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おや、速いな。

 やあ、諸君。私だ。怪人アンサーだ。突然だが、最近私は機嫌が悪い。理由は知識探求の件だ。折角凶暴な奴に挑もうと思って心の準備をバッチリ済ませているというのに、前回の対象者も前々回の対象者も平和的だったり残虐行為を好んでいなかったりと凶暴性とは無縁。【発狂】やら【あなたの後ろ】やら怖いワードに紐づいている都市伝説に絞って頑張っているのだから、いい加減身の毛もよだつような恐怖を与える奴らのお目にかかりたいのだが。

 ということで、今日は北海道の室蘭市にやってきた。なぜこのクソ寒い時期に、と思うかもしれないが、知識探求の為には労力を惜しまないのがこの私、怪人アンサーだ。今回の探求対象は他の奴らとは明らかに一線を画した特性を持っている。凶暴であることが望ましいが、凶暴でなくとも面白い情報が得られる可能性が高い。ということで、第5回の対象者は【テケテケ】だ。


              ※  ※  ※


 テケテケは元々人間の女子高生だった、上半身だけの化け物だ。室蘭市の踏切で電車に轢かれて上半身と下半身に分断された、その上半身部分の霊とされる。自らの下半身を探す、若しくは人間の殺戮そのものを目的として腕を高速で動かしテケテケと音を立てながら爆走するその姿は、見るものを恐怖に陥れるだろう。


「で、テケテケの話をする為だけに僕を呼び出したの?」


 露骨に不機嫌そうな声色のさとるくん。今回テケテケに会うにあたって、私以外の誰かが必要だったので呼びつけたのだ。


「いつ出現するか分からない都市伝説を求めるな、と言ったのはさとるくんだろう。テケテケなら語ればほぼ確実に会える。」

「おじさんの家の近くで呼び出してくれればいいのに、何で室蘭なのさ……寒いし、そもそもテケテケは室蘭に出現する訳じゃないよね……はあ、もう帰りたい。」

「どうせなら発祥の地で話を聞きたいじゃないか。それより、早く帰りたいならさっさと話してくれたまえ。」

「はいはい。えーっと……」


 さとるくんは不服そうにしながらもテケテケについて語り出す。私の知っている情報ばかりだが、それでいい。テケテケの話を聞くと、テケテケは3日以内にその話を聞いたもののところに現れるのだ。確実に会う為には誰かに語ってもらう必要がある。


「10円で呼び出せるからって便利使いしないでよ……ということで、テケテケは今も自分の下半身を探している、と。これでいいよね。」

「ああ、迷惑をかけたな。」

「同情するならもっと金をくれ、って言いたいよ。10円じゃ釣り合わない。」

「10円で呼び出せる、というのがさとるくんの根幹だ。それはいくら全知全能の私といえどもどうしようもない。」

「まあ、おじさんならそう言うよね。兎に角、僕は帰るよ。バイバイ。」


 さとるくんの気配が一瞬にして消えた。撤収が早いのはいつものことではあるが、今回はいつにもまして早い。室蘭に呼び出されたことがよほど嫌だったんだろう。今度ご機嫌を取っておくか。


「まあ、今回テケテケが会いに来るのは3日以内というだけでいつ来るかはわからん。気長に待つとしようか。……ん、電話だな。もしもし。」

『も、もしもし?』

「私に繋がるとは運がいいな。君は知識を求めているのだろう? 何でも聞いてみたまえ。怪人アンサーの名に懸けて、瞬時に答えを導き出してみせよう。」

『本当に、何でも答えてくれるんですか?』

「うむ。とはいえすぐに信じられぬのも無理からぬことだ。お試しでいくつか質問してみるといい。」


 近日中にテケテケに出会えることが確定している為、私は気分が良い。少なくとも、愚鈍で蒙昧な人間の確認行為に付き合ってやろうと思うくらいには。


『えっと、じゃあスリランカの首都の名前を。』

「スリジャヤワルダナプラコッテだ。」

『世界で9番目に高い山の名前を。』

「ナンガパルバットだ。」

『K2の標高を。』

「8611mだ。」

『日本で一番短い川の名前を。』

「ぶつぶつ川だ。」

『日本で3番目に高い山とその標高を。』

「奥穂高岳と間ノ岳が共に3190mで3番目だ。もういいかね?」


 これではただ知識をひけらかしているようにしか見えない。


『あ、はい。』

「では本題に入ろう。制限などは特にないから、好きなだけ聞くがいい。」

『えっと、じゃあ……』


              ※  ※  ※


「では質問だ。五線譜はなぜ5本の線なのか、その理由を50文字以内で述べよ。」

『えっと……5本の線が人間の声域を表すのに丁度いいから?』

「残念、外れだ。では、今から行く。」


 喜ばしいことに、今回の対象は知識が足りなかったようだ。私はさっさと相手の足をもぎ取ると、電話を切る。


「ねえ、おじさん。」


 私が足を持ったままその場に佇んでいると、突然声をかけられた。人の足を持って佇む輩に声をかけるなど、只者ではない。精神異常者や何も考えていない阿呆という可能性もあるが。


