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風謡いの首飾り  作者: 一枝 唯
第3話 偽物商人 第2章
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05 結果を知るべき

 ハサスに乗ったシーヴとその上空をくるくると飛んで回る小鳥をその目でしっかり見送ったあと、エイルが行くべきは魔術師協会(リート・ディル)だった。

 シーヴにははっきりと言わなかったが、今日辺り、スライ師は動いているはずである。

 魔術でぱっとアーレイドに跳べれば立派だが、エイルは長距離の移動には〈塔〉かほかの助力が必要だ。そして協会というのは、魔術師が力を使いやすいようにできており、協会同士のつながりもある。そこからならば、できるのではないかと思った。

 長距離の移動。

 ひとりでやったことはない。短い距離でも、滅多にやらぬのだ。

 足で行けるところに魔術なんかを使うのは馬鹿らしい。エイルはそう思っている。いや、いくら高位の魔術師であっても、たとえば隣室に行くのに〈移動〉術を使ったりはしない。どの程度の距離から術を使うかという判断は考え方や魔力次第だが、強い魔力の持ち主であっても術を多用すれば単純に肉体の方が弱ってしまう。身体が弱れば魔術書を読み続ける体力だってなくなってしまう

こともあり、理性でもって避けるのが常だ。

 エイル程度の術師であれば、それよりももっと判りやすい簡単な理由として、時間をかけねばできぬということ――場合によっては、素直に歩いた方が早い――や、成否にかかわらず酷い頭痛を伴うというようなことがあったけれど、もう少し楽に術を行使できるようになっても、エイルはなるべく足を使うだろう。

 〈移動〉術を楽にこなせる術師であれば、隣室や隣家はともかくとして、隣町へ行くとなればまず魔術を選ぶはずだ。だがエイルにはその感覚は訪れない。いまは単に「できない」ということもあるが、もし万一仮にできるようになったとしても、現状のようなやむを得ない事態だけにしたい、という気持ちがある。

 魔術を「便利だ」とするのは堕落だと思っているのだ。

 ちなみにそれをオルエンに言わせれば「魔術師の自覚が足りない」、〈塔〉に言わせれば「魔力を使うことを怖れている」ということになる。

 しかし、敢えてその便利な堕落に身を委ねなければならないときもある。

 アーレイドの導師スライが動いている、例の件。業火の神官とムール兄弟について、彼は魔術師としても友人としても、知らなければならない。

(今日だ)

 それは判っていた。

(ティルドが今朝、偽の首飾りごと連れていかれた)

(スライ師は、今日明日に支度を整えていると言った)

(今日の日が落ちるまで。それまでに大勢(たいせい)は決定する)

 できることなら、コルストに乗り込んで友人とその弟を助けたい。だがそれは感情論であり、彼が行ったところで意味がないこともまた判っている。

 となればできることはひとつ。アーレイドでの待機だ。

 彼は結果を知るべきなのだ。業火の神官の居所をを魔術師協会に報せた者として。ユファスとティルドの友人として。

 そして――〈風謡いの首飾り〉の保管者として。

(結果、か)

 彼は息を吐いた。

(シーヴの件には、片がついた)

(導師が関わる件には、今日明日の内に結果が出る)

(だけど)

 協会へ小走りに向かう途上、不意に冷たい風が吹いた。エイルは身を震わせる。

(終わらない。首飾りの件は、まだ)

 青年魔術師エイルは、いまだその真っ只中に、いるのだ。


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