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やあ、甥っ子よ。

 やあ、諸君。私だ。怪人アンサーだ。おや、携帯電話での儀式をしていないのに私がいることが不思議のようだね。だが、それの答えは簡単だ。最近は儀式を行って私を呼び出そうとするものが少ないから退屈でね。それに、私とて年がら年中引きこもって電話の受け答えをしているだけでは折角の知識が錆びついてしまう。ということで、知識の収集を兼ねてたまには外出でもしようかと思ったのだよ。

 風の噂で聞いたのだが、どうやら巷では「都市伝説」なるものが流行っているようだね。何? 流行遅れ? 仕方ないだろう。私は滅多なことでは外に出ないのだから、流行には疎いのさ。まあ、それはさておき、よく考えたら私は都市伝説をあまり詳しく知らないということに気が付いてね。まあ、私は全知全能であるから知識自体はあるが、答えにくいことももちろんある。ということで、都市伝説を名乗る連中に私自ら会いに行って、知識の質を上昇させることにしたのさ。

 さて、今回会いに行く対象だが、やはりここは私と似通った性質を持つ都市伝説がいいだろう。ということで、記念すべき第1回の対象者は、私の甥っ子。名前は「さとるくん」だ。


              ※  ※  ※


 さて、では早速呼び出すとするか。さとるくんは私の甥っ子だけあって、呼び出し方も私と似ている。電話を使うのだ。携帯電話ではなく公衆電話でなくてはならないがね。よし、十円玉を入れて私の携帯電話の番号を押し……


「さとるくん、さとるくん、おいでください。」


 これでよし。あとはさとるくんから電話がかかってくるのを待つだけだ。彼は私のように性根がひん曲がっている訳ではないから、今から24時間以内に必ず電話してくれるだろう。電話がかかってくるまでは暇だから、この辺りを探索しつつ待つとしようか。


 ――プルルルル、プルルルル


 おや、もうかかってきたか。いやに早いな。さとるくんも暇なのだろうか。そう思いつつ電話に出る。


「もしもし。」

『も、もしもし。』


 ん? さとるくんではないな。彼の台詞ではない。となると、知識を求めるものだな。


「どうしたんだね? 知識を求めるているのだろう? 何でも聞いてみたまえ。私の名に懸けて、何でも答えて見せよう。」

『何でも……本当ですか?』

「おや、疑うのかね。君は充分不可解な現象に立ち会っていると思うのだが……まあ、私は君の質問に答える義理などない。疑わしいというのならばいい。私の大切な時間を無駄に浪費させたということで、代償だけ頂こうか。」


 疑われるのは常なので、普段はここまでつっけんどんな対応はしないが、今の私は探索を邪魔されたせいで機嫌が悪い。


『え、あ、ま、待ってください! 信じます、信じてますから……』

「ならばさっさと質問をしたまえ。私だって暇ではないのだよ。」


 低能で愚鈍な奴に真面目に対応するのは面倒だが、仕方がない。良くも悪くも暇つぶしにしかならないとはいえ、こんな相手ならば確実に代償を取れるだろう。激レア確定ガチャを回すようなものだからな。質問には付き合ってやるとするか。


              ※  ※  ※


「では質問だ。12月17日21時19分27秒の1万5000秒後は何月何日何時何分何秒か10秒以内に解答せよ。」

『はい?』

「12月17日21時19分27秒の1万5000秒後は何月何日何時何分何秒か10秒以内に解答せよといっている。さあ答えよ。」

『そんなことすぐには……』

「時間切れだ。では、今から向かう。」


 私は質問に答えられなかった質問者にそう告げると、さっさとディスプレイから腕を出し、相手の体の一部をもぎ取った。


「私の性格の悪さくらい知っていればこのような目に遭うこともなかっただろうに。愚か者め。」


 分不相応な知識などを求めるからこうなるのだ。私に電話するならば、せめてそれなりの知恵をつけてからにすればいいものを。


 ――プルルルル、プルルルル


 おっと、また携帯電話が鳴った。


「もしもし。」

『もしもし、さとるだよ。今、××駅の前にいるんだ……って言うべきなんだろうけど、面倒臭いし端折ってもいい?』

「……さとるくんに都市伝説としてのプライドとかはないのか?」

『僕の出現方なんて勝手に定められただけだよ。それより、いいの? ダメなの?』

「まあ、私は構わないが。」

『じゃあ、お言葉に甘えて。もしもし、さとるだよ。今、おじさんの後ろにいるんだ。』


 さとるくんは自分を都市伝説たらしめる根幹を全力で無視した。本来彼は電話をかけながらだんだん近付いてくるのだが……まあ、私のように気分で着信拒否できる訳ではなく、呼ばれた時点で強制的に召喚されてしまうのだから、このくらいの我が儘は聞いてあげるべきだろう。


