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竜宮の井戸  作者: 蔭西三郎(kagerin)
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第13話・驚愕の事実



清美は体の震えが止まらなかった。

行方不明の四名の名前が一致したのだ。ここまで一致すれば、もはや偶然の一致では無い。


「米子お婆ちゃんの名前を聞いた時、嫌な予感に捕われたの。それが、帰ってきてもう一度この記事を見て・・・・・・・・」

 琴代は、あとの言葉が続かなかった。相当にショックを受けているようだ。


「そうね。これはもう間違いなさそうね。あの時に行方不明になった海女たちは、私達の身内だ。四人は京都で生きていたのね。でもどんな事情があったのかな。私が、お婆ちゃんに直接、事情を聞いてみようか?」


「・・・それは無理よ」

「何故?」


「・・消えた四人の海女さんたちが、もし普通に生存していたとすると、どう言う事になると思う?」

「どう言う事って?」

「今までは、加害者の徳永という男が娘さん達に何をしたかと考えていたのよ。ところがその娘さん達が普通に生存していたとすると・・」


「実は娘さんたちは被害者じゃなかった。すると被害者は・・・・・」

と、そこまで言って清美の体は再び震え始めた。


「そう、私達が今まで考えていたのと、まったく逆の話になるの」

「娘達が徳永を殺して財宝を奪った」


「そう、そして逃亡して行方をくらませた・・」

「引き上げた財宝は、今の会社を起こす資金になった・・・」

「と考えたら、すっきりするでしょう。そんな事、お婆ちゃんに聞ける?」


「待って、例えそうだとしても、徳永を殺したとは限らないじゃ無い。例えば意気投合して一緒に事業をしたかも知れないし、もっと言えば徳永は、私達の祖父の一人かも知れないじゃない」


「それは違うわ。そうだとしたら、身を隠す必要はないもの。海女達が生きていると言う事は、徳永を殺して財宝を奪ったのよ。それしか考えられない・・」

 琴代は実に頭の回転が早いのだ。

琴代の言う事が、もっとも合理的な考えだと清美も思った。だが、清美は、琴代の暗い考えを否定したかった。


「もし、そうだとしても、殺人の時効は確か二十五年位よ。もう事件から七十年近く経っていて、当事者は殆ど亡くなっているのよ。だから罪に問われないわよ」


「時効なんて関係無いよ。お婆ちゃんたちが人を殺して奪ったお金で私達は生きてきたのよ。京都に帰って、どんな顔をして家族に会えば良いの。私、もうおうちに帰れない・・・」

と、琴代は泣き崩れた。


 清美もそれを考えると途方に暮れる気持ちだった。自分たちの身内が犯罪者だったなんて、腹の底に重く黒いものが溜まって、足元がバラバラと崩れて奈落の底に引き込まれた感じだった。


これからはもう普通に暮らせない。

この事が明るみになれば、今の友達や世間の目から逃れて知らないところでひっそりと暮らすしか無いと思えた。それは、悲しく寂しい絶望の生活に違いない。



(・・でも、琴代もあたしも悪い事など何もしていない)

 不意に胸の内に憤然とした怒りの感情が湧いてきた。


(だったら、その時に何が起こったか、事実を徹底的に調べてやる!)


 それには、琴代の助けがいる。自分だけでは無理だ。琴代の鋭い直感力と頭脳が必要だ。だが、今の琴代は打ちひしがれてとても使い物にならない。


(なんとかしなければ・・・)


清美は何とか琴代の気持ちを静める手段はないのかと考えた。その時に脳裏に不意に比奈子の顔が浮かんだ。


(きっと比奈子なら、琴代の気持ちを静めることが出来るだろう。比奈子ならどうするだろう・・・・)


《比奈子助けて、どうすれば良い? 琴代が大変なの、琴代の気持ちを静めるにはどうしたら良いの。教えて比奈子・・・・・・・》


と、清美は頭の中で一心に念じた。そうすれば、神懸かり少女の比奈子に通じると思ったのだ。

今は何処に行ったか解らないが、小さい時に確かに一度は通じたことがあったのだ。



すると体がすこし暖かくなった。そして光のようなものと一緒に一筋の考えが飛び込んで来た。

それは幼い頃に経験したより、強く明確な念だった。清美のSOSを察知した比奈子が、今度も助けてくれたのだと思った。


(遠く離れていても、比奈子とは心が通じ合えたのだ・・・)

その事を思うと、清美の胸に暖かな感情と力が湧いてきた。


清美は、飛び込んで来たその考えを頭の中で充分に噛み締めて整理すると、言葉を選んで慎重に言った。



「待って琴代。それはあたしも一緒なのよ。琴代とあたしは同じ立場。一人じゃ無いの。ここは冷静になって事の真相を見極めようよ。良いか悪いかを判断するのはそれからで良いじゃないの。まだ謎の探索は終わっていないのよ」


 清美は、その考えを自分でも上手く言えたと思った。琴代もその言葉を考えている様子だ。


やがて、琴代の顔色が少しずつ良くなって来て、清美を見た瞳には力が蘇っていた。


「そうね。私と清美は一緒だわ。独りでは無い。それに私はもう大人、家を離れても生活して行ける。いいえ、もうとっくに自立していなければならない年よ。そう考えれば、なんて事は無いか・・」


「そうよ、琴代。なんて事は無いよ。祖母は祖母、あたし達はあたしたち。関係無いよ。あたしたちだけでも何とかなるって。今は事の真相を冷静に見極めるのが肝心よ」


「ありがとう清美。清美がいてくれて本当に良かった」

 琴代はもう大丈夫だと思った。それにしても、独りではなく琴代がいてくれて良かったと、清美も思った。


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