指名手配
指名手配「藤堂高虎」容疑「殺人」
近江の国某所。
「何でこんな事になってしまったのだろう。」
独りごとを呟く人物。その人物の名は藤堂高虎。
藤堂高虎「刀を持ち歩いている事が、そもそもの間違いなんだよ。自衛のためとか、武士の名誉とか世間では言われているけれども……いくさの場以外で振り回したら終わり。そう俺みたいに……。」
何やら後悔の御様子。
藤堂高虎「自分の自慢話をされるだけならまだ良いさ。真偽の程は定かでは無いが。お互い酒も入っている事ではあるし、気持ち良くなる分には問題無い。全く以て問題無い。ただ……他人を謗るような事を言ってはいけない。ましてや目の前に居る人物の事を。事実でも無い事柄を並べ立てて……。罵ってはいけない。そう。私が受けた屈辱のような事を……。」
そこで。
藤堂高虎「そりゃあ力に訴え出るさ。正すべき所は正さなければならないさ。俺の名誉を保つためにも。ただ……刀を抜いてはいけない。そして……斬り捨ててもいけない……。そう俺みたいに……。」
それで今逃げているのですね?
藤堂高虎「その通りだ。」
逃げ切れるのですか?
藤堂高虎「追っ手は何度も見た。そして実際に尋ねられた。」
どうやって危機を脱したのですか?
藤堂高虎「気付かれなかった。」
6尺3寸の大男など見逃されるはず無いでしょう?
藤堂高虎「それがわからなかったのだよ。」
どうして?
藤堂高虎「一応、羽織を裏返していた事が功を奏したのではあるのだが……。たぶん、浅井家中がそれどころでは無かったのかもしれない。」
何が発生しているのですか?
藤堂高虎「織田信長による侵攻と……。」
比叡山の焼討?
藤堂高虎「そう。その通り。今、浅井領内は混乱の只中だよ。それもあってか殺人犯。俺の事ね。の父。通常であれば連座させられる立場にある父への処分が謹慎で済んでいる。これが平和な時代であったら恐らく……。」
親子共々。
藤堂高虎「何処かに体の一部を晒される事になっておった。」
運が良かったですね。
藤堂高虎「でも仕事を失った事に変わりは無い。」