ヤンキー?7/魔法少女3
記憶の混濁により少しパニックになっている様子の信乃ちゃんを伴い、宥めつつ帰宅したオレはリビングのソファに信乃ちゃんを座らせ、飲み物を提供し、向かいに座った。
信乃ちゃんはソワソワとした様子でオレ……というか、オレの隣の空席を見つめている。来たいのかな?
「信乃ちゃん、大丈夫?」
「えっ、あー……。わかんねぇ……」
「頭痛とか吐き気とかはある?」
「いや、そういうのはねぇけど……」
信乃ちゃんは町内会の集まりから退出した後の記憶が無いようだ。信乃ちゃんの感覚だと、気づいたら東堂家の前に立っていたということになる。記憶の混濁によるパニックはオレも経験があるので、心中は察するところだ。
しかし……。今回の件で確信したが、世の中に何か、不思議なことは確実に存在するようだ。さすがに信乃ちゃんがオレを担いでいるとは思いたくない。葵さんとグルになってオレを担ぐ理由もないだろう。認めざるを得ない。正直なところかなり複雑な心境だ。どうせならもっとなにか劇的なイベントを経て、感動と共に世界の真実に辿り着きたかった。しかしオレが今まで必死に「無い」ものとして、諦念と共に受け入れ忘れ去ろうとした「異変」は、なんてことの無い日常の中で、電信柱に張られたいかがわしい広告を見つけるようなノリでオレのもとに現れた。
せめて信乃ちゃんの「未来予知」の話を聞いて、その結果、みたいな感じでも良かったと思うんだけど。いくらなんでも軽すぎんか?
世の中そんなもんか。
一方でそんな達観した考えもある。人生の変化、岐路なんて突然やって来る。東堂家を襲った事故も、亡くなった東堂家の人間や運転手にとっては直前まで全く信ぴょう性の無いイベント、アクシデントだったはずだ。宝くじに当たる、交通事故に遭う、異能の存在を知る、似たようなものだろう。直前までは在り得ないと考えていて、でももしかしたらと、可能性を否定しきれないもの。
ぐちぐちと考えても仕方ないが、オレのこれまでの日々は一体何だったのか。本当に複雑な心境だ。喜びはある。オレは「真実」を語っていた。それはオレにとって、とても喜ばしい事実だ。
習慣的に一般常識の中に在ろうとしていた後遺症のせいか、まだ心のどこかで『真実」を信じ切れていないというか信じたくないというか、理性が混乱しているのは感じているが……。例えるならば犬だと思って飼ってたペットが熊だったくらいの混乱か……。恐怖と言ってもいいかもしれない。オレが必死に守ろうとしてきた普通・常識が崩れ落ちる恐怖。
だがオレはそれを受け入れなければならないし、乗り越えなければならない。それも、今、ここで、今すぐに、だ。
オレは今混乱しているし、前述のように恐怖心に似た感情すらも抱いている。だが、一番混乱しているのはオレではない。信乃ちゃんだ。記憶の連続性を保っているオレと違い、彼女は今、明らかに記憶障害を起こしている。しかも、恐らくは人為的に。
今オレが信乃ちゃんに「気のせいだよ」とか、「疲れてるんだよ」だとか、そんな誤魔化しを入れて、有耶無耶にすることは簡単だ。信乃ちゃんはきっとオレがそう言えば、半信半疑ながらもそういうものだとして受け入れようとするだろう。
それは、かつてのオレのように。
彼女はきっと、魚の骨が喉元に刺さっているかのような違和感と疑心を抱いたまま、これからの日々を過ごすことになる。オレの時のように深刻なものではないし、月日と共に忘れていくような些細なことかもしれない。だけどそれをオレがやってしまったら、オレはオレを許容できない。素直でいるというオレの在り方にも、オレの在りたい大人の姿にも反してしまう。先ほど信乃ちゃんに言ったような、「なりたくない自分」の『ヴィジョン』がそこにある。
