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決意

どうして奈那と話す時だけそんな笑顔で居るんだよ。どうして俺と話す時はいつもしんどそうな顔してるんだよ。

色々思うところはある。それでもこの気持ちは口にしてはいけない。

俺はまだ誰にも愛されていないのだから。


「た、ただいま」


出来るだけ明るく声を張り上げてリビングの扉を開ける。

奈那と母さんは少しだけ肩をビクッと浮かせてこちらを見てきた。


「おかえり愛斗」


「…」


母さんは返事を返してくれたが奈那は相変わらず無言だった。


「…そ、そういえばさっき何話してたの?」


俺が居ない間にどんな楽しいことを話してたんだ?そう問い詰めるように母さんと奈那に問いかける。


「えっと…そう、奈那の学校の話を聞いてたの」


母さんはそう言った。でも俺は聞こえていた。母さんと奈那の会話に俺の名前が出てきていたことを。

奈那の学校の話を聞くのなら俺の名前なんて出てこないはずだ。それなのにそんなことを言うということは俺に嘘をついていると言うことだろう。

…俺って愛されるどころか嫌われてるのか?


「へぇ、そうなんだ」


「そうなのよ」


あぁ、俺の嫌いな母さんの表情だ。笑顔と呼ばれる表情をしているくせにその中に疲れが見えている。そんな母さんの表情は、なんだか気を使われているような気がして嫌いだった。



家族なのに気を使うのか?奈那にはそんなこと無いのに?

そう考えるとさっきまで母さんにあまりいい感情を抱いていなかったのがさらに不信感を抱くようにってしまった。

家族である母さんのことを信じたいのに信じきれない。


「…俺、自分の部屋に戻るね」


母さんにそう言い残し階段を登りだす。



「…バレてないわよね?」


「多分バレてないよ。お兄ちゃん鈍感だから」


愛斗が居なくなったリビングでそんな会話が繰り広げられる。


「良かった。愛斗にバレたら台無しになっちゃうからね」


「そうだね。お兄ちゃんにバレないように準備しないと」


「あと1週間後だもんね。愛斗の誕生日」


そう、彼女たちは愛斗の誕生日パーティーを開こうとしていた。


「凄い飾り付けして驚かせないとね」


奈那は決意していた。半年前から無視してしまっていた兄に誕生日の日に謝ってまた仲良くしようと。



だが少年はそんなことには気づかない。気づくはずがない。

なぜなら少年は自分が愛されていないとおもいこんでいるのだから。



「…なんなんだよ」


部屋に着くなり悪態をつきながらベッドに飛び込む。

その悪態は母に対してなのか妹に対してなのか、それとも愛される努力が足らなかった自分に対しての怒りなのかは分からなかった。



いや、まだだ。まだ俺の努力が足りていないだけなんだ。

もっと、もっと積極的に話しかけていこう。そうじゃないとダメだ。

母さん、子供の頃は本当に可愛がってくれたのに…



俺が小さい時の母さんは本当に俺の事を可愛がってくれていた。それこそ過保護すぎるのではないかと言うほどに。



例えば俺がハサミを使って紙を切っている時、誤って指を切ってしまったことがあった。その時、母さんは涙目になりながら俺に謝り絆創膏を貼った後に抱きしめてくれた。



本当は痛くて泣きそうになっていたがあまりにも取り乱している母さんを見てなんだか自然と涙が出なかった。



あの頃は良かった。母さんに愛されているという実感があったから。今は…



いや、今もあの頃みたいになれるように努力しなくては。俺と母さんが今のような関係になったのは俺が中学一年生のときだった。



中学校に入学してから何ヶ月か経った頃、父さんが過労で倒れた。病院の先生たちは必死に手を尽くしてくれたが父さんは亡くなってしまった。原因は過労死。



そこから母さんは常に忙しそうにしている。それこそ俺に構っている時間なんて無いくらいに。



俺はその時、母さんのことを冷たい人だと思った。だって父さんが亡くなって母さんは泣かなかった。それどころか直ぐに仕事に取り掛かった。



どこか鬼気迫る様子の母さんを見て俺は声をかけづらかった。



でも当時小学生だった奈那は母親が居なくては何も出来なかった。奈那だけでも母さんの負担になっているのに俺も甘えては本当に母さんは疲れ切ってしまうと思った。母さんに嫌われると思った。



でも、実際今母さんの愛情を受けているのは奈那だ。俺は…



俺だって母さんに甘えたかった。構って欲しかった。でも母さんのことを想って我慢した。それは間違っていなかったと思うしそれで良かったと思う。



でも色々落ち着いた今なら俺も母さんに甘えたかった。これまで甘えられなかった分、甘えたかった。



嫌われるのは嫌だ。でも、愛されないのはもっと嫌だ。

この際、沙也香のことは仕方ないと割り切ろう。沙也香にさえ愛されていればいいと思っていたが沙也香は他に愛すべき人を見つけてしまった。



もちろん沙也香に対しての気持ちは嘘偽りなく本物だし、今だって沙也香の好きな人が俺だったらと思う。



でも実際は違う。愛されないと分かっているのにいつまでも未練がましく落ち込んでいるのは違うと思った。



恋人は決まった人である必要は無い。これから先もっといい人と出会えるかもしれない。でも家族は代わりが居ない。



これまでもこれからも変わることの無いものだ。大切にしたい。好かれたい。好きたい。



だから努力しよう。好かれるように。嫌われないように。

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