「ねえ、おじさんってば。」


 考えを巡らせているともう一度声をかけられた。徐に振り返ると、そこにいたのは可愛らしい顔をした女子高生。人間の尺度で言ったらかなり美少女の部類に入るだろう。ついでに幼げで、庇護欲をかきたてるような見た目でもある。身長も普通の人間の半分程度しかない。


「随分と早いお出ましだな。まだ1時間も経過していないのだが。」

「早い方が良いんじゃない? 私もおじさんも望みが叶う可能性があるから目的は一致してるし。」


 女子高生はにこりと笑った。そこは普通の人間と何ら変わりない。だが……


「だからってこんな白昼堂々出てきてもいいのか? 下半身が無い状態で這いずり回っている完全なる化け物が人目に付く場所に出てきたら君は被害を被りそうなものだが。」

「ちょっと、化け物って言い方は酷くない? わたしはただ下半身が無いだけの人間よ。」

「下半身がなくなったら普通の人間は即死だ。テケテケのように上半身だけで生き残ることなど不可能なのだよ。なぜ生き残れているのか、小一時間程問い詰めたいところだ。」

「私だってテケテケになりたくてなった訳じゃないし、そんなこと言われてもね……」


 下半身が無い女子高生……テケテケは溜息を吐いた。私と話す為に上半身を立てている為、切断面がアスファルトと接地しているのだが、その辺は気にしていないようだ。


「しかし、まさか全知全能で知られる怪人アンサーともあろう御方が私みたいなどうでもいい存在に会いたがるとは思わなかったわ。」

「私は都市伝説に関する情報を知ることで、知識に磨きをかけたいのだよ。テケテケとて立派な都市伝説だ。どうでもいいなんて自分を卑下しない方が良いぞ。」

「私にとっては本当にどうでもいいのよ。さっさと下半身を見つけたいし。」

「ほう、君は下半身を探し回るタイプか。」


 このテケテケは下半身を見つけたい、と言った。ということは、下半身探す派で人間殺戮派ではない。どうやらまたしても外したようだ。運が悪いな。


「タイプ、ってどういうこと? 私以外にもテケテケがいるの?」

「ああ。テケテケには下半身を探し回るタイプと人間の殺戮を目的とするタイプの2種がいる。君は前者だな。」

「へえ、そんな物騒なタイプもいるのね。流石怪人アンサーさん。私ですら知らないことを知っているなんて、これだから天才は違うわね。はあ、私にもアンサーさんくらいの知能があればな……」


 沈んだ顔になるテケテケ。しかし、それは一瞬のことですぐにいいことを思い付いたような笑顔になる。


「そうだ、ねえ、アンサーさん。私の下半身のありかを教えてくれないかしら?」

「君の下半身のありか? 教えてもいいが、私にメリットが無い。」

「いいじゃない。代わりに、アンサーさんが知りたい私のこと、全部教えてあげるから。」


 なかなか魅力的な提案だ。テケテケ本人からテケテケ発祥地でテケテケについての全てを語ってもらえる、こんなチャンスはなかなかないだろう。


「よし、ならば答えよう。君の下半身は……」

「…………」

「ない。残念だったな。」

「は? え、ちょっ、どういうこと?」


 狼狽えるテケテケ。だが、私は真実しか伝えていない。


「言葉の通りだ。もう君の下半身はこの世界のどこにも存在していない。恐らく電車に撥ねられた瞬間にその衝撃によって爆発四散したか、助かる見込みがないからと回収され燃やされたか……いずれにせよ、もう君の下半身はない。現実を受け入れるんだな。」

「そんな……じゃあ、これまで私は一体何の為に……」


 呆然自失となるテケテケ。少し可哀想な気もするが、ここで無駄に期待を持たせてこれからも無為に過ごさせるくらいなら、ここでバッサリと断ち切っておいた方が良い。今は辛いかもしれないが、そのうち慣れるだろう。そもそも、これまでも下半身が無い状態で動き回っていたのだから。


