流れ星を見に、
「流れ星を見に行こう」
外が暗くなる少し前、貴方が迎えに来てくれた
車からわざわざ降りた貴方は私のために
助手席のドアを開けてくれた
流星群でも何でもない日
私は始めから流れ星を諦めていて
でも、私の心はときめいていた
貴方が誘ってくれたから
外灯はぽつりぽつり
うねった山道を進む
はしゃいで、私ばかり喋っていることに気付いて
いつしか車内の会話は消えた
うねった道はうねることをやめない
繰り返すカーブ、減速と加速
途中からは一車線
そしていつしか舗装が消えた
ニコリともしない貴方の横顔を窺う
いつが頃合いだろうか
ブレーキを踏み、速度を下げるタイミングを見計らう
貴方の横顔に恐れを感じて……
今だっ
扉を開けて、転げ出る
キギィーーーー、車のブレーキ音
私は痛い体にムチ打って、走る、走る、走る
走る走る走る走る走る転けたっ、痛いっ、でもっ
起きる、走る、走る、走る走る走る走る走る走る
とにかく逃げて、逃げて、逃げて
荒い呼吸を手で握り潰すように
心臓の上で固くした手を胸にきつく押しあてた
もう片方の手でお腹をさする
ごめんね、ごめんね、ごめんね、苦しいね
木の側にしゃがんで隠れ、ただじっと、息を潜めた
通り抜ける夜風、草木のさざめき、虫の声
自分の心音、全てに怯えた
何も見たくなくて
瞼の隙間から入る光すら見たくなくて
ギュっと目を閉じた
次に目を開けると、辺りはまだ薄暗く
おそらくは明け方なのだろう
早く家に帰りたい
助けを求めたい
山をおりたい
警察に行きたい
病院に行きたい
もう、いい、かい?
まぁ、だだよ
もう、いい、かい?
まぁ、だだよ
まだだ、まだだと、逸る気持ちをどうにかなだめて
もう、いいよ
辺りの様子に目を配りながら、体勢は低く
慎重に、そっと、そっと、足を踏み出す
パチリ、私が枝を踏んだ音
シャシャ、私が草を踏んだ音
パキッ、私が枝を踏んだ音
サシャシャシャシャシャ、この音は……何?
ガシッ、私の手首をつかむ貴方の手は
私よりももっとずっと大きな手
薬指にはシルバーの輪っかがはまっていて
結局そういうことなのだ
反対の手にはロープが見えた
「見つけたよ、やっと……」