表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風謡いの首飾り  作者: 一枝 唯
第2話 王子殿下の一計 第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/340

08 「失礼」だけどさ

 エディスンはこの件を重要だと考えているはずだから、エイルのもとに派遣される術師は宮廷魔術師直属であるとか、協会内である程度以上の地位を持つとか、そういう存在だろうと思った。

 だから、エイルは少し驚いた。

 現れたウェンズという名の術師はシーヴと同じか少し上くらいだ。スライの言った通りだが、導師は二十歳過ぎのエイルを「悪ガキ」扱いするくらいだから、三十を超していても「若造」くらい言うのではないかと思っていた。

 魔術師の外見など当てにならないが、術が働いていれば判る。

 つまり、目前の相手が見た目より年を取っているにしても、それは魔術師でない人間が「実際より若く見えますね」などと言われるのと同じで、行ってもせいぜい二十代後半から三十である。

 もっとも年齢と魔力は必ずしも比例しないから、若いからと言って実力がないとも限らない。そこまでは、エイルは見て取れない。

 ただ、怖いくらいに痩せた顔と顔の右半分近くを占める傷跡は――たいへん、失礼ながら――芝居師(トラント)の物語に出てくるような、言うなれば絵に描いたような悪者を思わせ、どうにもエイルの気になった。

 実際に話をはじめてみれば穏やかで賢そうな若者だったから、エイルはすぐに必要以上の警戒を解いた。必要と思われる警戒は、続けたが。

「それでは」

 だいたいの話を確認したあと、ウェンズは静かに言った。

「その首飾りをお見せいただきたいのですが」

 きた、とエイルは思う。

「呪いのことを考えると、街へは持ってこられません」

 エイルは正直に答えた。状況を説明する間にも強調したことだ。だいたい、エイルはあの首飾りがほしい訳ではない。呪いなどがなければ、エディスンの王子がそれを探していると聞いた時点でさっさとエディスンへ渡しているだろう。

 「呪い」などのために、厄介な羽目に陥っている。彼が呪われている訳ではないのに、とんだ効用(・・)だ。

「風に鳴るとのことでしたが、それを遮断する方法はあるでしょう」

「確かにね」

 エイルは肩をすくめた。

「布で覆う。屋内に置いておく。俺も試している方法です。でもあれは風鈴(イレアン)じゃない。風に揺れて、それで鳴るもんじゃないんです。魔物の身体に接していても鳴ったし、それが死ねば、風が吹いても鳴らなかった」

 エイルは、最初はそれに気づかなかった。「布で覆う」「袋にしまっておく」ことに意味がないかもしれないと思ったのは、〈塔〉の指摘による。

 〈塔〉のなかではあれは音色を奏でなかった。だがそれは単純に「石の壁が風を遮断する」からなのか、「誰も身につけていない」からなのか、それとも「伝説の術師が塔にかけた魔法」によるのかは判らない。ほかへ持っていって試してみる訳にもいかない。

「箱か何かに厳重にしまって、何か魔法でもかけりゃ、安全かもしれない。けれど俺には確信が持てない」

「失礼ですが」

 若い術師は謝罪の仕草をしながら言った。

「私はあなたより、数段上の魔力を持つ。あなたに判らないことも私ならば判定できるやもしれません」

「もっともだね」

 エイルはにやりとした。それは彼も考えたことだ。

「でも俺は、あなたがそれを持った瞬間あなたに殺意を抱くかもしれない。俺はあなたを殺すのも、それを為せなくてあなたに殺されるのも、ご免です」

「現物を見せずに、信じよと言われるのですか」

「こういう言い方も『失礼』だけどさ」

 エイルは唇を歪めた。

「俺は別に、エディスンに義理なんてない。あんたらに右往左往させてたってかまわなかったんだ。ただ、ちょっとした縁ができたから、知らせておくべきだと思った。恩を感じろとは言わないけどさ、もうちょっと違う反応でもいいんじゃないの」

 言ってやると、術師は引き攣った笑いを見せた。と言っても「神経質な」という意味ではなく、負傷の痕――なのか生まれつきなのか――が笑みを強張らせて見せるだけのようだった。

その通りですね(アレイス)。あなたは黙っていてもかまわなかったし、首飾りが欲しければ(ラル)を寄越せだとか、引き換えに何か呪文を教えろだとか、そう言う取り引きを持ちかけるやり方もあった」

「おいっ」

 思わずエイルは渋面を作った。

「俺はそんなケチな小悪党にゃなりたくないね。そこまで怠惰でもない。金持ちとは言えないけど仕事で得た金で充分生きていけるし、知りたい呪文があれば自分で学ぶさ」

 彼の言葉に、ウェンズは謝罪の仕草をした。

「とにかく、あれが〈風謡いの首飾り〉だとしたら――いや、真偽はともかく、王子殿下が探すものはあれだと思うんだ」

 「風に鳴る首飾り」を持つ「砂漠の魔物」が複数いるようなこともないだろう、とエイルは言い、術師も同意した。

「で、そちらの王子様が商人を探したり、砂漠に乗り込んだりする必要はないぜ、って言っておきたかっただけ」

 言うと術師は苦笑した。

「確かに、ヴェルフレスト殿下に大砂漠へお出かけいただく訳にはまいりません。好奇心を持たれる前に、行く必要はございませんと申し上げられるのでしたら、安心です」

 変わったことを何でも好まれるので困るのです、などと術師は言い、エイルは、どこぞの第三王子みたいだな、と思った。そう言えば、話題のエディスン王子も三番目の嫡子という話だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