「もう声が届く距離だし、電話じゃなくていいよね。でも、おじさんが僕に電話するなんて珍しいんじゃない?」

「まあ、確かにそうだ。さとるくんとはここしばらく会っていなかったな。」

「あらゆる知識を所有している全知全能たるおじさんが僕を呼んだ理由は? おじさんは怪人アンサーだからいいけど、もしそうじゃなくて何でも知識を持っている『人間』だったら僕を怒らせてるよ。」


 さとるくんは「あなたの後ろにいる」となった時点で質問すれば、その質問に答えてくれる。但し、彼に質問する際に犯してはならない禁忌がある。さとるくんが「後ろにいる」状態で振り返ることと、自らが答えが分かっている質問をすることの2つだ。私は心が広いからケーキはどんな味か、と聞かれたら甘いと答えるし、東京タワーの高さは、と問われたら333mと答える。だが、さとるくんにこういう質問をすると怒ってしまうのだ。


「まあ、そう言うな。私にだって答えにくいことがあったりする。こと都市伝説に関してはね。」

「おじさんだって都市伝説の癖に……」

「答えが明らかになっていないものに関しては答えにくいものさ。例えば、さとるくんの姿とか。」

「そんなの、今おじさんが振り返れば分かることだよ。」

「残念ながら、私は禁忌を犯す気はないのだよ。」


 さとるくんが溜息を吐く気配が背中越しに感じられる。どうやら私の無駄な頑固さに呆れているようだ。


「うん、そうだよ。」

「サラッと私の心を読んだな?」

「うん。おじさんだって分かってて考えてたんでしょ? 僕は『さとり』の一種でもあるんだから。」


 覚というのは対象の心を読むことができる妖怪だ。さとるくんは覚と同様に対象の心を読むことができる。そもそも『さとるくん』という名前も覚から取られて付いたのだ。


「それよりおじさん。僕に何か質問があるの? おじさんが知らないことは多分僕も知らないよ?」

「いや、1つだけある。さとるくん、君はどんな姿をしているんだい?」


 私のこの質問に、さとるくんは息を飲んだ。


「……質問されたから答えるけど、それは秘密。じゃあ、質問も受けたことだし僕は帰るよ。十円はもう回収したから。」

「……悪かったな、こんなことの為だけに手間をかけさせて。」

「ううん、僕も久しぶりにおじさんと話したかったからいいよ。僕からの連絡は不可能に近いし、おじさんから連絡が来るまでまたしばらく会えなそうだね。」

「まあ、気が向いたらまた呼ばせてもらおう。」

「あ、そうだ、おじさん。ついでだから1つ聞いていい?」


 おや、さとるくんが質問とは珍しい。折角だし答えてあげようか。


「いいとも。何でも聞いてくれたまえ。」

「うん、じゃあ質問。怪人アンサーさん、さとるくんってどんな姿をしているんですか?」


 さとるくんが笑いを堪えている気配を感じる。だが、その答えは今さっきさとるくんが教えてくれたばかりだ。


「問われたならば答えよう。その答えは【秘密】だ。」

「へえ、不明じゃないんだ?」

「ああ、不明ではなく秘密だ。何せ、何にでも答えてくれる彼自身がそう言っていたのだからな。」


 さとるくんが笑顔になっている雰囲気が伝わってくる。どうやらお気に召したようだ。


「おじさんもユーモアってものを覚えたみたいだね。」

「さとるくんは私に新たな知識を1つ提供してくれたのだから、ユーモアの1つくらい言ってあげるのが礼儀さ。」

「問答無用で体の一部をもぎ取るおじさんにも人並みに礼儀の意識なんてあったんだ。」

「失礼な甥っ子だな。君の携帯から今すぐ腕を出して腕やら足やらをもぎ取ることだってできるんだぞ?」

「ひゃあ、怖い。じゃあ僕は失礼しようっと。」


 この言葉と共にさとるくんの気配が消えた。振り返ってみたが、誰もいない。


「まあ、有意義な時間だったな。」


 私は誰にともなくそう呟き、さとるくんについて得た新たな知識を噛みしめるのだった。


 ……さとるくんの姿は【秘密】。

都市伝説ファイル


No.003 【さとるくん】

禁忌:答えが分かっていることを聞く

   さとるくんがいる状態で後ろを向く

 公衆電話を用いた儀式によって呼び出すことができる正体不明の存在。公衆電話に10円を入れ、自分の携帯電話に電話を掛け、「さとるくん、さとるくん、おいでください」と言うと、24時間以内に「さとるくん」を名乗る存在から携帯電話に電話が掛かってくる。電話が掛かってくるたび、さとるくんはどんどん近付いてきており、最終的に後ろまで来る。この状態に到達することで、どんな質問にも答えてもらえるが、後ろを振り向いた場合はさとるくんによってどこかに連れ去られてしまう。また、答えが分かっている質問をすると、さとるくんが怒ってしまうという。

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