11 同じことだよ
「シーヴは説明のせの字も寄越さずに走り去ってくれた。いったいふたりで何をやらかしてるのか、君から話してもらえるのかな? そりゃあ、君らの相性のよさは、女神様のお墨付きだけど」
「あのなっ」
エイルは異議ありとばかりに声を出した。
「それなら、あんたとオルエンだって同じだろうがっ」
「……それは、すごく嫌だな」
吟遊詩人は何とも嫌そうに言いながら、厄除けの仕草をした。
「まあ、僕らのことはいいや。君たちだよ、エイル。シーヴが誰を追いかけていったのか知らないけれど、君たちが揃っていればたいていのことは切り抜けられると思う。逆に言えば、あんまり離れない方がいいということになるね」
「あのさ」
その予言めいた言い方に、エイルはいささか顔を引き攣らせながら言った。
「あんたがそういう言い方するときは、経験に基づいたもんであって、魔術の類とは違ったんじゃないかと……俺は踏んでるんだけど」
予言などはご免である。
「そうだよ、僕は経験豊かだとも」
クラーナは肩をすくめた。
「それでも、決して魔術師ではない。不思議だね、エイル。僕と君の役割は同じだったかもしれないけど、道はそうじゃない」
それとも当然かな、と詩人は言い、彼を胡乱そうに見る戦士ガルに向けて、僕は魔術師じゃないんだからね、と繰り返した。
「シーヴを追いかけるならレギスに行っておいで。君たちなら問題なく出会えるだろうから心配はしないけど」
クラーナはぴっと指を一本立てた。
「くれぐれも、自分を過信しないこと。まあ、これは君よりシーヴに言っておきたい忠告だけどさ」
それに、と彼はつけ加える。
「僕の忠告なんて意味をなさないかもしれないし」
「……何か知ってるのか?」
不意にクラーナが視線を落としたので、エイルは何となく不安になった。
「何も」
クラーナは即答した。
「言わせてもらえば、何か知りたいとも関わりたいとも、思わないね」
「おいおい」
笑うように言ったのはガルという戦士だった。
「お前は、面白い話がありそうだからと俺についてきてるんだろうに。厄介を避けるような発言は、らしくないんじゃないか」
「それとこれとはものすごく別。いいから君は黙っといて」
吟遊詩人はぴしゃりと言う。エイルとガルはそれぞれ面白そうな顔をした。
「とにかく気をつけて、エイル。オルエンはみすみす君を危険に巻き込むようなことはしないと思うけれど――思いたいけれど、あの爺さんの考えることは判らないからね」
「まあ、なあ」
エイルは同意した。
「命を賭ける覚悟があるか、と言われたよ」
「何だって? そんなに危険なことが起きてるのかい?」
「いや。そうでもない。と、俺は思ってたんだけど」
「エイル」
クラーナは真剣な声を出した。
「言いたかないけど、オルエンはあれで嘘はつかない。彼が危険だと言うのなら、本当に危険だよ」
「……だよなあ」
同意したくなかったがせざるを得ず、エイルは天を仰いだ。
「クラーナ、あんたまで『無茶はしないと誓え』とか言わないよな」
「言わないよ。誓ったって、どうせやるんだろ」
「まさか。シーヴじゃあるまいし」
「あのね」
クラーナは首を振りながら言った。
「あの王子様が無茶をやったら、君はそれをとめようとして無茶をやるだろ。同じことだよ」
こう言われては返す言葉がない。エイルはうなった。
「まあ、そうは言っても死ぬ気はないし」
「生に絶望していない限り、たいてい、死ぬ気はないもんだね」
詩人は遠慮なく指摘した。
「ただね、エイル。関わりたくないと言うのは僕の問題であって、君の問題じゃない。君の問題に関して言うのならば、僕は手伝いたいと思ってる」
「ん?」
何だか矛盾したことを言われたようで、エイルは首を傾げた。
「僕に訊きたかったことを訊いてみればって言ってるのさ。助けになるかは判らないけれど、君の考えを整理する役には立つかもしれない」
「そうだなあ」
エイルは考えた。確かに彼の関わっていることは混沌としている。ひとつずつ解決をしていくしかないのだが、クラーナの「経験値」はエイルには思いもよらない何かを導き出してくれるかもしれない。
「話せば長くなるんだけれどさ」
青年魔術師は苦笑のようなものを浮かべながら、「先輩」に話をしてみることにした。