「これからは時間をもっと有意義に使いたまえ。何なら人間殺戮派に鞍替えするのはどうだ? 君がもしそうしてくれるなら私も嬉しいのだが。」

「それは嫌。別に人間を憎んでる訳でもなければ、人間が嫌いな訳でもないし、そもそも私は人間だし。」

「君は人間ではなく元人間で、今は怪異だ。その点はもう受け入れろ。」

「それはそうだけど……アンサーさんに人の心ってものはないの? 少しくらい同情してくれたっていいじゃない。」

「私は人ではないから、人間しか持ち得ない人の心などはなから持ち合わせていないな。同情はできないこともないが、意味がないだろう。」


 テケテケに私が形だけの同情をしてやったところで空しいだけだ。彼女の下半身がそれで復活する訳でもないのだから。


「それもそうだけど……じゃあアンサーさん、足をくれない? さっき持ってたでしょ?」

「先程持っていたのは男性の足だ。君には適合しない。」

「じゃあ、他のでいいから。アンサーさんなら女子高生の下半身の1つや2つ、持ってるでしょ?」

「持っていないとは言わない。だが、君の為にコレクションを放出するメリットは薄い。」


 実際のところ、テケテケに女子高生の下半身をやることくらい訳はない。だが、私が苦労して回収したものなのだから、ただで渡す訳にはいかない。何より、そんなことをしたらテケテケはテケテケでなくなってしまう。


「アンサーさんってケチなの?」

「ケチではない。合理主義なだけだ。まあ、君を不憫だとは思うが……」


 私はそこまで言って、ふと思い出した。テケテケの下半身ではないが、下半身みたいな奴がいることを。テケテケだけでは探求できる知識の量もたかが知れているが、奴を加えれば私の知識欲を満たせるかもしれない。


「どうしたの、アンサーさん。急に黙り込んで。」

「少し考え事をしていただけだ。それよりテケテケ、取引をしないか?」

「取引?」

「ああ。君が今ここで全速力で移動して、その速度を私に知らしめてくれたら、君に適合するかもしれない下半身と君を引き合わせてやろう。」

「っ! 本当に?」

「私は嘘は吐かない。だが、それは君が全速力で移動してくれたらの話だ。君の速度は知っているが、実際に見るのは初めてだからな。テケテケの伝承発生地で見てみたいのだよ。」

「分かったわ。そのくらいでいいなら喜んで。」


 テケテケは頷くと、クラウチングスタートのような体制を取り、爆発的な瞬発力を発揮して移動し始めた。腕を高速回転させ、上半身と下半身の分断面を浮かせて雪を撒き上げながら進む。目で追うのも大変になるほどのスピードで、テケテケテケテケと音を立ててながら進む姿は正に化け物。こんな奴にいきなり出くわしたらさぞ恐ろしいことだろう。しばらく移動し続けたテケテケは、段々と速度を落とし始め、私の足元で止まった。少し息切れしているようだ。


「はあ、はあ……これが私の全速力よ……どう、アンサーさん。満足した?」

「ああ、やはり伝え聞くのと自分の目で見るのとでは感じ方も違うものだな。満足だ。」

「じゃあ、約束は守ってね?」

「勿論だとも。では、行こうか。」


 私は次の探求対象を探しにテケテケを連れて歩く。最高の知識を得ることもできたから、約束は果たしてやるべきだな。しかも、私の知識にさらに磨きをかけることにも繋がる。私は薄く笑みを浮かべた。


 ……テケテケの全速力は上半身だけとは思えない程に【速い】。

No.008 【テケテケ】

禁忌:追い払う呪文を覚えずにテケテケに関する話をする

 腕を高速で動かし、テケテケと音を立てながら時速100~150kmで移動する、上半身のみの女子高生の霊。北海道室蘭市の踏切で電車に撥ねられた女子高生が上半身と下半身に分断された際の上半身部分の霊とされる。遺体の下半身が見つからなかった為自分の下半身を探しているパターンと、まだ生きている自分を見捨てた人間を恨んで人間の殺戮そのものを目的としているパターンの2パターンがいる。この話を聞いた者のところには3日以内にテケテケが出現する。逃げても上述の通りあり得ない速さで追いかけてくるため逃げ切ることは不可能。追い払う呪文を覚えていないと恐ろしい目に遭う、若しくは殺されるという。異様な姿と異様なスピードだが顔は童顔で可愛らしいとされ、追いかけてくる際には笑顔を浮かべている。上半身だけの為、バランスが取り辛く階段を上ることができない。尚、上述の踏切事故が起きた際、あまりの寒さで切断面が凍結し出血が止まったのでしばらく生きていた、即ち楽に死ねず苦しんだ、とされるが、実際には冬の北海道の気温程度では人間の体温下で切断面を凍結させることはできない。また、電車に撥ねられた場合は細かな肉片へと爆散し即死する為、上半身と下半身に分断されるという事象自体まず起こらない。

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