有耶無耶にすることが正しいというか、それが大人の配慮だと言う考え方もあるだろう。オレがオレのポリシーを守るために信乃ちゃんを犠牲にしようとしているという考え方も出来る。今ここでのオレの選択によって、何かが大きく変化する可能性だって十分にある。
何が正しいかなんてオレには分からない。ここで黙って恐怖に背を向けるか、足元を崩しながら現れた真実っぽいものに向き合おうとするか。
信乃ちゃんに迷惑を掛けることになるかもしれないと思うと気が引けるが、ここで有耶無耶にすることを選べば、オレはこれから先ずっと歪みを抱えたまま生きることになるだろう。きっと、逃げ癖が付く。
本当に大きな選択と言うのは、突然やって来る。
「ふっ……」
オレは小さく笑った。
腹が決まったからだ。
オレは信乃ちゃんに感謝しなければならないだろう。
この子のおかげでオレは今、「大人」でありたいと強く思えている。「これまでの自分」に怯む己を乗り越えるだけの力を貰えている。
奇妙な出会いで、まだ短い付き合いだが、なんともまあ、得難い奇縁じゃあないか。きっとオレとこの子の付き合いは長いものになる。そんな予感を抱いた。
そうなると気になるのは、何故信乃ちゃんだけに記憶障害が生じているのか、という点だ。思えば、気になることはあった。あの刀を持った女子高生の発言や、瞳の色が変色する明日香さんやその関係者の振る舞いに、茶々ちゃんたちの言動。雅さんは……どうだろう。あの人なんかPONな匂いがしたけど……。でもなんかクナイ突きつけて来た時に変なこと言ってたしな……。あの世紀末的な大事故の連発もそうだけど、ちょっと情報過多で頭がつかないな。
ただ一つ共通していそうなのは、どうやらオレはその辺の影響を受けていないということだ。何かに守られているのか、オレ自身がそういう能力者なのかは分からないけど。
「とりあえず、記憶障害以外の異常はないってことでいいのかな?」
「うーん、たぶんそうかな」
「一応、病院行く?」
「いや、良いよ……ほけんしょとか持ってねーし」
「それはそれで結構問題だよねぇ……」
ホントにな。明らかに問題が多すぎんだよ。日常的なモノも非日常的なモノも。
信乃ちゃんも落ち着いて来たようなので、本題に入る。
「信乃ちゃん。どうやらオレ達は何か……裏の世界に関わってしまったようなんだ」
「……そりゃ、まあ」
信乃ちゃんが「え、今更?」みたいな顔でオレを見ている。
だがオレの言う裏っていうのはちょっと意味が違う。
「あ。ヤクザとか半グレとかそう言う意味の裏じゃなくて、魔法とか超能力とかそういうののこと」
家を出る前にも似たような話をしたし、信乃ちゃん自身が「未来予知」の力を持っていることらしいことから、やはり「今更?」といった様子で、怪訝な表情である。
「……そりゃ、まあ」
オレが何を言わんとしているのか測りかねているのか、探る様に言った信乃ちゃんだったが……。
「はッ!?」
信乃ちゃんは弾かれたようにオレを見て、食い気味にこう続けた。
「ラ、ライルさんやっぱそういう……っ!?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけども……。ごめん」
神妙に話し始めたオレの様子から、信乃ちゃんはオレが魔法使いとかそういう存在だと勘違いしたようだ。でもオレ自身にこれといった分かりやすい何かがあるわけではないので、否定する。誤解させてしまったことは、小さく手を上げて謝罪した。
すると、信乃ちゃんは恥ずかしそうに俯いてしまった。小さく「あぅ……」と呟きながら。
それが可愛らしくて笑ってしまったオレに、信乃ちゃんは
「な、なんだよっ!」
と、頬を染めた涙目で可愛らしく睨みつけて来る。
「本当にごめん。可愛くて」
「ぐっ! う゛ー……っ!」
唸り声まで上げ始めたところを見るに、信乃ちゃんは余程恥ずかしいらしい。
