05 桁をいくつ加えればいいかね
〈黒鳩〉グラカがエイルに寄越した話は、だいたいこのような感じだった。
確かに、東国の商品だと言って飾りものを売る商人たちがいる。初めは簡単で地味なもの、エイルが屋台でのぞいていたような安物の装身具を取り扱い、露店で商売をしていた。しかし、彼らはいつの間にか露店での商業をやめ、場所を移した。
「店を持ったのか?」
「そんなご立派なものじゃない。だがもっと巧いやり方さ」
レギスは富める街と言うほどでもないが、金持ちはけっこういる。グラカは続けて、そんな言い方をした。
町を仕切るのは貴族ではないから、どこかのたいそうな貴族様が領主のご機嫌伺いにご訪問すると言うことはない。だが、このスタラス王の土地の外れには、下級貴族級の裕福な商人やちょっとした著名人が好んで訪れる場所がある。
そこが彼らの新たなる店舗代わりなのだ、と。
「どこだよ」
にやにやと訳知り顔で言う鳩に少し苛つきながら、エイルは言った。
「話すならさっさと話せよ」
「何で東の商品なんか欲しいんだい、兄さん。本当に、恋人にねだられた? 奴らがここで庶民を相手にしてたのはけっこう前の話だぜ。余所ではまだやってるみたいだが、いまのレギスでそれを探すのはどうだろうねえ」
「どうでもいいだろ」
こちらから情報を洩らしてやる気はないし、まかり間違ってこの情報売りが信頼できるという話になったとしても簡単に話せることではない。
シャムレイの第三王子がその話を追ってここまでこようとしている、などとは。
「兄さん、金はあるかい」
「金持ちにゃ見えないだろ」
もっと金を出せと言うのだろうか、と思いつつエイルは返した。
庶民の基準から見れば、彼はいささか、裕福だ。仮にも城勤めの身である。それも王女殿下直属。給金は、下町で食うに食わずの生活をしていた頃に比べれば、破格だ。
確かに金には困っていない。だが、困らないというのはそれ以上ではない。ありすぎて困るほどではない。
エイルは吝嗇にはほど遠かったが、情報屋の類の財布を簡単に太らせてやろうと思うほど寛容でもなかった。
「俺に払えってんじゃない。その店に入り、奴らから何か買うには金が要るって話だよ。露店で買えるいちばん高い装飾品の価格に、桁をいくつ加えればいいかね」
〈黒鳩〉はそんなことを言った。
「言っておくが、買わなくたって金が要る。紹介料だの入場料だのってとこさ」
「ずいぶんな場所だな」
エイルは顔をしかめた。
「そいつらは巧くやった、と言ったろ。町の長老会にすすっと入り込んでね、爺様たちを素早く味方にしちまった。盗賊組合も苦虫を噛み潰してるくらいだ」
面白がるようにグラカは言う。
「念のために聞くが、とりあえず入るだけとして、いくらかかるんだ」
こっちは少しも面白くない。顔をしかめて尋ねると、グラカは指を一本立てた。
「……十」
「まさか」
「百かよ」
「もうひとつ」
「い……一千!?」
エイルが素っ頓狂な声を上げると、グラカは満足そうに笑った。
「当たり。高級店舗の会員権となりゃ、それくらいする」
グラカはにやにやと続ける。
「それでも場所を知りたいかい、兄さん」




