表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき2

始めましょう

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくななじゅう。

 


 ――目が覚めましたか?……あぁすみません、今それを取りますね。行動の自由は許せませんが、視界の自由は与えておきますから。視界が慣れるのに少々時間がかかるかもしれませんが、我慢してください。その程度の我慢は出来るでしょう?


 ――はい、どうぞ。……おや、そんなに眩しかったですか。まぁ、数秒前まで目隠しして真っ暗なものしか映していなければ、この光は少々強いかもしれないですね。一応前置きはしたつもりですが……それぐらい我慢しろと。そんな簡単なこともできないんですか?目隠しを取ったぐらいでギャーギャーと……。


 ――ははぁ……やっぱり、かなり甘やかされて今まで生きてきたんでしょうねぇ……。この数秒ですら我慢できないなんて。目が慣れ始める前に暴れるもんじゃないですよ?まだここがどんな場なのか理解もしていないくせに。抵抗したら殺されるとか、思わないんですか……後ろ手に縛られているというに。危機感がないですねぇ…羨ましい限りです。


 ――さて、そろそろ視界は慣れましたね。……あぁ、あんな脅し文句を言っておいて、何もない場ですみませんね。ただの一般人な身の上なもので、そんな大仰な舞台設定なんてのはできませんよ。その辺にいるような平凡な一般市民は、あなたをそこに縛るだけで精一杯です。


 ――おぉ……1対1だと分かった瞬間に吼えますねぇ。なんです。常に自分が優位の位置にいると思ってるんですか?脅せば怯えるとでも思いましたか?残念ながらそんなことで折れるほどか弱くできてないんですよ。申し訳ありませんねぇ。まぁ、あなたは昔からそうでしたからね。もう見飽きましたよ。


 ――おや……ご存じない…この顔を?……まぁ、あの頃からかなり月日が経ちましたし。お互い大きくなりましたから、見目は多少変わっているかもしれないですし。髪形変えるだけで、印象が変わるぐらいですもんね。服装もまぁ、それ相応のものですし…こちらも昔とは印象が変わってしまうでしょうね。


 ――あぁ、あなたを忘れたことはないので、勘違いなんてことはないんですよ。ちゃんとお財布の中身も確認させてもらいましたし。いい財布つかっているようで……車の免許、取られたんですもんねぇ。色々便利になりました?今度取ってみますかねぇ。


 ――なんですか?まだ分からない?はぁ……残念です。いやいや、覚えていて欲しいとは思ってはいませんが、見れば思いだすぐらいにしてほしかったですねぇ。昔のあれこれと一緒に忘れたのでしょう、どうせ。


 ――昨日のことのように思いだせますよ。


 ――あなたの顔も。


 ――昔あったことも。


 ――負わされた傷も。


 ――なんの話かって……いい加減自分で考える努力をしてくれませんか。怒鳴ってばかりじゃ何も始まりませんよ……今までどんだけ周りに甘えてきたんですか。考えもしないままにここまで生きてきたんですか。素晴らしいですね。人生イージーゲームだったでしょう。


 ――まぁ、だからこそ。他人にどうこうできるし。


 ――その後を考えられないから、あんなことができたんでしょうけど。


 ――はっ…まさに忘却の彼方って感じですねぇ。ん?言葉の意味が分かりませんか?おバカなんですね……なんです……記憶喪失にでもなったんですか?気取っているんですか?きれいさっぱり忘れたんですか。こっちの方が、あんな記憶忘れて捨てたいところなんですけど。こんな年になってまで、持っていたくはないですよ。いいですね、お気楽で。何も知らないままに。こんなに甘やかされて生きてきて。


 ――こっちは、一生抱えたまま生きていかないといけないってのに。


 ――のうのうと、何も知らない顔で、平然と。ホント、イライラしますよ……なんですか、何か思いだしましたか?


 ――は?まだ何か叫ぶんですか。今の自分の状態分かってますか。なんでそこから立ち上がれると思ったんですか。なんで縄と解くと思ったんですか。甘ちゃんですね。どこの嬢ちゃん坊ちゃんですか。……失礼。これでは世のお坊ちゃまお嬢様に怒られますね。


 ――うるさいですよ。


 ――えぇ、そうですよ。そうやって静かにしててください。別に傷を作ってやろうとかは思っていないので、安心してください。体に危害は加えませんよ。そんな見え見えの怪我をしたところで、あなたみたいなのは、治るのと一緒に忘れてしまいそうですし。それでは意味ないんですよ。……まぁ、場合によっては少し怪我をするかもしれませんが。


 ――もうこれ以上話す事はないですね。時間の無駄になります。


 ――あなたは、そこに黙って座って。


 ――治らない傷を。一生治らない傷を。その心臓に刻む傷を、負ってくれればそれでいいんです。



 ――それでは。


 ――始めさせてもらいます。


 ――復讐を。



 お題:忘却・あなた・昨日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