好きの気持ち
あの日、私は【恋】をした。一目惚れ。胸が熱くなった。心がざわざわと揺らいでいた。
言葉を出そうにも出ない。あと少しで、彼の袖に手が届くのに…。
≪第一章≫
私は、この春から高校生になった。教師を目指して高校受験に臨んだくらい、勉強が好き。
というより、勉強しか取り柄が無い。その事実を自分自身認めたくないが故に、共学を選んだのだけど、こんなにもガヤガヤするとは思わなかった。
こんな私でも、乙女心は健在で、好きな人くらいほしくなる年頃に差し掛かった。右を向けばカップル。左を向いてもほやほやのカップル。生きずらさすら感じた。更には、中学からの親友ですら、入学3日で彼氏デビューしてしまう始末。
帰宅後、その話をしようものなら、(学生の仕事は勉学だ)なんて言われかねない。そんなことを考えていると、親友の美樹からのメッセージが来たのか。通知音が響く。他愛もないやり取りをメッセージでしていると、寡黙な父が帰宅した。
父(ただいま。早紀…学校はどうだ?)
普段言葉もかけてこない父からの言葉に動揺が、隠せないでいた。そんな私を見かねて、母が言葉をつないでくれた。
母(年頃なんだからそんなに聞いたら可哀想よ。)
母のやさしさに助けられた。私は、あまり、言葉を出すのが得意ではない。特に理由がある訳ではないのだけど、単純に言うと、『あがり症』なのだと、幼少期に言われ続けていた。見かねた母が言葉の補足をしてくれる様になったのは、その時からだった。
母(早紀、彼氏デビューした?)
忍び足で私の背後によってきて聞いてくる姿は、幼少期の頃の親子と変わることはなかった。
早紀(できてないよ?そもそもかっこいい人いないし。)
不貞腐れた顔を覗くと、母は深いため息をついた。
母(共学なんだから、恋くらいしなさいよ?大丈夫よ、早紀は少し恋したくらいじゃ頭悪くならないから。)
早紀(そんなの分からないじゃん。もしかしたら馬鹿になるかもよ?)
母(そしたら、馬鹿になるくらい誰かを愛した証拠!)
少し誇らしげに私を見る瞳は、迷いに迷ってる私にとって、救いの目だった。母はいつでも私の味方だったのだと気付く事が増え始めていた。
家族と話しているうちに結構な時間になっていたこともあり、部屋に向かうと階段の前に父がいた。少し曇り顔で父は口を開いた。
父(無理しないで、頑張りなさい。)
その一言を置き去りにして、父はリビングへ戻った。私も声をかければ良かったと思い返したのは、部屋に入ってからだった。
しばらく、親友の美樹とのメッセージを返していると彼氏との待ち受け画像が送られてきた。
早紀(私も、彼氏作れるのかな…)
呟いてみるも残念な事実に気が付くと無性に悲しくなった。涙が出るほどではないのだが、寂しさは感じた。別に欲しい訳ではないのだけれど、心に空いた隙間を埋めたくなった。そんな悩みに圧倒され、気が付いたら朝日が登っていた。
母(早紀!起きなさい。遅刻するよ!)
バタバタと二階の私の部屋に向かって来るのがわかった。私は、すぐに起き上がり母を見た。
母(なんでそんなに目が赤いの?)
早紀(わかんないけど、眠れなくて…)
涙ぐみながら、母に訴えかける。そんな私を見て母が口を開いたのだが、優しさのあまり朝から号泣してしまった。
朝から目をはらして学校に向かうと、美樹が教室で待っていた。声をかけたいけど、かけられない。そんな立ち往生している私を見かねて、美樹が話しかけてくる。
美樹(おはよう。早紀、どうしたの?)
気にかけて声をかけてくれたはずなのに、素直に喜べなかった。何気なく言葉を交わす。少し引きつり目に答えると、美樹が少し笑みを浮かべて口を開いた。
美樹(昨日の写真がキッカケかな…?)
早紀(うん…美樹に何かって訳じゃなくて、自分にもできるのかな?って)
頭をかしげて早紀を見つめる美樹は、言葉よりも早紀の頭を撫でて、口を開いた。
美樹(大丈夫。早紀は人気者なんだよ?気が付いてないだけだよ。)
その言葉に、頭を悩ませる早紀を見てくすくすと笑う男の子がいた。
美樹(実之!何笑ってんの?)
言葉と同時に握り拳を振り上げる美樹の姿は、母の様にも見えた。実之はこのクラスで唯一誰とも仲良くならない男の子で、私は早々にいじられていた。
美樹(早紀は実之みたいな子じゃないんだからね!)
その強い口調は、出会った時から変わらなかった。安心感が不思議に感じる。私は何を考えているんだろう。
早紀(おかしいよね?美樹を羨ましく思うなんて。好きな人がいるわけでもないけど。)
美樹(おかしくないよ!恋してみたら?)
美樹の後押しもあり、学校を見回りかっこいい人探しをすることになった。はずなのに、
美樹は彼氏さんとくる始末。
早紀(ホントに仲いいんだね。)
美樹(うん。なんか違和感感じなくて。前からの知り合いみたいな感じ。)
何となく、私も納得していた。似たような感覚が私にも感じることがあるから。他愛もない会話でも違和感も不信感もない、そんな存在。
ドン! (通りすがりの生徒と接触する。)
膝を強く打ったのか、立ち上がれない。こんな時に涙がこぼれる。
生徒A(大丈夫?)
気を使って手を差し出す生徒に更に悲しさがこみ上げる。その後ろから足音がした。
実之(兄貴。女の子には優しくしないとだよな?)