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竜宮の井戸  作者: 蔭西三郎(kagerin)
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第18話・祖母たちとの出会い。


 街を進むと、広い場所に出た。広場の正面は一段高くなっていて、案内の娘達は、二人をそちらに誘導した。

そこには左右に二人ずつ、四人の伴を従えた高貴な女性が待っていた。高貴な女性は、白い着物に緋色の袴を着けた巫女の姿だった。

白い着物は海女装束とは違い袖が長く優雅に垂れていた。頭に付けた丸い金の飾りが一際目を惹くその顔は、二人のよく知っている顔だった。



「比奈子!」

 驚く二人に、比奈子は頷くとゆっくりと喋った。

「琴代、清美、ようこそ竜宮城に」

 その声は厳かで神韻としていたが、懐かしい比奈子の声に違いなかった。


「ここは、あると信じる人だけが見られる幻の世界よ。現実の世界とは違います」

「幻の世界・・・」

「でも、あたしたちは、実際にここに来た・・」


「そう、二人は竜宮井戸があると信じた。だからここに来る事が出来た。ここは、時間も空間も超越した世界です。二人が昔の事件を探っていると聞いて、私が連れて来て貰ったのです」

「・・・私達、比奈子に連れて来られたの?」


「そう。その時に起こった事件の事は、ほとんどの人が知らない。誰も知らないと言っても良い。ただ、米子お婆ちゃんを除いてはね。だから、町の人にいくら尋ねても無駄でした。ですがあなたたち二人は、その事をいずれは知って貰う必要がありました。だから、それを説明するために、私がここに招きました」

「米子お婆ちゃんは、やっぱり行方不明になった海女の一人・斉藤よね子さんだったの?」

 琴代は、比奈子の言葉を聞いて問い返した。


 比奈子は頷いて、後を振り向いた。

すると、彼女に従っていた内の一人が前に出て来た。それは、清美によく似た体つき、丸い顔も清美の雰囲気に良く似ていた。


「清美、わたしが斉藤よね子よ。もっとも、あなたのお母さんを産むのは、まだ十年も先の事なのだけれど・・」

「うっそー」

と、清美が声を出した。

琴代も瞬間、背中に電気が走った。

その人の声は見掛けどおりの若い声だった。だが、確かに米子お婆ちゃんの面影があった。


「光子お婆さん、勝代お婆さん・・・・」

 四人の内の他の二人にも、見覚えがあった。

十年ほど前に亡くなった山形勝代お婆さんと三年前に亡くなった伊集院光子お婆さんだ。光子お婆さんは、比奈子の実の祖母だった。

「・・・と言う事は、比奈子の後の人達は・・」

と、清美が呟いた。


「そう、あの時の事件で行方不明になった四人の海女たちです。実は彼女達は、生きていました。三人はそれぞれの寿命を全うして、亡くなりました。米子さんはまだ生存しています。昭和二十二年の六月に何があったか知って貰う為に、私が彼女たちをお呼びしました」


 残りの一人に琴代の目がいった。

すらっとした姿、細面の顔立ちは、確かに自分に似ていた。「琴代は、お母さんの若い時によく似ているわ・・」と、母がこの頃の琴代を見てよく言っているのだ。


 一歩前に進んで来たその人が、琴代に向かって言った。


「あなたが私の孫の琴代ね。私はさち代ですよ。あなたが生まれる年に死んでしまって会うことが出来なかった。こうして会えて嬉しいわ。ほんと、和子が言うとおり、私によく似ているわ」


とても慈愛に籠もった目だった。

琴代はその人から目を離すことが出来なかった。


「お・おばあさん・・・」

 琴代は思わず、壇上にいるさち代お婆さんに向かって進んだ。

だが、壇に上がろうとした一歩が動かなかった。そこには透明な壁があるようだった。



「ここでは、話をする事は出来ても、お互いに触れあう事は出来ないの。それをすれば、元の世界に二度と戻れなくなる。だから壁を作りました。同じ空間に居るようでも、存在している世界が違うのよ」

と、比奈子が説明した。

たしかに、亡くなった人や生きていても何十年も若い時の人に会えるとは存在している次元が違っていた。


「比奈子はここに来たのね。だから、連絡先を誰にも教える事が出来なかったの?」

 いつも三人仲良く行動していたのに、ある日突然比奈子は消えてしまったのだ。


「そうでもあるけれど、それはいずれ事情が分るときまでの事だった。それが今です。事情を知って貰えれば、以降は昔のように連絡取り合ったり、会ったりする事が出来ます」

「本当、又、昔の様に一緒に遊んだり出来るの?」

と、清美が懐かしい友に尋ねた。


「出来ます。私にも現実に生きている世界がある。それは、清美の生きている世界と同じです。だから、自由に行き来出来ます。その前に、ここに来た目的を知って貰う必要があります」

と、比奈子が言って、両手を翳して呪文の様なもの唱えた。



「・・・・・・・カシコミカシコミ、ワレオオイニネガイタテマツル」

両者を遮る壇の堺に、ぼんやりとした半透明の空気が横たわり広がった。

皆はそれを避けて丸くなった。

丸い半透明の空気の壁が、中心から割れて丸い広がりを見せた。

その中に風景が見える。

それは、岸壁にへばりつくような小さな建物だ。小屋の周りには、漂流してきた木ぎれが沢山積み上げられている。



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