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風謡いの首飾り  作者: 一枝 唯
第5話 焦燥と奔走 第3章

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04 頭が痛いよ

 〈塔〉には、夜明けとともに起こすよう言っておいた。

 しかし彼が目を開けたとき、あかりとり用の小窓からはすっかり明るくなった外が窺える。

「おい、起こせって言ったじゃないか」

「いくら呼んでも起きなかったのだ。私には腕がないのだから、揺さぶり起こすことはできない」

 〈塔〉は不満そうに言った。

「身体がそれだけ、睡眠を必要としていたのだ。すっきりしただろう」

「どうかな」

 エイルは寝台から降りて伸びをすると、首を傾げた。

「頭が痛いよ。本当に頭痛がするって意味じゃなくて、な」

 呪いを解く方法を模索しても、三日、いや、二日で解けなければ意味はない。仮に解けたとしても、ラニタリスをアニーナにつけている以上、鳥、または子供と首飾りの関係やら繋がりやらを探ることも難しい。

 となると、エイルにできることはやはり魔術の鍛錬。そして剣術の鍛錬。それとも――その融合。

 エイルは思い出してまた頭痛を覚えそうだった。

 オルエンは、エイルが魔術薬と自然生薬を組み合わせたことに感心し、剣術とも何かやってみたらどうかなどと言ってきた。だが、そのような方法についても、さっぱりだ。

 戦士(キエス)と旅をする術師は、仲間の武器に一時的に魔力を付与するというようなこともするらしい。何となく聞いたことがあった。

 しかし、魔力を持っても剣は剣だ。この場合、それを振るうのはエイルである。戦士が魔物をぶったぎるような、見事な技術やら並外れた腕力やらが湧いて出る訳でもない。

(戦士)

 ふとエイルは思った。

(クラーナの相方に、話を聞いてみてもよかったか)

 何でも凄腕とのことだ。クラーナは詩人の癖とばかりに言葉を飾り立てることはやるが、無意味な賞讚や世辞を言う気質はない。その詩人が凄い戦士だと言うからには凄いのだ。

 それに加え、冒険物語のような日常を送っているということだった。それならば、エイルのような駆け出し剣士(・・)が思いつかないような手段を知っていたり、考えついたりはしないだろうか。

(昨日、思いつけばな)

 タジャスでクラーナの旅立ちを送ったときにそのことを考えついていればよかったが、いまや詩人と戦士はどことも知れぬ空の下、である。

(ラニに探させるか)

 魔鳥の主はそう考えた。

(その間、俺が母さんとこを見張ってればいい)

 と言っても顔を出せば何だかんだとうるさいし、もう少し孝行息子的に言うならば、母の仕事の邪魔になってもいけない。一室だけのぼろ家にこっそりと防護の術でも施して、あとは近くに潜んで(・・・)いればいいだろう。魔術の方ならば、座しながらできる訓練もあるし、書も読める。などとアニーナの息子は考えた。

 この場合、こっそりとやる理由はコリードへの警戒よりも母への気遣い、或いはやはり警戒(・・)である。「魔術師エイル」は当人以上に母親の気に召さない。

「おし」

 エイルは気合いを入れるように、両手で自らの頬をぱしんと叩いた。

「アーレイドに行く。あ、いや、その前に」

 ぐう、と腹の虫が鳴った。健康でよいが、忙しいときには困る。

「ちょいとヨアに行ってくる」

 アーレイドでもよいのだが、ふと、香辛料の利いた東国の食事がしたくなったのだ。別に気合いを入れるためという訳でもなかったが、結果的には気合いが入るかもしれない。

「何かあれば」

「ラニタリスを通して知らせる」

「よろしく」

 塔の最上階、見晴らしの小部屋でエイルはひらひらと手を振ると、目を閉じた。

 東国と呼ばれる地域、つまりビナレス地方の東端。ファランシア地方に住む砂漠の民たちが「西」と言う大陸の半分のなかで、もっともこの塔に近いのがその付近だ。

 いったい塔が砂漠のどこに建っているのかは、いまだにエイルは把握できていない。「真っ只中」と大雑把には考えているが、まさか本当にど真ん中だとも思っていない。オルエンに訊いても明確な返答は得られなかった。

 制作者がそれを知らないと言う訳ではなく、距離を数字で伝えることに何の意味があるのか、というような返事だった。確かに、足で歩いて塔へやってくる訳ではないのだから、「ここにある」という魔術師の感覚があればそれでことは足りる。

 もしかしたら、翼を使って飛ぶラニタリスだけが、正確な位置を知っていることになるのかもしれない。

(翼って言っても、本当に翼の力だけで飛んでる訳でもなさそうだけどな)

 人が歩くよりも速く飛べることは確かだろうが、それにしたってラニタリスの移動速度は常軌を逸している。訊いたところで「判んない」だが、魔術の一種を例の「変身」同様、無意識でこなしているだけなのだろう。

 そんなことを考えたが、エイルは首を振った。

 余計な思考は術の妨げになる。

 エイルは、塔と東国の具体的な距離からはじまった連想をとりあえず投げ捨てて、ヨアの街の風景に心を集中した。

(――よし)

(見えた)

 銀色の糸を引っ張る。

「んじゃ、行ってくる」

 〈塔〉が感心したような吐息を――どうやってか――出すのを聞きながら、エイルは塔より西にある「東の街」へ跳んだ。


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