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風謡いの首飾り  作者: 一枝 唯
第4話 魔術師の自覚 第3章
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02 お前は風司か

 エディスンの魔術師協会長(リート・ディラス)と宮廷魔術師の間にどのような確執があるのか、と言って悪ければ、彼らがどのように張り合っているのか知らなかったが、エイルは宮廷魔術師に面会できる機会を逃さないことにした。

 尻尾を巻いてどうする。

 必要とあらば、戦ってもいい。

 そんなふうに意気込んだ。

 もちろん、高位の魔術師と魔法合戦などを繰り広げるつもりはない。エイルなど、赤子の手をひねるよりも易しく、どうとでもされることは判っているからだ。

 ただ、魔力に気圧されるようなみっともない真似だけはすまい。

 はっきりとした決意は、守りをくれる。そういうものだとエイルに教えたのはいまは亡き恩師リックだっただろうか。

 協会長フェルデラが言ったように、エディスンの宮廷魔術師は驚くくらい早く協会長室に姿を見せた。

「ようこそ、ローデン導師」

 そう呼ばれた男は嫌そうな顔をした。

 それは、協会長同様に四十代の半ばくらい細い男で、明るい茶の髪と暗い色の瞳が対照的だった。

「私は導師ではない」

 ローデンと呼ばれた魔術師はまずそう答えた。協会長は肩をすくめる。

「シアナラスはお前から導師の資格を剥奪していない。私もね。お前はいまでもここの導師なんだよ」

「断る」

 すげなく宮廷魔術師は言った。フェルデラは笑うと、エイルとローデンのふたりを順に見る。

「紹介しよう、エイファム。こちらはアーレイドのエイル術師。エイル術師、そちらの不機嫌そうな男がエディスンの宮廷魔術師にして公爵の地位を持つエイファム・ローデン閣下だ」

「閣下、もやめろ」

「気難しくて困る。今後は一切、呼びかけるななどと言うのではなかろうな?」

「そうできるのならばそうしたい」

 ローデンは鼻を鳴らした。

「アーレイドだと言ったか」

 そう言うとローデンは暗い色の目でじろじろとエイルを見る。高位の術師にそうされれば、まるで品定めでもされている気分になり、エイルは落ち着かなかった。

「ずいぶん早いな」

 その言葉がエイルに向けられたものらしいと気づいた青年は目をぱちくりとさせた。

「早いって……何がです」

 確かにエイルはこれ以上ないくらい素早くやってきたが、それと彼がアーレイドの術師であることは何の関係もない。

「アーレイドからの使者では」

「違いますよ、登録してるだけです」

「では」

 宮廷魔術師の視線は厳しく、エイルはスライやダウに怒られてでもいるような感じがした。

先の力に(・・・・)ついて問い(・・・・・)質しにきた(・・・・・)のではないと?」

「え?……と?」

 エイルは混乱しそうになった。

「言わせてもらえば、導師……いや、術師」

 「導師」も「閣下」もこの男の気に入らないらしいことを思い出したエイルは素早く言い換えた。

「俺は俺の持つ(・・・・)首飾り(・・・)に喧嘩売ってきたのはどいつか知りたくて、エディスンにきた」

「何だと」

「くれぐれも言っとくが、アーレイドは無関係。俺個人の問題だ」

「『蘇り君』がエイル術師をつれてきたんだよ、エイファム」

 フェルデラが説明するように言うと、ローデンははっとなったようだった。

「何と。では例の、首飾りを持っている魔術師と言うのが」

「俺」

 エイルは名乗りを上げるように挙手をした。もはや隠すことはしない。売られた喧嘩ならば買ってやる。――ラニタリスの、主として。

「力って言ったな、協会長も知らない件をあんたは知ってる訳だ、ローデン術師」

 ずい、とエイルは一歩を進んだ。

「どういうつもりなのか、ことと次第によっちゃただじゃ」

 おかない、と言っても、目前の術師に魔力で敵いようがないことは〈真夏の太陽(リィキア)〉のように明らかだった。だが、エイルが言葉をとめたのは、ローデン術師の怒りや不興を買うことを怖れたためではない。宮廷魔術師の不機嫌そうな顔が不意ににやりとしたからだ。

「成程。数奇な星を持っとる」

 〈星読み〉の魔術師はそんなことを言った。エイルは嘆息する。

「数奇でも平凡でも、人間が歩ける道は一本しかないだろがっ。俺にあるのはこの道なんだよ、放っといてくれ」

 嫌だの断るのと言い続けてきたが、そう言ってもはじまらないのである。

「ではそれはよかろう。本題だ。エイル術師、お前は風司(イルサラ)か」

 その問いにエイルは、ウェンズがそのような話をいていたことを思い出す。

違う(デレス)

 エイルは首を振った。

「確かか」

「百人中、九十八人の側くらいにはね」

 エイルは「魔術師が百人いれば九十八人は黒い術に近寄ろうともしないものだ」と言う、魔術師への偏見に対して魔術師が説明する言い方を使った。つまり、絶対にとは言えないがそれにごく近い、というような意味合いである。

「よかろう」

 ローデンはまた言った。

「確たる返答を避けた。どうやら、慎重だ。それは〈嘘つき妖怪(シャック・ハック)〉の特質にはない」

 そう言うと、ローデンは考えるようにした。

「お前は司ではなく、継承者なのかもしれん。だがどちらにせよ、私が関われる問題ではないな」

「継承者だって?」

「風司候補者だ」

 宮廷魔術師は短く説明し、エイルは沈黙した。

 何者かが司だの継承者だのであるとしたら、それはエイルではなく――ラニタリス。

「説明をしておこうか。お前のところへ飛んだ力は、風読みの司がもたらしたものだ」

「何だって?」

 判らなくてエイルは顔をしかめ、また聞き返した。ローデンは苦々しい顔つきになった。

「『今日は天気がよい』とでも言う調子で、風具の力を眠らせたなどと言ってきおった」

 つい先ほどのことだ、と宮廷魔術師は言った。


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