海底のように|心のぬくもり幻想舎
「お姉さんはやらないの?」
まだ何も知らないような無垢な子どもが、シャボン玉のストローを片手に問いかける。
「私はいいの」
「どうして?楽しいよ」
青空の下で漂う小さな気泡を指さして、なぜだと首をかしげる。
「お姉さんは大人だから、やらないのよ」
「大人はやっちゃだめなの?」
どうして、どうして、とオウムのように問いかける子どもは、きっとたくさんの疑問を吸収して大人になろうとしているのだろう。
「大人はね、いろいろなことを経験したせいで純粋に楽しめなくなっちゃうの」
だから楽しんでる君のそばで私はできない。
そう答えると、その子どもは頬を膨らませてストローをくわえた。
「じゃあ僕がいっぱい飛ばすから見ててね!」
ふうっと小さな肺から空気が送られて、あっという間に手のひらサイズの泡になる。
次第に空へと放たれる数が増え、数秒後には視界いっぱいに虹色の泡が広がった。
「すごい、海の底にいるみたい…」
「まだまだ飛ばせるよ!」
見ててね、と先ほどよりも大きい泡を作る子どもは空と同じくらいに青くてまぶしかった。
「あれ、海の底は暗いって本で読んだよ?」
「暗くない海の底もあって、悪くないって話よ」
fin.
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ご覧いただきありがとうございました。
こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
前週分はInstagram(@ousaka_ojigisou)に先にアップしています。早く読みたい方は、あわせてチェックしてみてくださいませ。
大野