04 判るもんか
何か夢を見たような気もする。
だが、よく判らなかった。
記憶にないと言うことは、別に格別面白いものでも悪夢と言うようなものでもなかったのだろう。
波瀾万丈はもう充分だ。せめて夢のなかくらい、穏やかでいたいものである。そんなことを思いながらぼんやりと目を開ければ、隣の寝台でシーヴが大欠伸をしていた。
「何だよ、お前まで起きなくたっていいんだぜ」
いささか寝ぼけた声でエイルが言えば、シーヴも快適な目覚めとはとても言えなさそうな顔を向ける。
「いや、お前がティルドを心配する気持ちは判るんだけどな」
シーヴは寝台から降りながら、丁寧にも自分で畳んでいた――召使いが何でもやってくれる王子殿下の所行とは思えない――衣服に手を伸ばす。
「会って、どうするのかと気になってる。行くなととめるのか」
「とめられや……しないけど」
兄を救うななどとは言えない。当たり前だ。
「協会が動いてるってこと、教えてやりたいよ。あいつは魔術師なんか頼みにしないだろうけど、それを知れば動き方が変わってくるかもしれない」
「変わらないと思うね」
「どうしてだよ」
「自分を思い出せよ、エイル少年」
にやりとシーヴは言った。
「助け手があるかないかで、お前の行動は変わったか?」
「んなの」
エイルは唇を歪める。
「判るもんか」
「そうだな」
問うておきながらシーヴは同意した。
「起きたことは起きたこと。起こることは起こることだ」
行くなら行こう、と砂漠の青年は言った。
「サラ……じゃねえ、ラニは?」
「外だ。朝の散歩だと」
「服」
エイルは自分が脱ぎ捨てた外衣に手を伸ばしながらはたと思った。
「何?」
「服、着てたな」
「何だそれは」
「あれ、俺が買ってやったんだ」
「いい父親だな」
「阿呆っ、そういう話をしてんじゃないっ。あのな、鳥は服、着ないだろ」
「そりゃそうだ」
「当然、鳥のときに服を持ち歩いてる訳じゃない」
「そりゃ、鳥は歩かないからな」
「いちいち混ぜっ返すなっ」
エイルはシーヴを睨みつけた。
「なのに、ガキになったときはまた、俺のやった服着てんだ。何だろな、あれ」
「さあ。魔法じゃないのか」
「簡単でいいな、お前は」
「難しく言えば何か判る訳でもないだろう」
道理だ、とは思ったが、だからと言って納得できることでもない。
「鳥から人間に変わるだけで充分、不思議だ。服を着ようが着ていまいが、かまわんだろう。それに、ラニタが化けるたびに服を買ってやらなければならないより、いいんじゃないのか」
「まあ、そうなんだけどな」
そういうものなのだと思うしかないのだろうか。何だか、エイルは釈然としなかったが、確かに難しく言って考えてみたところで、何か判るはずもなかった。




