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二週間、一ヶ月、半年。気づけばもう手遅れだった。もうお兄ちゃんには顔向け出来ない。



でもある日、お兄ちゃんが急に私に踏み込んでくるようになった。


「奈那、今日は一緒に学校行くか」


普段はそんなこと言わないお兄ちゃんがそう言ってきた。

とても嬉しかった。本当なら直ぐに行く!と返事したかった。でもそれを私の罪悪感が許さない。


「…」


あぁ、まただ。また無視してしまった。更に罪悪感が増していく。


「コンビニで何買うんだ?」


やめて。


「…」


「何か買うんだったらもうそろそろ家を出ないと…」


お願いだから。


「ねぇ」


これ以上あなたを傷つけさせないで。


「な、なんだ?!」


お兄ちゃんがとても驚いた様子で私の顔を見てくる。


「ウザイ」


…え?私、今なんて言ったの?ウザイ?…?な、なんで?どうして?そんなこと言いたかったわけじゃないのに。私は自分でも何故そんことを言ってしまったのか分からなかった。あなたを傷つけるつもりなんて無かったのに。


「…悪い」


お兄ちゃんは明らかに落ち込んでいた。その姿が私の胸にもう絶対に逃れられないほどの罪悪感を刻み込んでくる。


「…ぁ」


謝らないと。頭ではそう分かっているのに言葉が出ない。この時ほど私は私自身を恨んだことは無い。


「行ってきます」


お兄ちゃんはそう言い残すと玄関から出ていってしまった。


「…なんで!なんでいつも私は…!!!」


お兄ちゃんが居なくなると決まってそう後悔する。後悔するくせに直そうとはしない。私って本当に…



そしてもう取り返しがつかなくなった。


「あ…おはよう、愛斗」


ある日の朝、お母さんが二階から降りてきたお兄ちゃんにそう声をかけた。


「おはようございます。真希さん」


その声を聞いた瞬間、寝ぼけまなこだった私の目は冴えた。



真希、それは私のお母さんの名前だ。じゃあそのお母さんの名前を呼んだのは誰か?お母さんの子供であるお兄ちゃんだった。


「!!!ま、まな、と?」


「どうかしましたか?」


お母さんが目に見えて動揺している。私だってそうだ。


「え、お、お兄ちゃん?」


それで半年も無視してしまっていて罪悪感でいっぱいだった私がお兄ちゃんに話しかけることが出来たのかもしれない。こんなこと思ってはダメだとは分かっているが、嬉しかった。


「なんですか?奈那さん」


でもそんな感情はすぐに絶望へと変化した。敬語に名前にさん付け。もはやただの他人だ。


「な、なんなの?その他人行儀な喋り方…」


他人行儀という表現が1番いいだろう。まさしくこれは他人なんだから。


「何って、俺に家族と呼べる人達は居ませんから」


そして全てを悟った。私の今までの行動が今の結果を招いているのだと。


「ね、ねぇ、愛斗。どうしちゃったの?」


「そ、そうだよお兄ちゃん。そんな喋り方やめてよ」


それはお願いではなく懇願だった。お願いだからそんな喋り方しないで欲しい。


「自覚しただけですよ。俺は誰にも愛されることがないと」


「どうしてそんなふうに思ってるの?!」


そんなことない!私はお兄ちゃんのことが大好きなんだ!

そう声を大にして叫びたいのにやはり罪悪感がそれを許さない。


「どうして、ですか。真希さんが散々教えてくれたじゃないですか。いつも俺より仕事優先のあなたが。奈那さんも教えてくれましたよ?半年も前から俺のことを無視してますし」


「違うの愛斗!それは!」


「わ、私もそんなつもりで無視してたんじゃ…!」


私はただお兄ちゃんにもっと構ってもらいたかっただけ。でもそれが嫉妬に変わってしまって今の現状を生み出している。


「安心してください。もう二人のことなんてなんとも思っていないので今更取り繕おうとしなくて良いですよ」


「っ!お願い愛斗、そんなこと言わないで…」


「お兄ちゃん、私が悪かったから!謝るからやめて!」


私が悪かった。それは本当に思っているが心の底ではもうちょっと構ってくれても良かったんじゃないかと思ってしまっている自分がいる。


「落ち着いてくださいよ。分かってますって。二人には迷惑をかけないのでこの家に居させてください。お願いします」


でも目の前で深々と頭を下げいるお兄ちゃんを見て私が悪かったんだと、心の底から思うことが出来た。


「そんなことしなくてもここはあなたの家よ!」


「お願いだからいつものお兄ちゃんに戻ってよ!


いつものお兄ちゃんを消してしまったのは私自身だ。そう分かっていても願ってしまう。


「いつもの俺…どんな人だったんですかね」


いつものお兄ちゃんは優しくて頼りがいがあって、でも少し危なかっしいそんな愛おしい人だった。目の前にいるのは全てを諦めてしまった一人の男の子だった。


「もう学校に行きます。あ、ここに住ませてもらってるだけでありがたいので朝ごはんのお金は必要ありません」


ダメだ。ここでお兄ちゃんを行かせてしまったら取り返しのつかないことになってしまう。


「待って!」


「お兄ちゃん!」


私は玄関から出ていくお兄ちゃんを引き止める術を持っていなかった。

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