オレは信乃ちゃんから有難くも好意を向けて貰えているなーという自覚はある。だからこそ信乃ちゃんが、さっきの葵さんに向けたような態度をオレに取ることが出来ない、ないし取りたくないと思ってくれているだろうことも。
可愛らしいがあまり意地悪するのも酷い話だと思い、ここまでで切り替えて話を始めることにする。
「とりあえず信乃ちゃんの未来予知の話は置いておくとして、オレの知ることと考えを伝えるよ。さっきオレ達は集会を終えて、この家の近くに金髪の女性が立っているのを目撃した。そして、葵と名乗った金髪の女性から話を聞いていたんだけど、その話の途中に彼女の体……正確には胸のブローチの宝石が急に発光してね。気づいたら葵さんはいなくなっていて、信乃ちゃんは葵さんに関する記憶を失っていた。これはオレの予想でしかないんだけど、彼女は何か……」
そこまで言って、先を続けようとしたオレの中に戸惑いと羞恥心が湧き上がって来た。いい年した大人がその言葉を口にすることへの抵抗を強く感じるが、オレはそれを呑み込んで強く続けた。
「魔法とか超能力とか、そういう不思議な力を持っているんだと思う」
言った。言い切った。
清水の舞台から飛び降りるような気持ちだったが、やり遂げた。達成感が凄い。一皮むけたというか、自身の成長を感じる。
「えぇ……? ウソ、マジで!?」
なんで信乃ちゃんがそんな反応なんだよとは思うが、信じていないわけでは無いらしい。どこか喜びのようなものを感じるのは、同類を発見したかもしれないからか。
だが、徐々に信乃ちゃんの雰囲気が剣呑なものに変わっていった。目力が凄い。
「なぁ、ライルさん。それってさぁ……? その女があたしの記憶、消したって……こと?」
怒ってんなぁ。
しかも結構ガチ目な奴。
記憶操作なんて有り得ない真似をされたら、人はまず恐怖とか嫌悪感とかを抱くモノだと思っていたが、信乃ちゃんはどうやらそうではないらしい。
しかしそうだな。記憶の人為的な操作なんて普通なら在り得ない現象で、本来なら考慮する必要もないことだけど、それが速やかに実現できて、しかも自分が被害を受けたとなれば話も変わる。確かに恐ろしいことではあるが、それは同時に人の尊厳を踏みにじる行為でもある。怒るというのも当然の反応の一つだろう。
オレは感心し、
「おぉ……」
と思わず感嘆の言葉を口にした。
「……?」
困惑している信乃ちゃんへ、オレは続ける。
「信乃ちゃん。オレは今、君の強さに尊敬の念を抱いている。怯んだっておかしくないのに……そこで引かなかったのは、間違いなく強さだ」
弱点と長所は表裏一体とはよく言ったものである。
攻撃的という弱点が、今は彼女の精神を強く支える長所に転じている。
「カッコイイよ信乃ちゃん。ホントに」
オレの言葉を聞いて、少しの間ぽかんとしていた信乃ちゃんだったが、その顔は急激に茹でダコのように赤く染まった。
「あぅ……」
弱弱しく呟いた信乃ちゃんは目の前のコップを手に取り、ずずず、と水を飲む。分かりやすく照れ隠しな感じで、コップで顔を隠しながら。
水分を取って少し落ち着いたのか、コップから顔を放し、信乃ちゃんは言った。
「つ、つまりさ。そいつがあたしの記憶を消したわけだろ?」
話が戻った。分かりやすいやり直しだ。どうやらさっきのやり取りは無かったことにしたいらしい。
オレは信乃ちゃんの意を汲んで頷いた。
「そうだね。そして、葵さんは恐らく、オレの記憶も消そうとしたはずだ。だけど、オレの記憶は消えてない」
「そう! それ!」
信乃ちゃんが前のめりに言った。
「ライルさんなんで!? もしかしてライルさんだけ視れないのと関係あんのか!?」
なるほど。口ぶりからすると、信乃ちゃんの未来予知能力で知る未来では、オレは存在しないらしい。テーブルに乗り上がりそうな信乃ちゃんをやんわりと手で制す。
「それは分からないけど、似たようなことに心当たりがあってね。総評すると……どうやらオレは、そういうのに影響を受けないみたいだ」
