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風謡いの首飾り  作者: 一枝 唯
第5話 焦燥と奔走 第2章
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07 いつでも的確

「お前は、そんなに、彼を想っているのだな」

「それはしつこいですっ」

 何でもかんでも色恋にしないでいただきたいものだ。ゼレットがこういう人であるのもよく知っているが、そろそろ必ず否定されることを覚えてほしい。いや、忘れている訳でもないのだろう。

「妬けるようだが、仕方がない」

「言っておきますけど、俺はゼレット様にだって同じように帰ってほしいですよ」

「何。彼と同じくらい俺を案じてくれるのか。それは嬉しい言葉を聞いた」

 急に伯爵はにこにことした。機嫌が悪いよりはよい方がずっといいが、それにしても「シーヴと同じくらい」で喜ばれるのは、何と言うか、複雑だ。

「それで、本当に二日で呪いを解く気か」

「手段があれば、やります。いま問題なのは、時間を『手段を探す』ために使うか否か」

「否ならば、何をする」

「――戦う方法を考える」

 「素直に渡す」訳にはいかないのだ。あれが人の血を呼ぶ以上。

「不穏だな。やはり、危険がないとは言えないではないか」

「ないようにしたいです、というのは本音なんですが」

「そんなことだろうと思っておった。だから俺は心配なのだ、エイル。心配するなとは言わせぬぞ、お前がシーヴを案じるあまり、騙し討ちにして故郷に閉じこめた以上」

「だっ、騙し討ちって何ですかっ」

「そうだろうが。お前に危難があると知って、彼が黙っておるはずがないのだから」

 ゼレットはさらりと言った。エイルは、それがあまりにも的確な言い当てだったので、沈黙するしかない。

「俺の決めたことです」

 五(トーア)ほどの沈黙のあとにエイルは言った。

「確かに、騙し討ちかもしれない。でもあいつは、俺なんかを案じてる暇があったら、ほかにやるべきことも、守るべき人もいる」

「それこそ、彼の決めることだとは思うがな」

 ゼレットは静かに言い、エイルは再び沈黙した。

 初春の青空に鳥が鳴く。静けさが、強調された。何となく、重い。

 ――と、ぐいっと腕が引き寄せられた。

「何」

 するんですか、と言い終える前に右頬に伯爵の手が触れ、まずいと思う間もなく唇が重ねられた。口髭の感触が懐かしい、などと感じた次の一(リア)でエイルは飛び退く。

「何っ、すんですかっ」

 改めて叫ぶ。

「うむ、久しぶりだ」

「答えになってませんっ、てか、駄目ですからね!? 相手の許可なしにこういう行為は!?」

 エイルはふるふると拳を振るわせた。

「頼りなげな表情を見せるからだ。それだけ心を許している、となれば無論、口づけのひとつやふたつは許されていると思うだろう」

「許してませんっ、拡大解釈せんでくださいっ」

 両の拳を握りしめたままでエイルは抗議する。

「俺が許したのでれば、気を許したってとこですね。それが間違いでした」

「巧いことを言う」

 ゼレットは笑い、エイルは息を吐いた。クラーナの忠告はいつでも的確だ。――ゼレットは「油断ならない人」である。

「ふむ」

 面白がるような声に、エイルははっとなった。

「お邪魔かな?」

「――オルエン!」

 振り返れば、そこには白金髪の魔術師がにやにやしながら立っている。

「てめっ、どこで油売ってやがったっ」

 心配したぞ、などという台詞は絶対に言ってやるもんか、と青年は思った。

「何をかりかりしておる。何も、即刻、一(リア)でここにくるとは言っておらんだろう」

「そりゃ……言わなかったかもしれないけどさ」

 用事があった(・・・・・・)とでも言う訳だろうか。危惧が杞憂(ゲルダ)で済んだのは上等だが、何だか納得がいかない。

「さて、では貴殿が噂のゼレット閣下ですな」

 オルエンは面白そうな表情のままで言った。

「我が弟子に男性の恋人がふたり以上いなければですが」

「誰が弟子で恋人だっ!」

「おぬしがオルエン殿、か」

 ゼレットはじっと若い姿の老魔術師を見た。

「ほう……成程、これはまた」

 伯爵はしげしげと眺め続ける。

「匂いたつような美青年、と言うやつだな」

「忘れてるといけないんでクラーナの言ったこと繰り返しますけど」

 エイルは嘆息混じりに言った。

「中身は相当の爺様ですからね、それ(・・)

「師匠に対して『それ』呼ばわりか」

 オルエンは唇を歪めたが、エイルは無視をした。

「何の。妬くでない。俺には、お前の方が何十倍も魅力的だ」

「阿呆なこと言わんでくださいっ」

「そんなに自分の容姿に自信がないのか?」

 ゼレットの的外れな質問にエイルはがくっとなる。

「そういうこと言ってんじゃありません、俺は妬いてなんかいないって言ってるんです」

 エイルの主張は、ゼレットには肩をすくめられただけだった。

「素直でない」

 ゼレットはにやりとし、それらのやりとりにオルエンもにやにやとしていた。おそらく、いや、間違いなく、面白くないのはエイルだけである。


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