのことでいじめられたり、苦しい思いをされたことは?」


「もちろんあります。東堂さんも同じでは?」


「そうですね。いじめとは違いますが、苦しい思いはしたことがあります」


「そうでしょうとも」


 わたしも同じです、と言わんばかりに涼音さんは頷き、続けた。


「母はわたしが幼いころに亡くなりましたが、わたしには父という理解者が居ました。妖怪退治という生業、家業を選んだことは、父に誇れる自分で在りたかったからです。ちなみに、東堂さんは……? ご家族はご事情を?」


「いえ、東堂の家族は皆、オレも巻き込まれた事故で亡くなっています。前世の記憶はその際に」


「お気の毒です……」


 涼音さんが悼むように目を伏せる。

 雅さんは明らかに変わり始めている流れを察し、オレと涼音さんを戸惑ったように交互に見ている。なんか蚊帳の外で可哀そうだなと思わないでもないけど、今は静かにしていてもらえるとありがたい。

 オレは続けた。


「妖怪退治というあなたの家業は、人の生活を守る気高い生業だと思います。しかしそれは回り回ってあなたを苛めた人を守ることに繋がるかもしれません。そこに葛藤はありませんでしたか?」


「ありました」


 即答。頷いた。


「当時のことは今でも覚えていますし、恨んでいないわけでもありません。今、偶然にも再会するようなことがあれば、多少の仕返しはするでしょう。当時もしましたけど。ですが先ほどもお伝えしたように、わたしは父や亡くなった母と……妹に誇れるわたしでありたかった」


 涼音さんが小さく笑う。


 仕返しはしたのか……。

 どんなことをしたんだろう。

 さらっと凄いこと言うなこの人。うーん、強い人だ。

 

「オレもそうです。オレには理解者は居ませんでしたが、だからこそ『かつて求めた理解者』にオレ自身が成りたいと考えています」


「素晴らしいお考えです。わたしはあなたを応援します! よければ……お、お友達になりませんか? 良ければ……」


「勿論です。よろしくお願いします、涼音さん。オレもあなたを尊敬し、応援します」


「よろしくお願いします!」


 涼音さんが嬉しそうに手を差し出して来た。

 それ以上の言葉はいらい。オレもそう感じた。

 オレは涼音さんの柔らかい手を握り返す。


 雅さんが目をガン開きした呆けた表情でオレ達を見つめているのが横目に映る。


「あ……」


 オレは思った。


 ―――お父さんのこと、どう説明しよう。

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