「すげぇ……! なんかすごくねそれ!? やっぱライルさんすげえよ! あたしぁライルさんは普通の優男じゃねぇって思ってたんだよ! そうだよなあ! やっぱライルさんはすげーんだなぁ!!」
語彙力……。
信乃ちゃんは何故か我がことのように喜んでいる。テンションが上がっている信乃ちゃんを見ていると微笑ましい。その普通じゃないって言い方にはちょっと思うところがあるけども。
信乃ちゃんは一通りはしゃいで落ち着いて来たのか、にこにこと信乃ちゃんを見ているオレに気づいたようで、恥ずかしそうに座り直した。のぼせたような様子で、信乃ちゃんは言った。
「いや、なんか……すげーな。一日ですげーことがいっぱいだ。あたし、頭パンクしそう」
オレは思った。
―――いや、それオレのセリフ。多分オレ信乃ちゃんの倍以上やべぇこと一日で経験してっから。
オレの内心に気づかず、というか気づかせないようにしているんだが、信乃ちゃんはほう、とため息を一つ吐き、続けた。
「で、どうすんだ? その葵って女への返し」
考え方がもう生粋のアウトローというかなんというか……。
「返しって言うのは……報復って意味だよね? 止めておいた方が良いと思う」
「……なんで?」
やる気満々だった信乃ちゃんはオレの返答を聞いて一転、気勢を削がれたといった様子でオレを見つめている。
オレは言葉を選びつつ、考えを伝えた。
「確かにまるで実害の無いオレはともかく、信乃ちゃんは実際に記憶を失うという実害が出ている。報復する理由は充分だと思う。怒る理由だって尤もだ。だけど今のところ、信乃ちゃんはあの短時間の記憶しか失っていないし、他に実害は見られない。触らぬ神に祟りなしとも言う。彼女は明らかにオレ達とは住む世界が違う、未知の存在だ。能動的に関わって行くべきじゃない。はっきり言って……危険だ」
「……やられっぱなしでいろってのかよ」
「そうとも言えるかもしれない。納得できないってのも分かるよ。力、理不尽に屈することは誰にとっても決して愉快なことじゃない。それはそうだ。だけど、考えてみて欲しいんだ。本当に一瞬だった。花火が開くくらいの一瞬の間に、葵という女性は、人一人の記憶を改ざんしてみせた。それ以上のことが出来ないという保証はない。もしかしたら、次はもっと大きな被害を被るかもしれない。もしここ一か月くらいの記憶を消されたら? 信乃ちゃんは自分が追われているということすら忘れて実家に帰り、半グレたちにわけも分からないまま捕まるかもしれない。もしもすべての記憶を消されたら? 自分の名前すら失ったらどうするの?」
「……。そんな未来は……視えねぇよ」
「……」
困ったな。
それを言われるとどうしようもない。
信乃ちゃんの未来予知の詳細を知らない。どのような形で、どのような内容を視られるのか、信乃ちゃんの口から聞くことでしか知り得ないオレには。
だから結局のところ、オレは自分の気持ちを素直に伝える以外に出来ることはない。そこはずっと、誰に対しても変わらないオレのスタンスだ。
「君のことが心配なんだ。これ以上、君に傷ついてほしくない。短い付き合いだけど、オレ達、結構仲良くなれたと思ってる。だから辛いんだ。君が傷つけられるのも、オレのことを忘れてしまうのも」
だからオレはオレの都合を伝え、頼むしかない。
何を言おうとも、根っこのところでは人が人の行動を左右することは出来ないし、してはならない。
自らの行動を決定するのはあくまで本人の意思で在るべきだと、オレ自身が強く思うからだ。東堂家を出る前に信乃ちゃんに伝えた様に。
何が正しいかなんてのも含めて、価値観は本当に人それぞれだから、信乃ちゃんがオレの願いを振り切っていくなら、オレはそれを受け入れるしかない。
「……」
「……」
そうして、長い沈黙の末、信乃ちゃんはぽつりと、拗ねるように呟いた。
「分かったよ……」
そう言った信乃ちゃんの顔は真っ赤に染まっていた。オレを見て、今度は大きく叫ぶように言った。
「分かったよ! 分かった分かった!! 分かった分かった分かった分かった!! 分かりましたー!!」
さらに「分かった」と連呼する信乃ちゃんの顔は本当に真っ赤っかだ。オレと目を合わせようとすらせず、首をぶんぶんと上向きで左右に振っている。
凄い取り乱し様だが、ともかくオレはほっと息を吐く。
「ありがとう、信乃ちゃん」
安堵から零れた笑みがオレの顔に浮かぶ。
分かった連呼を中断した信乃ちゃんはちらりとオレを見て、かと思えばくしゃりと表情を歪めた。
ぐい、と信乃ちゃんがさらに上を向く。首を痛めそうだ。
「信乃ちゃん……?」
上を向いたまま固まった信乃ちゃんのことが心配になったオレは、立ち上がってテーブルを回り傍に近寄った。
信乃ちゃんはオレに顔を見せようとせず、体ごと反対を向いてしまった。今度は顔を下にして。信乃ちゃんの顔を覗き込もうとすると、さらにそっぽを向いてしまう。
信乃ちゃんの体が小刻みに揺れている。しゃっくりをしているようだ。
「信乃ちゃん……? 大丈夫? もしかして、やっぱり何か体の調子が……?」
今になって記憶を消されたことへの後遺症か何かが生じて来たのだとすれば話が変わる。すぐにでも葵という女を探し出す必要があるだろう。そう思い、確認を取ろうと信乃ちゃんの手を掴むと、弾かれた。
「だ、だ、だいじょうぶだっていってんだろ!」
いや、言ってない。
そう思ったが、それよりも気になることがあった。叫んだ信乃ちゃんは鼻声だった。もしかして泣いている?
「やっぱり何か異常が出て来たんだね? ……分かった。信乃ちゃん、今日の先生との会食は一度延期しよう。ここで待ってて。オレがあの人を探してくる。大丈夫。必ず何とかするから。ベッドまで歩ける? 難しいならソファで横に……」
そこまで言って、オレは口を噤んだ。
胸に飛び込んできた重さにたたらを踏みんだ。
信乃ちゃんが急に身を寄せてきたからだ。
「信乃ちゃん……?」
「うるせー! だいじょうぶだって、いってんだろーー!!」
ヤケクソ気味に叫んだ信乃ちゃんに、オレはようやく状況を理解した。
多分、だが。これ、異常が出たんじゃなくて、また感極まって泣いてんな……。
忘れていたわけではないが、この子、人の優しさに飢えてたんだった。
有難いことに、オレの気持ちは信乃ちゃんにとって、本気で痛いほどに伝わっているらしい。伝わり過ぎていると言うべきか。
「う゛ー!!」
オレの胸の中で唸り続けている信乃ちゃんのそれは、きっと照れ隠しから生まれたものなのだろう。
オレは一つ息を吐いて、信乃ちゃんの頭をゆっくりと優しく、何度も撫でおろした。
さて。
信乃ちゃんにした説明には、少し補足と訂正がある。
やられっぱなしでいろ、というのは違う。もちろん、無かったことにするつもりもない。
信乃ちゃんにはそうとも言えると答えたが、オレはそれで終わらせるつもりはなかった。
あのとき見た、葵と言う女が胸に付けていたブローチの、黄色い宝石。あの形は……茶々ちゃんが魔法少女に変身する時に持っていたステッキに備えられたものと酷似していた。そしてあの葵という女は恐らく……茶々ちゃんの家を見ていたと思われる。その理由は分からないが、彼女が茶々ちゃんの関係者である可能性は高い。さすがに茶々ちゃんのことを信乃ちゃんに伝えるのは憚られたため伏せたが、オレはオレなりに彼女のことを調べてみるつもりでいた。
血眼になって探し出すような行動を取るつもりはないが……。今後、もしオレが葵さんを見掛けたなら、今度はさっきのような迂遠なものでなく、直球で事情を聴くつもりだ。可能なら信乃ちゃんへの謝罪とケアを強く要請する。
オレは思った。
―――友人を傷つけられるのは、オレとしても非常に不愉快




